合同会社の社員(出資者)が死亡すると、その人は会社を退社します(会社法607条1項3号)。社員が1人だけの会社で、定款に「相続人が持分を承継する」という定めがなければ、社員がいなくなって会社は解散し、清算に入ります。この解散のあとで会社を続けることはできず、清算人は裁判所が選びます。会社が続くかどうかは「社員が何人いるか」と「定款に承継の定めがあるか」で決まり、代表社員の人数では決まりません。
この記事では、一人社員の合同会社で代表社員が亡くなった場合を中心に、相続人が相続放棄した場合、登記の期限と費用、持分の相続税評価、不動産を持つ会社で口座・借入・物件名義に起きることを、条文と国税庁・法務局・裁判所の資料で整理します。
- 社員が1人だけ・定款に承継の定めなし:解散 → 清算。続けることはできず、清算人は裁判所が選ぶ。相続人は持分の払戻しを受ける権利(払戻請求権)を相続する
- 社員が1人だけ・定款に承継の定めあり:相続人が持分を承継した時(相続の開始=死亡の時)に社員になり、会社は続く(相続人が複数なら、権利を行使する人を1人決める)
- ほかにも社員がいる:会社は続く。業務執行社員・代表社員が変わる登記を2週間以内にする
- 相続人全員が相続放棄:持分も払戻請求権も承継する人がいない。申立てがあれば、家庭裁判所(相続財産清算人)と地方裁判所(会社の清算人)の両方の手続きが関わる
- 家族が一人で経営していた合同会社の代表社員が亡くなった方
- 合同会社の相続で、相続放棄するかどうか迷っている方
- 代表社員の死亡で必要な登記の期限と費用を知りたい方
- 合同会社の持分が相続税でいくらと評価されるか知りたい方
- 合同会社で不動産を持っていて、自分が亡くなったときの備えをしたい方
- 死亡は法定の退社(607条1項3号)。会社が続くかは社員の数と定款の承継の定め(608条)で決まる
- 社員が欠けて解散した会社は継続できず(642条1項)、清算人は裁判所が選ぶ(647条3項)。定款で清算人を決めておいても、この場合は使えない
- 相続放棄の期限は、相続の開始を知った時から3か月。放棄すると持分も払戻請求権も承継しない
- 払戻請求権の評価は「(資産の相続税評価額-負債)×持分」。承継した持分は取引相場のない株式に準じて評価し、評価差額の38%を控除できる場合がある
- 払戻額が出資を超える部分は、亡くなった人の配当所得(みなし配当)として準確定申告の対象になる
- 社員は自分1人、定款は設立時のひな形のまま
- 亡くなると解散し、家族は裁判所に清算人の選任を申し立てるところから始まる
- 持分の評価やみなし配当の申告を、亡くなった後に調べ始める
- 定款に承継の定めがあり、誰が引き継ぐかを遺言でも決めている
- 家族が社員に入っていて、亡くなっても会社が解散しない
- 持分の評価の目安と、納税資金の出どころを把握している
⚖️ 1. 代表社員が死亡したら会社はどうなるか:ケース別の結論
合同会社の社員が死亡すると、その社員は退社します(会社法607条1項3号)。そのうえで、会社と相続人の扱いは次のように分かれます。
| ケース | 会社 | 相続人 | 根拠 |
|---|---|---|---|
| 社員1人・承継の定めなし | 解散 → 清算(継続できない) | 払戻請求権を相続 | 641条4号、642条1項、611条 |
| 社員1人・承継の定めあり・相続人1人 | 続く | 持分を承継した時に社員になる | 608条1項・2項 |
| 社員1人・承継の定めあり・相続人複数 | 続く | 権利を行使する人を1人決めないと、会社の同意がない限り権利を行使できない | 608条5項 |
| ほかにも社員がいる | 続く | 承継の定めがなければ払戻請求権を相続 | 607条、611条 |
| 清算中に社員が死亡 | 清算を続ける | 定款に定めがなくても持分を承継 | 675条 |
定款に承継の定めがある場合、相続人が社員になったことで定款を変更したものとみなされるので、ほかの社員全員の同意はいりません(608条3項)。


🏛 2. 一人社員で承継の定めがない場合:解散・清算と裁判所の清算人
社員が1人だけの会社でその社員が死亡し、承継の定めがなければ、「社員が欠けたこと」で解散します(641条4号)。解散した会社を続けられるのは、定款で決めた存続期間の満了・定款で決めた解散事由・総社員の同意による解散の場合だけで(642条1項)、社員が欠けた場合は含まれません。
清算人は、通常は業務執行社員か、定款や社員の過半数で決めた人がなります。しかし社員が欠けて解散した場合は、利害関係人か法務大臣の申立て、または職権で、裁判所が清算人を選びます(647条3項)。申立て先は本店の所在地を管轄する地方裁判所です(868条1項)。定款で清算人を決めておく対策は、この場合には効きません。
