「決算書を銀行に持ち込んだら、自己資本比率が低すぎて新規融資は厳しいと言われた」――不動産投資の法人で多くの社長が直面する局面で、決算書の純資産マイナスや薄い自己資本の正体が長年積み上がった役員借入金であることは珍しくありません。物件取得時の頭金、リフォーム費の立替、空室期の納税資金の補填――社長が個人から法人に貸し付けた累計が、いつのまにか数千万円、ときには1億円を超え、銀行格付けと相続税の双方を同時に詰ませる構造になっている。
本記事は、その役員借入金をDES(デット・エクイティ・スワップ)で資本に振り替える実務手順を、株式会社と合同会社に分けて整理した実務ノートです。読み終えた頃には、次の3つが手元に残るはずです。第一に、株式会社と合同会社のDES手続の決定的な違い(特に検査役制度と総社員の同意)と、セルフ手続の現実的な難易度。第二に、代表死亡時の役員借入金の相続税扱いと、合同会社特有の強制解散リスク。第三に、資本金1,000万円・1億円の壁と住民税均等割、そして役員貸付金や建物減価償却比率まで含めた決算書の総合設計図です。
- 役員借入金は便利な裏口だが放置すると相続税地獄・銀行印象悪化・合同会社強制解散リスク
- DESは株式会社で金銭債権・帳簿価額以下なら検査役省略可(会社法207条9項5号)。合同会社は検査役制度自体なし
- 通達205の評価減は清算手続中など限定。事業継続中は単なる債務超過では足りず額面評価維持(神戸地裁H22・東京地裁R5)
- 合同会社の社員死亡=法定退社(会社法607条)+定款承継規定なし→強制解散(641条1項4号)
- 住民税均等割:1,000万円未満7万円/1,000万円超〜1億円18万円/1億円超29万円。資本準備金活用で資本金抑制
- 法人代表として役員借入金を放置し相続税対策・銀行印象悪化を懸念している投資家
- 合同会社オーナーで代表死亡時の社員死亡=法定退社=強制解散リスクを認識していない方
- 株式会社/合同会社のDES手続詳細比較を実務目線で確認したい中堅投資家
- DES実施時の住民税均等割の壁(1,000万・1億の段差)を回避設計したい方
- 役員貸付金の認定賞与リスクと銀行融資マイナス評価を整理したい法人代表
- 💴 1. 役員借入金とは何か――役員貸付金との真逆性
- ⚠️ 2. 役員借入金を放置する5大リスク
- 💀 3. 代表死亡時の相続税地獄――通達204と205の壁
- 🔄 4. 役員借入金を解消する5つの手段の比較
- 🏢 5. DESを株式会社で実施する手順
- 🏬 6. DESを合同会社で実施する手順
- 🚨 7. 合同会社特有の落とし穴と社員死亡・強制解散リスク
- 💸 8. 資本金1,000万・1億円の壁――住民税均等割と外形標準課税
- 🚫 9. 役員貸付金は論外――認定利息・認定賞与・銀行評価
- 📊 10. 建物減価償却比率と銀行格付けのトレードオフ
- ❓ 11. FAQ――役員借入金・DES・決算書設計のよくある誤解
- ✅ 12. まとめ――役員借入金からDESへの設計図
- 📖 この記事の根拠(出典・参考)
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💴 1. 役員借入金とは何か――役員貸付金との真逆性
役員借入金は、社長や役員が個人の現金を法人に貸し付けた残高を指します。決算書では負債の部・固定負債(長期借入金)または流動負債(短期借入金)に計上され、形式上は銀行借入と同じ借金です。しかし実態は社長自身が貸し手であり、利息・期限・返済優先順位を社長が自由に決められる「身内の借金」である点が、銀行借入や買掛金とは決定的に違います。本章ではまず役員借入金の正体と、決算書を読む第三者がどう見るかを整理します。
1-1. 役員借入金の発生経路と典型仕訳
