減価償却費の仕組みを徹底解説!譲渡所得との関係性と節税効果について

節税対策
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賃貸経営において減価償却費はとても重要なポイントの一つです。

勿論、安定した賃貸経営を継続するためには、物件選びや空室対策などがもっとも大切ではありますが、減価償却費の仕組みを正しく理解することができれば節税対策としては非常に効果的です。

今回は減価償却費の計算方法を中心に、法定耐用年数や出口戦略の考え方などについて解説します。

専門用語が少し多く感じるかもしれませんが、初心者の人にも分かりやすく説明しているので、是非、最後まで読んで頂ければと思います。

  • 減価償却費の法定耐用年数や計算方法を理解したい人
  • 減価償却費を活用し将来的な出口戦略や投資規模の拡大を目指したい人
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減価償却費の重要性は?

賃貸経営に関わらず何か事業で「利益」を得ると、その分だけ納めるべき所得税や住民税などが高額になります。「利益」とは事業によって得られた「売上(収入)」から「必要経費(支出)」を差し引いたお金のことです。

  • 利益=売上(収入)ー必要経費(支出)

なので、お金をどんどん増やしていくには「売上」を増やしていくことが大切なのですが、それに加えて「必要経費」として計上できるお金を増やすことで、戦略的に「利益」を圧縮していくことが大切です。

勿論、不動産所得(賃貸経営によって得られた利益)を計算する上でも、必要経費を計上することはとても重要なポイントです。

不動産経営の主な必要経費

賃貸経営には経費計上として認められる項目がたくさん存在します。例えば、以下のようなものが含まれます。

  • 貸付不動産等の修繕費
  • 租税公課(税金と各種賦課金の総称)
  • 管理費
  • 損害保険料
  • 減価償却費
  • 仲介手数料
  • 借入金利子

そして、不動産所得の必要経費として計上できる項目のうち、もっとも大きなボリュームを占めるのが「減価償却費」です。

減価償却費は「建物部分の購入価格」や「法定耐用年数」をもとに算出します。そのため「○年後に○万円の必要経費を計上できる」ということを、比較的、高い精度で見込むことができます。

減価償却費の節税効果

必要経費による出費が家賃収入を上回った場合、税務上は赤字と考えられます。

そして、その赤字の部分を本業の給与所得から差引く(損益通算)ことで所得税の減税に繋がることも不動産投資のメリットとなります。

「せっかく賃貸経営をしているのに赤字になるなんて意味が無い」と思われるかもしれませんが、物件の(建物部分の)価格や収益性によっては、減価償却費を適切に計上することで、購入後、数年間の間は収益を手に入れているにも関わらず、収支をマイナスにすることも可能です。

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減価償却の計算方法

住宅や車のような高額な資産を購入した場合、一般的にはその資産を1年間で使い切ることは無いはずです。数年間、場合によっては数十年間の間、継続して利用することになります。

利用期間が長期になればなる程、破損したり故障の原因になったりしていきます。つまり毎年、少しずつ劣化していき価値が低下してしまう訳です。

この劣化した部分を経費として考える仕組みを減価償却と呼びます。

減価償却の対象範囲は?

なおマンションやアパート以外にも車や家電製品などにも適応されますが、逆に価値が下がらない「土地」については減価償却は適応されません。

  • 建物部分
    • 減価償却費の計算対象に含められる
  • 土地部分
    • 減価償却費の計算対象に含められない

対象物件の購入価格をもとに減価償却費を考えるのでは無く「○○万円の購入価格のうち、建物部分である○万円だけが減価償却対象になる」ということを気をつけないといけません。

定額法と定率法

建物部分は減価償却費の計算対象に含められる訳ですが、その中でもさらに以下の2種類に分けられます。

  • 定額法
  • 定率法

定額法は取得原価に対して毎年同じ額(定額)を経費として計上する計算方法です。そのため減価償却期間の間は一定して同じ金額を経費として計上することができます。定額法の計算方法は以下のとおりになります。

  • 減価償却費=取得原価×定額法の償却率×使用月数÷12ヶ月

一方、定率法は取得原価に対して毎年同じ比率を経費として計上します。そのため減価償却開始の時点ではより沢山の経費を計上できますが、年々支出として計上できる経費の金額は少なくなっていきます。定率法の計算方法は以下のとおりになります。

  • 減価償却費=(取得原価-減価償却累計額)✕定率法の償却率✕使用月数÷12ヶ月

一般的に物件そのものは定額法で計算されますが、そこに設置されている設備については定率法で計算されることが多いです。

例えば鉄筋コンクリートの建物であれば47年間の定額法として計算されますが、その室内に設置されている設備に対しては15年間の定率法として計算されます。

減価償却期間は物件ごとに異なる

建物や設備に対する劣化具合は所有者の感覚で評価するのでは無く、それぞれの資産ごとに予め決められた減価償却期間をもとに評価されることになります。減価償却期間と聞くと少し難しいようなイメージがありますが、要するに資産ごとの耐用年数のようなイメージです。