相続人は、持分そのものではなく、持分の払戻しを受ける権利(払戻請求権)を相続します(611条1項)。払い戻す額は、退社した時の会社の財産の状況で計算し(611条2項)、金銭で払い戻すことができます(611条3項)。そのために、清算の中で会社の不動産や預金を換金・整理することがあります。
🚪 3. 相続人が相続放棄した場合
相続放棄は、自分のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に、家庭裁判所に申述します(民法915条1項。期間は家庭裁判所で延ばせます)。放棄した人は初めから相続人でなかったことになるので(民法939条)、持分も、払戻請求権も承継しません。相続財産を処分すると単純承認したとみなされ、放棄できなくなることがあります(民法921条1号)。亡くなった人の財産(持分・払戻請求権・個人名義の口座)を処分したり、会社から払戻しを受け取ったりする前に、放棄するかどうかを決めます。
| 放棄の範囲 | どうなるか |
|---|---|
| 一部の相続人だけが放棄 | 残った相続人が、承継の定めがあれば持分を、なければ払戻請求権を相続する |
| 相続人全員が放棄(承継の定めなし) | 会社は解散し、申立てなどにより地方裁判所が清算人を選ぶ。払戻請求権を含む相続財産は法人となり(民法951条)、申立てにより家庭裁判所が相続財産清算人を選ぶ(民法952条) |
| 相続人全員が放棄(承継の定めあり) | 承継して社員になる人がいないので、社員が欠けて解散すると考えられる(条文の組み合わせからの帰結で、直接述べた公的資料は見当たらない) |
相続財産清算人の申立てでは、官報公告料5,582円のほか、財産の管理費用が足りない見込みなら予納金を求められることがあります(裁判所の案内)。
承継の定めがある会社では、相続人は持分を承継した時(死亡の時)に社員になる一方、放棄を考える期間は3か月、変更登記の期限は2週間です。この順番が食い違うときの登記の扱いは公的資料で確認できなかったので、登記を申請する前に司法書士か法務局に確認してください。
📝 4. 登記:期限・登録免許税・添付書面
| 登記 | 期限 | 登録免許税 |
|---|---|---|
| 業務執行社員・代表社員の退社、相続人の加入(会社が続く場合) | 変更から2週間以内(915条1項) | 1万円(資本金1億円超は3万円) |
| 解散と、裁判所が選んだ清算人 | 解散は解散から2週間以内(926条)、清算人は選任から2週間以内(928条3項) | 3万9千円(法務局の記載例では1通の申請書で出す) |
法務局の記載例では、社員が欠けたことによる解散の登記の添付書面は、同時に申請する社員の退社の登記の添付書面だけで足り、裁判所が選んだ清算人の登記には選任決定書の正本を付けます。合同会社の登記事項は資本金、業務執行社員、代表社員などで(914条)、定款で業務執行社員を限定していれば、業務を執行しない社員の加入そのものは登記事項ではありません(出資で資本金が増えれば、資本金の変更登記が必要です)。
登記を怠ると100万円以下の過料の対象になります(976条1号)。義務を負うのは、亡くなった人ではなく、後任の業務執行社員や清算人です。なお、12年登記がなく、法務大臣の公告後に届出もしない株式会社を解散したものとみなす制度(472条)は株式会社だけのもので、合同会社は放置しても職権で解散の登記はされません。亡くなった人が代表社員のまま、登記が残り続けます。
💰 5. 持分の相続税評価と、みなし配当
🧮 払戻請求権と、承継した持分の評価の違い
| 相続したもの | 評価の方法 | 出典 |
|---|---|---|
| 払戻請求権(承継の定めなし) | (会社の各資産の相続税評価額-負債)×持分 | 国税庁 質疑応答事例 |
| 持分(承継の定めあり) | 取引相場のない株式に準じて評価。純資産価額では評価差額の38%(法人税額等相当額)を控除 | 財産評価基本通達194・185・186-2 |
差が出る要因の一つが38%の控除です。控除は、相続税評価で計算した純資産が帳簿の純資産を上回るときだけ効きます。たとえば、会社の資産の相続税評価額1億円・負債6,000万円・帳簿上の純資産3,000万円(仮の数字)なら、払戻請求権は4,000万円、承継した持分を純資産価額で評価すると、評価差額1,000万円の38%を引いて3,620万円です。帳簿上の純資産が4,500万円なら評価差額はなく、どちらも4,000万円です。
38%は、令和8年4月1日以後に相続などで取得した株式等に適用される割合です(それより前は37%)。不動産を持つ合同会社では、次の点で「承継の方が評価が下がる」とは限りません。