役員借入金が増える典型場面は3つあります。第一に、物件取得時の頭金・諸費用の不足分を社長が立て替えるケース。第二に、空室や修繕で資金繰りが詰まった月に社長個人口座から会社口座へ振り込むケース。第三に、社長が役員報酬を受け取らずに法人に残し、その分を法人が社長に「借りている」形にするケース。仕訳は単純で、「現金預金 / 役員借入金」または「役員報酬 / 役員借入金(未払金経由で振替)」の形を取ります。個人事業の延長感覚で運用していると、決算書のどの行に何円積まれているのか社長本人が把握していないことも多く、顧問税理士に「直近5期分の役員借入金残高推移表」を毎期出してもらうのが、健全な法人運営の出発点です。
1-2. 銀行から見た「準資本」と役員貸付金との真逆性
銀行が決算書を読むとき、役員借入金は金融検査マニュアル別冊(中小企業融資編)の整理に従い、実質純資産に加算できる場合があるとされてきました。返済優先順位を意図的に劣後させ、社長が「すぐに引き上げない」と明示しているなら、銀行借入と同列の負債ではなく自己資本に近い性質と見做すという考え方です。ただしマニュアルは2019年12月に廃止され、現在は金融庁の「検査・監督の考え方と進め方(金融機関の融資に関する検査・監督実務についての討議資料)」をベースに各行が自己査定基準を運用しています。
つまり、役員借入金を準資本として加点してくれるかどうかは銀行ごと・担当者ごとに差が出るのが2026年現在の実態です。プロパーで付き合いの長いメイン行は加点する、初取引の地銀は加点しない、保証協会付きは原則加点しない――こうしたまだら模様の中で、加点に依存しすぎず、DESや債務免除で「目に見える純資産」を作っておく方が長期的には安全です。あわせて重要なのが、役員借入金と役員貸付金の真逆性です。役員借入金は「役員が法人に貸している」、役員貸付金は「法人が役員に貸している」。決算書上の位置も負債側と資産側で逆。そして銀行・税務署の見方も真逆で、役員借入金は最悪でも中立評価ですが、役員貸付金は不良資産扱いで実質純資産から減算されるのが標準的な自己査定です。詳しい論点は本記事第9章で改めて整理しますが、まずは「字面が逆=意味が逆」を強く意識してください。
| 項目 | 役員借入金(健全寄り) | 役員貸付金(要警戒) |
|---|---|---|
| 誰が誰に貸したか | 役員→法人 | 法人→役員 |
| 決算書の位置 | 負債の部 | 資産の部 |
| 銀行の自己査定 | 準資本として加点する場合あり | 不良資産として実質純資産から減算 |
| 税務上の論点 | 相続時の額面評価リスク | 認定利息・認定賞与・重加算税 |
| 放置リスク | 相続税地獄(額面課税) | 融資ストップ・税理士契約解除条件にする金融機関も |
本章のまとめとして、役員借入金は会計上は負債だが、銀行は「準資本」として加点することがある一方、減点はされない。役員貸付金とは字面が似ているだけで意味は真逆で、役員貸付金は明確な不良資産扱い。この2つを混同しないことが、決算書設計の出発点です。
⚠️ 2. 役員借入金を放置する5大リスク
「身内の借金だから返さなくても大丈夫」「銀行も準資本で見てくれるから問題ない」と楽観したまま放置すると、5つの方角からリスクが顕在化します。本章は放置の代償を5つに分解し、各リスクの引き金と概算規模を整理します。
2-1. リスク1・2:銀行印象の悪化と債務超過の誤認
役員借入金が数千万円規模で何年も同じ残高で残っている決算書は、銀行から見ると「社長と法人の財布が分離されていない=公私混同」のシグナルです。準資本として加点する場合でも、加点幅は徐々に縮小する傾向があり、特に新規取引行は加点せずに「単なる借金」として扱うことが多い。結果として、自己資本比率が表面上低いまま新規融資の俎上に乗らない局面が増えます。
あわせて役員借入金が積み上がると、決算書の純資産が実額でマイナス(債務超過)になることがあります。金融検査マニュアルFAQでは「役員借入金を実質純資産に加算すれば債務超過ではない」と判断できる旨が示されていたものの、初対面の銀行員には決算書面の見た目で「債務超過先=要管理先」と機械的に判断されるリスクがある。プロパー融資の俎上にすら乗らない事態を避けるには、DES等で見た目の純資産を黒字化することが効きます。
