毎月の家賃からローン返済と経費を払うと手元のお金が減っていく――キャッシュフローがマイナスの物件は、すぐ手放すべきとは限りません。一方で、確定申告で赤字でも手元にはお金が残っている物件や、黒字で税金を払っているのに手元のお金が減っていく物件もあります。判断を誤る原因の多くは、帳簿の赤字(所得)と、お金のマイナス(キャッシュフロー)を同じものとして見ることです。
この記事では、この2つをつなぐ式と、税金を含めた計算例で、マイナスの物件を「続ける・手を打つ・売る」の判断に使う数字を整理します。
- まず3つの数字を分ける:税引前キャッシュフロー(毎月の手出し)、不動産所得(帳簿の損益)、税引後キャッシュフロー(税金の増減を入れた手元の増減)
- 税引後でプラスに見えるのは、ほかの所得と相殺できる人だけ。しかも減価償却が終わる年から、税引後もマイナスに変わりやすい
- 手出しが一時的か、構造的かを見る:空室・修繕など一時的な原因なら手を打つ。家賃に対して返済が重すぎる構造なら、返済期間の延長や売却まで比べる
- 売るなら税金を先に計算する:建物の取得費は償却した分だけ減るので、残債より高く売れなくても譲渡所得に税金がかかることがある
- キャッシュフローがマイナスの物件を、持ち続けるか売るかで迷っている方
- 確定申告の赤字と、毎月の手出しの関係を整理したい方
- 減価償却が終わった後に、税金と手元のお金がどう変わるかを知りたい方
- 返済期間の延長や繰り上げ返済など、打ち手の効果を数字で比べたい方
- 売却したときの譲渡所得の税金を、先に把握しておきたい方
- 不動産所得は「税引前キャッシュフロー+元金の返済額-減価償却費」なので、帳簿の赤字とお金のマイナスは別物です。
- 税引後のキャッシュフローがプラスに見えるのは、赤字をほかの所得と相殺でき、減価償却が続いている間だけです。
- 計算例では、税引前CFは5年間ずっと約-38万円でも、建物の償却が4年で終わる5年目から、税引後CFは約+108万円(4年目)から約-110万円に変わります。
- 建物の取得費は償却した分だけ減るので、残債より高く売れなくても譲渡所得に税金がかかることがあります。
- 手を打つときは、返済期間の延長・繰り上げ返済・家賃や空室の改善・売却を、総返済額や手元資金、売却時の税金まで入れて比べます。
- 確定申告で赤字なら、キャッシュフローもマイナスだと思っています。
- 赤字で税金が戻るので、手出しがあっても大丈夫だと思っています。
- 残債より高く売れなければ、売却しても税金はかからないと思っています。
- 税引前キャッシュフロー・不動産所得・税引後キャッシュフローを分けて計算できます。
- 減価償却が終わる年から、税金と手元のお金がどう変わるかを見込めます。
- 返済期間の延長・繰り上げ返済・売却を、総返済額や売却時の手取りまで入れて比べられます。
📊 帳簿の赤字と、お金のマイナスは別物
ローンの利息は経費になりますが、元本の返済は経費になりません(国税庁「収支内訳書(不動産所得用)の書き方」)。反対に、減価償却費は現金が出ていかないのに経費になります(国税庁 No.2100)。この2つの差で、帳簿とお金がずれます。
不動産所得 = 税引前キャッシュフロー + 元金の返済額 - 減価償却費
| お金はプラス | お金はマイナス(手出し) | |
|---|---|---|
| 帳簿は黒字 | 順調。税金を払っても手元が残るかを確かめる | 元金返済が減価償却より大きい。税金を払ったうえに手出しになる(最も苦しい形) |
| 帳簿は赤字 | 減価償却が大きい。赤字をほかの所得と相殺できれば税金も減る | 手出しがあるが、赤字をほかの所得と相殺できれば税金が戻り、税引後はプラスになることがある |
🧾 税引後がプラスになるのは、ほかの所得と相殺できる人だけ
- 不動産所得の赤字は、給与所得などほかの所得と差し引き(損益通算)できます(所得税法69条、国税庁 No.1391)。
- ただし、土地を買うための借入金の利息にあたる部分は、損益通算できません(租税特別措置法41条の4)。土地と建物を一括で買って借入を区分しにくい場合は、借入をまず建物に充てたものとして計算できます(同法施行令26条の6)。
- 相殺しきれない赤字は、青色申告なら翌年以降3年間繰り越せます(国税庁 No.2070)。
- ほかに所得がない人や、所得の少ない人は、赤字で税金が戻る効果がほとんどありません。この場合、手出しはそのまま手元のお金の減少です。
🧮 計算例:減価償却が終わると、税引後もマイナスに変わる
前提(すべて仮の数字):個人が築22年以上の木造アパートを5,000万円(土地2,000万円・建物3,000万円)で購入。借入4,500万円・金利2.5%・15年の元利均等返済。満室家賃480万円、空室損10%、運営経費110万円。建物は中古の簡便法で耐用年数4年。ほかに十分な給与所得があり、所得税と住民税の合計の税率が30%とします。
| 年 | 税引前CF | 不動産所得 | 税金の増減 | 税引後CF |
|---|---|---|---|---|
| 1年目 | 約-38万円 | 約-538万円 | 約150万円減る | 約+112万円 |
| 4年目 | 約-38万円 | 約-518万円 | 約146万円減る | 約+108万円 |
| 5年目 | 約-38万円 | 約+239万円 | 約72万円増える | 約-110万円 |