- 不動産賃貸業のような業種では、「総資産5,000万円未満または従業員5人以下」で、かつ「取引金額(家賃収入など)8,000万円未満」の会社は小会社に区分され、純資産価額か、類似業種比準価額と半々にした値で評価します(評基通178・179)
- 総資産に占める土地等の割合が一定以上の「土地保有特定会社」や、開業後3年未満の会社は、純資産価額だけで評価します(評基通189)
- 取得から3年以内の土地・建物は、純資産価額の計算で通常の取引価額で評価します(評基通185)
- 3年を過ぎた物件でも、相続税評価額が帳簿価額を下回れば、評価差額がないので控除はありません
📌 みなし配当と準確定申告
払戻額のうち、出資に対応する資本金等の額を超える部分は、配当とみなされます(所得税法25条1項)。死亡で退社した場合は、亡くなった人の死亡日の所得になり(所得税基本通達36-4)、準確定申告(相続の開始を知った日の翌日から4か月以内)の対象です。死亡後に社員の間で「払戻額を0円にする」と合意しても、課税は取り消されなかった裁決があります(国税不服審判所 令和4年6月2日裁決・合資会社の事案)。相続税の申告期限は、相続の開始を知った日の翌日から10か月以内です。
- 国税庁は2026年4月から「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」を開き、9月までに6回開催しました
- 適用時期は公表されていません。事務局は「税制改正プロセスを経て行う」「今秋を目途に一定の方向性をお示しできるよう進めてまいりたい」と説明しています(第4回議事要旨)
- 事務局の資料(案)には、会社の規模区分の廃止、資産管理会社は純資産価額で評価すること、第三者に貸している不動産も判定に使う資産に含めることなどが挙がっています
🏦 6. 不動産を持つ合同会社で起きること:口座・借入・保証・名義
- 口座:銀行のFAQでは、法人口座の代表者の変更は変更登記が終わってからと案内している例があります。一人社員で承継の定めがなければ、裁判所が清算人を選ぶまで、代表者の変更を届け出る人がいない状態になります
- 借入:代表者の死亡や解散が、すぐに返済を求められる事由(期限の利益の喪失)にあたるかは、各金融機関の約定書の書き方によります。公開されている約定書の例では、当然に期限の利益を失う事由に死亡・解散はなく、重要な人物の死亡は報告事項の例として挙がっていました。ただし、銀行の請求で期限の利益を失う事由には、債権保全の必要が生じた場合という包括的な定めがあります。借りている金融機関の約定書で確認します
- 連帯保証:亡くなった人が会社の借入を連帯保証していれば、保証債務は相続人が相続します(民法896条)。個人の根保証は、保証人の死亡で元本が確定します(民法465条の4第1項3号)。相続放棄すれば承継しません
- 物件の名義:会社名義の物件は所有者が会社のままなので、相続登記の義務(取得を知った日から3年以内)の対象ではありません。土地は個人名義・建物は会社名義のような場合は、個人名義の分が対象です
🛡 7. 生前にできる備え
- 定款に承継の定めを入れる:「社員が死亡した場合、その相続人は持分を承継して社員になる」という定めです(608条1項)。定款の変更は総社員の同意で行います(637条)。相続人が複数いるときに、遺産分割で特定の1人だけを社員にする登記ができるかは、専門家の間でも見解が分かれています。遺言と組み合わせる場合は、法務局に事前に確認します
- 家族を社員にしておく:社員が2人以上いれば、1人が亡くなっても社員は欠けないので解散しません。定款で業務執行社員を限定していれば、業務を執行しない社員の加入そのものは登記事項ではありません(資本金が増えれば資本金の変更登記が必要)
- 法人を業務執行社員にする:法人が業務執行社員になる場合は職務執行者を選び(598条)、代表社員が法人なら職務執行者の氏名・住所を登記します(914条8号)。個人が亡くなっても社員は欠けませんが、税金や費用への影響は別に検討が必要です
- 生命保険:相続人が受け取る死亡保険金は、全員の合計で「500万円×法定相続人の数」まで非課税です。相続放棄した人が受け取った保険金には、この非課税は使えません。会社が受け取る保険金は、持分を評価するときの会社の資産に入る一方、資産に計上していた保険料は外し、その保険金から払う死亡退職金と保険差益にかかる法人税等は負債に入れます(国税庁 質疑応答事例。株式の評価についてのもの)。差し引きで評価が上がるかは金額しだいです
❓ よくある質問
Q1. 定款に承継の定めがないと、必ず解散しますか?