2-2. リスク3:税務調査での認定論点
役員借入金そのものは適法な取引ですが、無利息で長期間放置すると「実質的には贈与ではないか」と税務調査で論点化されることがあります。実務上、役員借入金については「無利息・無期限でも法人側に経済的利益は発生しない(社長が損するだけ)」というのが標準的な整理ですが、金銭消費貸借契約書がない・残高確認書がない状態だと、調査官にとって攻めやすい論点になる。最低限、契約書と残高確認書は毎期作成しておくのが防衛策です。
2-3. リスク4・5:代表死亡時の相続税地獄と合同会社の強制解散
最大のリスクが代表死亡時です。役員借入金は被相続人にとっての「貸付金債権」として相続財産になり、財産評価基本通達204により原則として元本+既経過利息の額面で評価されます。会社にキャッシュがなくて返してもらえなくても、相続税は額面通り課税。詳細は第3章で深掘りしますが、「現金は会社にあって戻ってこないのに、相続税は数千万円〜億円単位で発生」という構造です。
あわせて合同会社の場合は、代表=唯一の社員が死亡すると会社法607条1項3号により法定退社となり、定款に承継規定がなければ会社法641条1項4号により「社員が欠けたこと」を事由として強制的に解散します。法人が解散すれば物件は清算手続の中で処分対象になり、相続人は持分払戻請求権だけを取得する。定款に「相続人は持分を承継する」旨の条項が無い一人合同会社は時限爆弾です。第7章で詳述します。
| リスク | 引き金 | 概算規模・損失イメージ |
|---|---|---|
| 銀行印象悪化 | 残高数千万円が複数期固定 | 新規融資ストップ・既存ローン金利見直し |
| 債務超過の誤認 | 純資産が見た目マイナス | 要注意先・要管理先への格下げ |
| 税務調査の認定 | 無利息・無契約書放置 | 本税+過少申告加算税・延滞税 |
| 代表死亡時の相続税 | 役員借入金の額面評価 | 残高×相続税率=数百万〜数千万円 |
| 合同会社の強制解散 | 社員欠缺+定款承継条項なし | 法人消滅・物件は清算処分 |
💀 3. 代表死亡時の相続税地獄――通達204と205の壁
本章は本記事の核の一つです。役員借入金は社長から見れば「会社に貸している、回収するつもりがない実質的な出資金」かもしれませんが、税務上は明確に貸付金債権であり、相続発生時には額面評価で課税されます。「会社が債務超過だから0評価でいいだろう」は通用しないのが実務の標準的帰結です。
3-1. 通達204の原則――元本+既経過利息の額面評価
財産評価基本通達204は、貸付金債権等の評価について「元本の価額と既経過利息(課税時期現在の既経過利息で支払期の到来していないものをいう)の額の合計額」と定めています。無利息貸付であっても元本は額面通り。利息ありなら経過利息分が加算される。この通達は1964年制定以来、本質的に変わっていません。
不動産投資の法人で、20年・30年と物件取得・修繕の都度に社長が立て替えてきた累計が、気付けば1〜数億円規模になっているケースはよくあります。仮に残高1億円・相続税の限界税率40%なら、相続税だけで4,000万円。会社に現金がなければ、相続人は自己資金で納税するか、物件を売却して納税資金を捻出するしかありません。
3-2. 通達205の例外――回収不能な貸付金の評価減
例外規定が財産評価基本通達205です。「回収不能と認められる事由が発生している貸付金等」については、回収不能と認められる金額を評価額に算入しない、つまり評価減できる旨を定めています。具体的に列挙されているのは次の事由です。
| 区分 | 具体事由 | 備考 |
|---|---|---|
| 形式基準 | 手形交換所での取引停止処分 | 2022年11月に手形交換所制度自体は終了。後継の電子的取引停止情報が論点 |
| 形式基準 | 会社更生手続の開始決定 | 会社更生法 |
| 形式基準 | 民事再生手続の開始決定 | 民事再生法 |