※筆者の計算。税金の増減は、土地分の借入金利子を損益通算から除いたうえで、税率30%を掛けた概算です。
毎月の手出し(税引前CF)は5年間ずっと同じですが、建物の償却が4年で終わる5年目から、帳簿は黒字になり、税金を払ったうえに手出しが続く形に変わります。「赤字で税金が戻るから大丈夫」は、償却が続いている間だけの話です。償却と返済の関係は不動産投資のデッドクロスとは?いつ起こるかの計算と回避策|2026年金利上昇下の実務【現役大家】で扱っています。
🔧 マイナスのときの打ち手と、その限界
上の例で、4年目の終わり(残債約3,460万円・残り11年)から打てる手を比べます(筆者の計算)。
| 打ち手・変化 | 年間の返済・CFへの影響 | 限界 |
|---|---|---|
| 返済期間を残り20年に延ばす | 年間返済 約360万円→約220万円 | 総返済額が約439万円増える。金融機関が応じるかは物件と借り手次第 |
| 500万円を繰り上げ返済(返済額軽減型) | 年間返済 約52万円減 | 手元の現金が500万円減る(今の手出し約13年分) |
| 金利が1%上がる | 年間返済 約19万円増 | 変動金利なら避けられない |
| 空室が10ポイント増える | 年間の家賃 約48万円減 | 家賃の見直し・募集条件・設備で戻せるか |
| 100万円の修繕がある年 | その年の税引前CF 約-138万円 | 修繕の積立てがないと手元資金で払う |
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売る場合:残債より高く売れなくても税金がかかることがある
- 建物の取得費は、減価償却した分を差し引いて計算します(国税庁 No.3202)。簡便法で早く償却した物件ほど、帳簿上の価値が小さくなり、譲渡所得が出やすくなります。
- 税率は、売った年の1月1日時点で所有期間が5年を超えるかどうかで変わります。5年以下なら所得税30%・住民税9%、5年超なら所得税15%・住民税5%(別に復興特別所得税)です(国税庁「暮らしの税情報」)。
- 土地建物の譲渡損は、給与などほかの所得と相殺できません(国税庁 No.3203)。
上の例で5年目の終わりに4,300万円で売ると、残債約3,183万円を返し、仲介手数料(税込約148.5万円)を払ったうえで、短期の税率なら税金が約853万円、手取りは約116万円になります。仮に長期の税率なら、税金は約437万円、手取りは約531万円です(筆者の計算)。売る時期が1年違うだけで、手取りが大きく変わる場合があります。


返済条件の変更(リスケジュール)
金融庁の監督指針は、金融機関に対して、中小企業や住宅ローンの借り手など個々の借り手の状況をきめ細かく把握し、貸付けの条件の変更などに努めることを求めています(「中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針」Ⅱ-4-1)。一方で、経営再建のために元本の返済を猶予した貸出は、金融機関の側で「貸出条件緩和債権」として管理されます(同Ⅲ-4-9-4-3)。条件を変更した後の新しい融資への影響を示した公式の資料は見つかりませんでした。変更を申し込む前に、次の物件を買う予定があるかも含めて金融機関と相談します。
❓ よくある質問
Q1. 毎月の手出しは少額です。持ち続けても大丈夫ですか?
A. 手出しの合計と、ローンの完済で残る物件の価値、途中で売った場合の手取りを比べて判断します。空室や修繕、金利の上昇で手出しが増える余地も見込みます。減価償却が終わる年から税金が増える点も入れて計算してください。
Q2. 確定申告で赤字です。キャッシュフローもマイナスということですか?
A. 同じではありません。「不動産所得=税引前キャッシュフロー+元金の返済額-減価償却費」なので、減価償却費が大きい物件は、手元にお金が残っていても帳簿は赤字になります。
Q3. 黒字なのに手元のお金が減ります。なぜですか?
A. 元金の返済が経費にならないからです。元金の返済額が減価償却費より大きいと、帳簿の黒字に税金がかかり、そのうえ元金の返済でお金が出ていきます。
📝 まとめ
キャッシュフローがマイナスの物件は、税引前の手出し・帳簿の所得・税引後の手元の増減を分けて見ます。税引後がプラスに見えるのは、赤字をほかの所得と相殺でき、減価償却が続いている間だけです。手を打つときは、返済期間の延長・繰り上げ返済・家賃や空室の改善・売却を、総返済額や手元資金、売却時の税金まで入れて比べます。
📖 この記事の根拠(出典・参照日2026年10月1日)
- 国税庁:収支内訳書(不動産所得用)の書き方(令和7年分)/No.2100 減価償却のあらまし/No.1391 損益通算/No.2070 青色申告制度/No.3202/No.3203/暮らしの税情報「土地や建物を売ったとき」/No.5404 中古資産の耐用年数
- 条文(e-Gov法令検索):所得税法37条・69条/租税特別措置法41条の4/同法施行令26条の6/減価償却資産の耐用年数等に関する省令3条
- 金融庁:中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針 Ⅱ-4-1・Ⅲ-4-9-4-3
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