A. 社員が亡くなった人1人だけなら解散します。ほかにも社員がいれば会社は続き、亡くなった人の相続人は払戻請求権を相続します。
Q2. 相続放棄すると、会社の借金も払わなくてよいですか?
A. 会社の借金は会社の債務で、社員の相続人が直接払うものではありません。問題になるのは、亡くなった人が個人で連帯保証していた場合です。その保証債務は相続の対象で、相続放棄すれば承継しません。
Q3. 定款で清算人を決めておけば、裁判所を通さずに済みますか?
A. 社員が欠けて解散した場合は、定款の定めにかかわらず裁判所が清算人を選びます(647条3項)。解散そのものを避けるには、承継の定めを置くか、社員を2人以上にしておきます。
Q4. 承継と払戻し、相続税はどちらが安くなりますか?
A. 一律には言えません。差が出る要因の一つは、承継した持分の評価で引ける評価差額の38%です。相続税評価の純資産が帳簿の純資産を上回らない会社では差が出ません。小会社や土地保有特定会社では純資産価額が中心になります。
Q5. 合同会社を放置するとどうなりますか?
A. 株式会社のような、一定期間登記がないと解散したとみなす制度はありません。亡くなった人が代表社員のまま登記が残ります。社員が欠けて解散した会社では、清算人が選ばれるまで、会社の財産を処分したり払戻しを受けたりできない状態が続きます。
📝 まとめ
合同会社の社員が死亡すると、その人は退社します。会社が続くかは、ほかに社員がいるかと、定款に承継の定めがあるかで決まります。社員が1人だけで定めがなければ解散し、継続はできず、清算人は裁判所が選びます。
相続放棄の期限は3か月で、放棄すれば持分も払戻請求権も承継しません。全員が放棄すると、申立てがあった場合に、家庭裁判所と地方裁判所の両方の手続きが関わります。登記は2週間以内で、過料の義務を負うのは後任の業務執行社員や清算人です。
持分の評価は、払戻請求権なら「(資産の相続税評価額-負債)×持分」、承継した持分なら取引相場のない株式に準じた評価です。不動産を持つ会社では、会社の規模や土地の割合によって、承継しても評価がほとんど下がらないことがあります。評価のルールは国税庁の有識者会議で見直しが議論されています。
📖 この記事の根拠(出典・参照日2026年10月1日)
- 会社法:472条、590条、598条、599条、607条、608条、611条、637条、641条、642条、644条、647条、675条、868条、914条、915条、926条、928条、976条(e-Gov法令検索/法務省 日本法令外国語訳データベース)
- 民法:465条の4、896条、915条、921条、939条、951条、952条(e-Gov法令検索)
- 相続放棄・相続財産清算人:裁判所「相続の放棄の申述」/裁判所「相続財産清算人の選任」
- 登記:法務局 記載例(合同会社の社員の退社・加入)/法務局 記載例(合同会社の解散)/法務省「相続登記の申請義務化」
- 持分の評価:国税庁 質疑応答事例「持分会社の退社時の出資の評価」/財産評価基本通達178・179・185・186-2・189・194/国税庁 通達改正の解説(38%)
- 会社が受け取る生命保険金:国税庁 質疑応答事例/No.4114
- みなし配当・申告期限:国税不服審判所 令和4年6月2日裁決/所得税基本通達36-4/No.1330/No.2022/No.4205
- 有識者会議:国税庁「開催について」/第4回議事要旨/第5回資料/第6回資料
- 銀行の手続きの例:中国銀行 FAQ/北洋銀行 銀行取引約定書のご案内
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関西の不動産投資家。賃貸経営の体験と、法令・公的機関の資料をもとに、税務・融資・賃貸経営・法人運営の実務ガイドを発信しています。


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