| 形式基準 | 破産手続の開始決定 | 破産法 |
| 形式基準 | 特別清算開始の命令 | 会社法 |
| 形式基準 | 業況不振による事業廃止または6ヶ月以上の休業 | 事業実態が止まっていることが要件 |
| 実質基準 | その他、債務者の経済的状態から見て客観的に回収不能 | 判例で厳格に運用 |
3-3. 判例の趨勢と遺族のキャッシュアウト
205の実質基準は「客観的に回収不能」と定めるのみで、線引きが争点になります。判例の趨勢として神戸地裁平成22年7月9日判決や東京地裁令和5年2月16日判決などで示されているのは、「単なる債務超過の状態にあるだけでは205の評価減を認めない」という考え方です。事業が継続している以上、役員報酬の削減や物件売却収入で長期回収可能と見做される、というのが基本的な論理。認容例は事実上、清算手続中や6ヶ月以上の休業に入っているケースに限られる、というのが税理士業界の標準的な整理です。「同族会社が決算書上は債務超過だが、賃料収入で事業を回し続けている」――この典型パターンは、相続税では役員借入金が額面で評価されると考えておく方が安全です。
3-4. 遺族のキャッシュアウトと二次相続
役員借入金が額面評価されると、遺族には3つの困難が同時に襲来します。第一に納税資金の枯渇――会社からは回収できず、相続人の手元現金で納税するしかない。第二に分割協議の難航――会社を継ぐ相続人と継がない相続人で、貸付金債権の評価・配分を巡って対立しやすい。第三に二次相続――会社を継いだ相続人が借入金を解消できないまま亡くなると、その相続人の家族で同じ問題が繰り返されます。
結論として、代表が元気なうちにDES・債務免除等で残高を圧縮しておくのが、遺族保護の最も実効的な対策です。第4章以降でその具体手段を整理します。
🔄 4. 役員借入金を解消する5つの手段の比較
役員借入金の解消手段は、代表的には5つあります。それぞれ税務・キャッシュフロー・登記コストの観点でメリット・デメリットがあり、残高規模と法人の状況で最適解は変わります。本章は4手段を一覧整理します。
4-1. 手段1:役員報酬を減額して計画返済
最もシンプルな手段は、役員報酬を減らさずに法人から社長へ返済する余力を生み、毎期一定額を計画返済していく方法です。法人税・所得税の課税関係は変わらず、登記も不要。ただし残高が大きいと完済まで10年〜20年単位かかり、その間に代表が高齢化すれば相続リスクは残ります。残高1,000〜2,000万円程度・代表が若く長期計画が立つケース向きです。
4-2. 手段2:債務免除(社長から法人への債権放棄)
社長が「もう返してもらわなくていい」と債権放棄する手段です。法人側では債務免除益として益金算入(法人税課税)、社長側では原則として課税関係なし。繰越欠損金が十分にある期に債務免除を行うと、欠損金と相殺して実質的に無税で純資産を作れるのが最大のメリット。逆に欠損金がない期に大きく免除すると、多額の法人税が一度に発生します。
4-3. 手段3:DES(債務の資本振替)
DES(Debt Equity Swap)は本記事の主役で、社長が持っている貸付金債権を現物出資として法人に拠出し、その対価として法人の株式・持分を取得する手段です。法人では負債が消えて純資産が増え、社長個人では貸付金債権が株式・持分に振り替わる。債務免除と違って益金計上が原則発生しない(厳密には債権の時価>額面の場合などに論点はある)のがメリットですが、登記・現物出資手続が必要でコストが発生します。
4-4. 手段4:準DES(疑似DES)――現金を介在させる出来上がりDES
準DES(疑似DES)は、役員借入金の返済と増資払込を現金で同時並行的に行うことで、結果として通常のDESと同じ純資産改善効果を得る手法です。山田コンサルティンググループ・福永俊明税理士事務所・小野山公認会計士事務所などの実務解説で「疑似DES」「擬似DES」と呼ばれ、税理士業界では選択肢の一つとして広く認知されています。
具体的手順は次の4ステップです。
| ステップ | 内容 | 会計処理 |