また、不動産の中でも減価償却が適応される耐用年数は物件の種類により異なるので一概には言えません。

減価償却の法定耐用年数
物件の種類耐用年数
鉄筋コンクリート(RC)47年
重量鉄骨(鉄骨材4mm超)34年
軽量鉄骨(鉄骨材3mm超〜4mm以下)27年
軽量鉄骨(鉄骨造3mm以下)19年
木造22年

物件自体の(土地代を除いた)金額を耐用年数で割り、その額が減価償却費として計上されます。

お金持ちが高級車に乗る理由

減価償却費を計上できるのは不動産だけではありません。その他にも減価償却が可能な資産としては以下のようなものが挙げられます。

資産の種別法定耐用年数
ラジオ、テレビ、音響機器5年
冷房用または暖房用機器6年
接客業用以外の応接セット8年
時計10年
エレベーター17年

中でも高級車の減価償却費の仕組みはとても魅力的です。会社経営者のようなお金持ちの人が高級車に乗る理由も、減価償却費を活用した節税対策が可能だからなのです。

高級車であろうと軽自動車であろうと、普通自動車の場合、減価償却期間は6年です。つまり、業務で利用するために600万円で高級車を購入した場合、単純計算で年間100万円程の節税効果を生むことができるのです。

さらに節税効果を高めるには中古の高級車を購入するのも有効です。実は、中古車の耐用年数は2年以下にはならないというルールがあるため「4年落ちの中古自動車」の場合、耐用年数が2年になるのですが、定率法で減価償却する場合、償却率を100%にできるため、なんと1年目で全額を減価償却費として計上できるのです。

車を活用した減価償却費の活用方法については「完全図解版 あらゆる領収書は経費で落とせる」でとても具体的に解説されていました。他にも会計に関するさまざまなテクニックが記載されているので、興味のある人は、是非、読んで頂ければと思います。

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中古物件の減価償償却費

中古物件を新たに取得した場合、減価償却費の計算方法が少し変わります。

  • 物件取得時の使用可能期間をもとに算出する見積法
  • よりシンプルに算出できる簡便法

物件取得時の使用可能期間をもとに算出する「見積法」を採用することが一般的ですが、算出が難しい場合は「簡便法」で算出します。

簡便法による計算方法

簡便法による減価償却期間の計算方法は以下の通りです。

  • 法定耐用年数が経過していない中古物件の場合
    • (法定耐用年数ー経過年数)+経過年数✕20%
  • 法定耐用年数が経過した中古物件の場合
    • 法定耐用年数✕20%

法定耐用年数がまだ残っている(経過していない)場合と、既に法定耐用年数が経過してしまっている場合で若干計算方法が変わりますが、基本的な考え方は同じです。また、算出結果の1年未満の端数部分は切り捨てになります。

具体的な計算方法

例えば「築年数が15年経過した木造物件」と「築年数が25年経過した木造物件」の2パターンをもとに、減価償却期間を算出してみると以下のようになります。

  • 築年数が15年経過した木造物件の場合
    • (22年ー15年)+15年✕20%=10年
  • 築年数が25年経過した木造物件の場合
    • 22年✕20%=4.4年(1年未満を切り捨てるため4年)

設備の法定耐用年数

減価償却費の内訳をもう少し細かく分けると、以下の2項目に分けることができます。

  • 建物部分
  • 備え付けの設備や付属品

新築物件の場合、設備や付属品の減価償却期間は15年で計算されますが、中古物件の場合は、建物部分と同じ減価償却期間となるのが一般的です。

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減価償却費の注意点

減価償却費はとても大きな節税効果がありますが、注意しなければいけない点もあります。

仕組みを正しく理解できていなければ、むしろ将来的に支払うべき税金が増えてしまうなんてことにもなりかねません。

減価償却費は魔法の経費?

減価償却費は、実際にはお金は減らないにも関わらず、負債として経費計上できるため「魔法の経費」として紹介されることがあります。

実際にはお金は減っていないけど、会計上は出費があるように考えられるため「魔法の経費」と呼ばれています。

ですが、厳密には減価償却費は「節税」では無く「課税の繰り延べ」です。

課税の繰り延べ自体は悪いことではありませんが、この仕組みを知らずに経費として計上できた分だけ節税になると勘違いしてしまうと、長期的に考えるとむしろ損してしまうかもしれません。

減価償却期間は短い方が良い?