|---|---|---|
| 1 | 銀行から法人へ役員借入金相当額のブリッジローン融資 | 現金預金 / 短期借入金 |
| 2 | 法人が社長に役員借入金を全額返済 | 役員借入金 / 現金預金 |
| 3 | 社長が返済を受けた現金で法人に増資払込(金銭出資) | 現金預金 / 資本金(・資本準備金) |
| 4 | 法人が銀行のブリッジローンを返済 | 短期借入金 / 現金預金 |
準DESの最大のメリットは、現物出資ではなく金銭出資として処理されるため、会社法207条9項の検査役調査論点が発生しないこと。あわせて、組織再編税制の適用対象外となるため、債権者サイドで損失計上の論点も債務者サイドで債務消滅益課税の論点も発生しません。結果として、税務リスクの少ない方法でDESと同じ効果を得られます。
一方のデメリットは「実態がDESと同じなのに税効果だけ違うのは租税回避ではないか」と否認される潜在リスクがある点です。税務上の実体課税の原則(実質課税の原則)から、形式的に金銭出資の外形を取っていても、経済実態がDESと同じであれば組織再編税制の論点が遡及して適用される可能性は否定できません。実務的にはブリッジローンを実際に銀行から借りて口座を経由させ、書類・通帳の証拠を整えることが防衛策になります。社長個人口座と法人口座でしっかり資金移動の動きが残る取引にすることが大切で、エビデンスの整備が前提です。
4-5. 手段5:贈与(被相続人財産の事前圧縮)
もう一つの選択肢が贈与です。社長が貸付金債権の一部を家族(後継者)に贈与し、相続時の被相続人の財産を減らす手段で、贈与税の暦年課税110万円または相続時精算課税2,500万円の枠を使う。債権そのものは生き残るので法人の純資産は変わらない点が他3手段と決定的に違います。あまり積極的に使われませんが、後継者がいる場合の補助手段としては有効です。
| 手段 | 法人税の影響 | 登記の要否 | 純資産改善効果 | 主なリスク |
|---|---|---|---|---|
| ①計画返済 | なし | 不要 | 残高は減るが純資産は変わらず | 長期化で代表高齢化リスク |
| ②債務免除 | 債務免除益で課税(欠損金と相殺可) | 不要 | 大 | 欠損金がない期は税負担大・純資産プラス化で他株主にみなし贈与 |
| ③DES | 原則なし | 必要(増資登記) | 大 | 登記コスト・資本金壁の住民税均等割 |
| ④準DES(疑似DES) | 原則なし | 必要(増資登記) | 大 | 租税回避否認の潜在リスク・ブリッジローン資金繰り |
| ⑤贈与 | なし | 不要 | 純資産は変わらず | 贈与税・被相続人の財産は減るが法人の問題は残る |
最適解は法人ごとに変わりますが、「繰越欠損金が潤沢なら債務免除、欠損金がないか少ないならDES」という選び方が実務の出発点です。両者の中間でハイブリッド的に分割実施するケースもあります。法人税の繰越欠損金の運用や、不動産投資の損益通算については積立投資の理論武装側のキャッシュフロー設計の視点とも合わせて検討すると整理しやすくなります。
章のまとめとして、解消手段は5つ。繰越欠損金が潤沢なら債務免除、欠損金がない期はDESが基本選択。残高が小さく代表が若いなら計画返済、後継者がいるなら贈与の併用も。準DESは登記コスト+ブリッジローン手間を許容できるなら通常DESの代替として有効。一つの手段に固執せず、組み合わせで設計するのが実務の現実解です。
債務免除・DESで特に注意すべきは「みなし贈与」リスクです。社長以外の株主・社員が存在する状態で純資産がプラスに転じると、相続税法9条(同基本通達9-2)により、社長から他株主への経済的利益の移転とみなされて贈与税が課税される可能性があります。一人株主・一人社員の法人なら原則として問題になりませんが、配偶者・子・親族が株式・持分を持っている場合は事前に税理士と整理し、純資産プラス化のタイミング・金額を分割実施する設計が必要です。法人の自己資本厚みを増す総合戦略は「不動産投資家の銀行格付け攻略|LTV・DSCR・債務償還年数・債務者区分6段階・関西地銀信金の融資実勢」で銀行視点からも整理しています。
DES(デットエクイティスワップ)を実施する前と後で、決算書の見え方と相続税評価がどう変わるかを対比します。
- 貸借対照表:役員借入金1億円(負債)
- 自己資本比率:低水準(債務超過の見え方)
- 銀行格付け:マイナス評価(実質純資産から控除)
- 代表死亡時:相続財産1億円(債務超過でも額面評価)
- 回収困難でも相続税は額面課税の地獄構造
- 貸借対照表:資本金1,000万+資本剰余金4,000万
- 自己資本比率:大幅改善
- 銀行格付け:プラス評価(実質純資産増)
- 代表死亡時:相続財産は持分価値(純資産方式評価)
- 住民税均等割は7万円のまま維持(1,000万超え回避)
🏢 5. DESを株式会社で実施する手順
株式会社のDESは情報が比較的整備されており、GVA法人登記・freee登記・弥生のシリーズ等のセルフサービスを使って自分で登記まで完結することも可能です。本章では会社法上の要件と必要書類を順序立てて整理します。
5-1. 機関決定と検査役調査の省略
非公開会社(株式譲渡制限会社)で第三者割当の形でDESを行う場合、募集事項の決定は株主総会の特別決議(議決権の過半数を有する株主が出席し、その2/3以上の賛成)が必要です(会社法199条2項・309条2項5号)。社長一人株主の法人なら、書面決議で済む議事録を作成すれば足りますが、形式は厳格に守る必要があります。
株式会社の現物出資には原則として検査役の調査が必要ですが、会社法207条9項5号により金銭債権を現物出資する場合で、当該債権の弁済期が到来し、かつその価額が当該金銭債権の帳簿価額を超えないときは検査役調査が不要です。役員借入金のDESはまさにこの条文の典型適用場面で、調査役選任の費用と時間を回避できます。あわせて、500万円以下の現物出資(同項1号)や、弁護士・税理士等の証明+不動産については鑑定評価書がある場合(同項4号)など、複数の省略事由が並列で用意されており、役員借入金DESでは5号で省略するのが標準ルートです。
5-2. 必要書類――議事録・払込証明書・資本金計上証明書
登記申請に必要な主要書類は次のとおりです。司法書士に依頼する場合も、社長側で実態書類(金銭消費貸借契約書・残高確認書)を整備しておかないと前に進みません。
| 書類 | 作成者 | 記載事項 |
|---|---|---|
| 株主総会議事録 | 会社 | 特別決議による募集事項の決定 |
| 株主リスト | 会社 | 議決権数上位10名または2/3に達するまでの株主 |
| 総数引受契約書または募集株式申込証 | 会社・引受人 | 引受株式数・払込金額 |
| 払込証明書 | 会社 | 現物出資の給付完了の証明 |
| 資本金計上証明書 | 会社 | 資本金組入額と資本準備金組入額 |
| 金銭消費貸借契約書・残高確認書 | 会社・社長 | 現物出資対象の債権の存在証明 |
| 登記申請書 | 会社 | 増加資本金額・効力発生日 |
5-3. 登記期限・登録免許税とセルフ手続の現実
増資の効力発生日から2週間以内に本店所在地の法務局へ登記申請する必要があります(会社法915条1項)。遅延は過料の対象です。登録免許税は増加資本金額×0.7%で、最低額は3万円。資本金1,000万円増加なら7万円、5,000万円増加なら35万円。司法書士に依頼した場合の報酬は地域差・事務所差が大きいものの、登記単独の依頼で4〜7万円のレンジが多い印象です。
セルフ手続では、GVA法人登記・freee登記・弥生の登記おまかせ・ひとりでできるもん等、株式会社の増資登記を完結させるサービスが充実しています。料金は数千円〜2万円台が中心で、テンプレートに沿って入力すれば申請書類が出力されるため、議事録の文言や条文番号の引用で迷わずに済むのが最大のメリットです。とはいえ、現物出資の特有論点(5号適用の根拠付け、資本準備金との配分、効力発生日の設定)はテンプレートだけでは判断しきれない部分が残ります。残高1,000万円超の大規模DESや、複数株主がいて持分比率が動くケースは、司法書士・税理士に相談しつつセルフで申請する「ハイブリッド」が現実解です。