減価償却期間と経費計上額は以下のような関係性になります。

  • 減価償却期間が短い場合
    • 1年間で計上できる減価償却費は大きくなる
  • 減価償却期間が長い場合
    • 1年間で計上できる減価償却費は小さくなる

減価償却期間が短ければ、1年間で計上できる減価償却費が大きくなるため、その分、利益を抑えることができます。

利益を抑えることができれば所得税や住民税を抑えることにも繋がるため納税後のキャッシュフローは大きくなります。

ただし、(当然のことですが)減価償却期間が終わったしまえばその分の経費計上はできません。その結果、利益が拡大し、所得税や住民税の負担も大きくなってしまいます。

当然、キャッシュフローも悪くなります。

つまり「減価償却期間は短い方が良いか?」または「減価償却期間は長い方が良いか?」はケースバイケースであり、その後の戦略により変わります。

購入価格と簿価の違い

もし当初の見込み通り「希望の時期に希望の金額で売却できた」としても、もう一つ注意点があります。それば譲渡所得です。

譲渡所得の計算方法は以下の通りです。

  • 譲渡所得=売却価格ー譲渡費用ー簿価(帳簿価額)ー取得費用

たまに、購入価格(購入価格+取得費用)よりも売却価格(売却価格+譲渡費用)の方が安ければ、譲渡所得は発生しないと勘違いしている人がいますが、それは誤りです。

仮に購入価格と同じ価格で売却できたとしても、中古物件の場合は、減価償却費を経費計上しているため、その分は譲渡所得として計上されてしまいます。つまり、以下のように言い換えることができるのです。

  • 簿価(帳簿価額)=購入価格ー減価償却費の合計
  • 譲渡所得=売却価格ー譲渡費用ー購入価格ー取得費用ー減価償却費の合計
購入価格と簿価の違いを正しく理解しましょう。

長期譲渡所得と短期譲渡所得

譲渡所得の所得税を計算する上で「譲渡(売却)する物件の所有期間」が大きなポイントになります。

  • 売却物件の所有期間が5年未満
    • 短期譲渡所得となり所得税および住民税が高くなる
  • 売却物件の所得期間が5年以上
    • 長期譲渡所得となり所得税および住民税が安くなる

具体的な税率については以下の通りです。

短期譲渡所得と長期譲渡所得の税率の違い
短期譲渡所得長期譲渡所得
所有期間所有期間5年以下所有期間5年超
所得税30.63%15.315%
住民税9%5%
合計39.63%20.315%

なお、2013年〜2037年までの間は、復興特別所得税として「基準所得税額×2.1%」が追加で課されます。

つまり、仮に築古の木造物件を取得し、減価償却期間が4年で終了したとしても、そのタイミングで売却してしまうと、短期譲渡所得として40%近く(39.63%)の税金が課せられるため、譲渡所得が発生する場合は注意が必要です。

これが「減価償却費は課税の繰り延べ」だと言われる理由です。

デッドクロスを避けるには?

不動産経営におけるデッドクロスとは「元金の返済額が減価償却費を上回ってしまうこと」です。

一般的に賃貸経営のために物件を購入するには、金融機関からの融資を受けることになります。

そして、中古物件のように減価償却期間が短い物件を購入する場合、減価償却期間よりもローン融資期間の方が長くなる傾向にあります。

つまり「経費計上できる減価償却費は残っていないにも関わらず、借金だけが残った状態」に陥ってしまいます。

その結果、キャッシュフローが回らなくなり、最悪の場合、黒字倒産に繋がってしまう恐れがあります。

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減価償却と出口戦略の関係性

減価償却を有効に活用するには「戦略」が重要です。

「戦略」と聞くと、とても高度な分析が求められそうですが、もう少しシンプルに表現すると「将来の見通し」と考えれば良いと思います。

より広い視野での戦略が必要

例えば以下のような戦略が考えられます。

  • 物件の追加購入を検討する
  • 物件の売却を検討する
  • 物件のリフォームを検討する

また、減価償却費はあくまで経費の中の一つなので、その他の経費計上項目も踏まえて総合的に戦略を立てる必要があります。

少し難しいですが、個人的にはここが「賃貸経営の面白いところ」の一つだと思います。

戦略の妥当性も大切

いくら立派な戦略を建てても、それが実現できなければ意味がありません。

そして、その「戦略の実現」には自分一人の努力ではどうにもならないことが多々あります。

例えば、減価償却期間の終了と同時に「対象物件を売却しよう」と考えるのは、ごく自然な考え方です。ですが、実際に「そのタイミングで希望価格に近い価格で物件が売却できるか?」は全く別の問題です。

仮に購入希望者がいたとしても、そのタイミングでスムーズに融資が下りるとは限りません。

不動産市場が冷え込んでいて、全体の相場が下がってしまっているかもしれません。

減価償却期間が終了するタイミングで売却を検討することは悪いことではありませんが「必ず売却することを前提」で物事を考え過ぎると、いざ、売却するタイミングでは希望額で売却できず、却って損失を拡大してしまう恐れもあります。

コメント

  1. krsw より:

    今後資産持つ場合はすごく為になる記事ですね。

    • 西本 豪 より:

      コメント有難う御座います!

      経費の計上には良い部分だけでは無く、長期的に考えると注意点も多いと感じ、この辺りをまとめてみました。
      もし参考にして頂けそうであれば、大変嬉しく思います!

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