章のまとめとして、株式会社のDESは特別決議+検査役省略(会社法207条9項5号)+2週間以内の登記が基本フロー。セルフサービスは整っているが、現物出資の論点は司法書士・税理士の併走を推奨。登録免許税は増加資本金×0.7%(最低3万円)が固定費です。
株式会社のDES実装プロセスを終えると、純資産が大きく改善し銀行格付けの上位区分が見えてきます。融資戦略との連動は「30年ぶり高金利時代の不動産投資戦略|金利上昇シミュレーション・借り換え・インフレ借金有利・固定変動の使い分け・関西の金利現実」も併読すると、純資産改善とアパートローン借換のタイミング設計が立体化します。
🏬 6. DESを合同会社で実施する手順
合同会社のDESは、株式会社と比べて検査役制度がなく金額制限なく現物出資できる反面、実務情報が著しく乏しいのが特徴です。本章は合同会社固有の手続を整理し、セルフ手続の難易度を正直に評価します。
6-1. 機関決定と検査役制度の不在
合同会社で新たに出資を受け入れる場合、原則として総社員の同意が必要です(会社法637条で定款変更には総社員の同意が要件)。一人合同会社なら社長自身の同意書のみで足りますが、複数社員がいる場合は全員の同意取得が必要で、定款で別段の定めがない限り例外はありません。あわせて、出資の価額や資本金組入額の具体的決定は業務執行社員の過半数の決定で行います。
合同会社にはさらに検査役制度そのものが存在しません。株式会社の会社法207条のような検査役選任の規定が合同会社の章には設けられていないため、金額・債権の種類を問わず現物出資が可能で、株式会社のように500万円基準や弁護士証明を意識する必要がない。役員借入金が数千万〜1億円規模でも、検査役手続のオーバーヘッドなしでDESを実行できます。これが合同会社が好まれる実務上の理由の一つです。
6-2. 必要書類――定款変更・総社員同意書・業務執行社員決定書
合同会社のDES登記に必要な主要書類は次のとおりです。株式会社と比べて種類は減りますが、定款変更が必須で、定款管理がずさんだと前に進めません。
| 書類 | 作成者 | 記載事項 |
|---|---|---|
| 変更後の定款 | 会社 | 社員の出資価額の変更を反映 |
| 総社員の同意書 | 全社員 | 定款変更・出資受入の同意 |
| 業務執行社員の決定書 | 業務執行社員 | 資本金組入額の決定 |
| 払込証明書 | 会社 | 現物出資の給付完了 |
| 資本金計上証明書 | 会社 | 資本金・資本剰余金の組入額 |
| 金銭消費貸借契約書・残高確認書 | 会社・社員 | 現物出資対象債権の証明 |
| 登記申請書 | 会社 | 増加資本金額・効力発生日 |
6-3. 登録免許税・登記期限とセルフ手続の情報希少性
登録免許税は株式会社と同じく増加資本金×0.7%(最低3万円)。登記期限も効力発生日から2週間以内で、株式会社と変わりません。新たに業務執行社員や代表社員が増える場合は、別途登録免許税1万円(資本金1億円超の場合3万円)が加算されることがあります。
セルフ手続については、合同会社のDESは流通情報が極端に少ないのが現実です。GVA法人登記・freee登記等のサービスでも、合同会社のDESに完全対応したテンプレートは限定的で、株式会社と同じノリで自己流に進めると定款変更条項の漏れ・業務執行社員決定書の不備で登記が却下されるリスクが高い。司法書士相談を強く推奨するラインと正直に書いておきます。司法書士報酬の相場は4〜7万円台で、株式会社と大きくは変わりません。
6-4. 持分割合の再計算と議決権への影響
合同会社のDESで見落とされやすいのが持分割合の変動です。社員1名なら問題ありませんが、家族・関係者が社員として加わっている合同会社では、DESで社長単独の出資価額が大きくなっても議決権は会社法上の原則では1社員1議決権(頭割り)のため、出資価額の比率と議決権が一致しません。定款に「議決権は出資価額に応じる」旨の別段の定めを置いていない場合、DES後も意思決定の構造は変わらない点に注意が必要です。
🚨 7. 合同会社特有の落とし穴と社員死亡・強制解散リスク
本章は本記事の独自性の核です。合同会社の不動産投資家で見落とされがちな、社員死亡=法定退社=強制解散の構造を、会社法の条文に即して整理します。
7-1. 会社法607条1項3号――社員死亡は法定退社事由
会社法607条1項は社員の法定退社事由を列挙しており、3号に「死亡」が含まれています。つまり合同会社の社員が死亡すると、原則としてその瞬間に退社扱いになり、持分は相続人に承継されません。これは株式会社の株主死亡時に株式が当然に相続される構造と決定的に違います。
7-2. 会社法641条1項4号――社員欠缺による強制解散
退社の結果、社員が一人もいなくなると、会社法641条1項4号により「社員が欠けたこと」を事由として合同会社は解散します。代表=唯一の社員という構成の一人合同会社で、社員が死亡し、かつ定款に承継規定がない場合、その時点で法人は解散事由を満たしてしまう。解散後は清算手続に移行し、債務の整理と残余財産の分配が行われます。
7-3. 会社法608条――定款の承継条項で回避可能
救済規定が会社法608条です。「死亡した社員の相続人が当該社員の持分を承継して社員となる旨を定款で定めることができる」と規定されており、定款にこの条項を入れておけば、社員死亡時に相続人が自動的に社員として加入し、法人は解散しません。一人合同会社で不動産を保有しているなら、この条項は事実上の必須項目です。
7-4. 承継条項なしの場合の遺族の権利と不動産保有合同会社の深刻さ
定款に承継条項がない場合、相続人が取得できるのは「社員たる地位」ではなく持分払戻請求権(会社法611条)のみです。退社時の持分の価額に相当する金銭の支払いを請求できる権利で、これは現金請求権であって、物件そのものや経営権ではない。法人が清算に入っても、債権者への弁済が優先され、残余があれば持分払戻として遺族に届く順番です。
不動産保有合同会社では特に深刻で、解散すると保有物件の処分・抵当権抹消・テナント退去・既存ローンの一括返済等の複雑な清算手続が必要になります。清算手続中の物件は通常の市場価格より低く処分される傾向があり、遺族が受け取る持分払戻額は期待より大幅に小さくなることが多い。さらにローン残債があれば、物件処分代金から優先返済されるため、遺族の手元に残るのはわずかになるケースも珍しくありません。


- まず手元の現行定款を読み返し、社員の死亡時の持分承継について書かれているかを確認
- 記載がなければ会社法608条の承継条項を追加する定款変更を実施(総社員の同意で可能)
- あわせて社員を1名追加する選択肢も検討。社員2名以上なら一人欠けても解散事由には直結しない
定款変更は登記事項ではないため法務局への申請は不要ですが、変更後の定款は会社で保管・税理士に共有しておくのが安全です。
合同会社の社員死亡=法定退社=強制解散の連鎖は、共同担保で複数物件を抱えている場合に物件処分が連鎖して資産価値を毀損する典型パターンです。共同担保の解除・差替えの実務は「不動産投資の共同担保解除と借換タイミング|耐用年数切れ物件・条件変更・追加融資の実務」で深掘りしています。
💸 8. 資本金1,000万・1億円の壁――住民税均等割と外形標準課税
DESで負債を資本に振り替えるとき、資本金額をどこに設定するかで毎期の固定費が大きく動きます。本章は住民税均等割と消費税免税の境界を、東京都の標準税率(従業者50人以下)で整理し、資本準備金活用による回避策を提示します。
8-1. 住民税均等割の階段構造
法人住民税の均等割は、資本金等の額と従業者数で階段状に決まります。東京都・従業者50人以下の場合の標準額は次のとおりです。
| 資本金等の額 | 均等割年額(東京都・50人以下) | 消費税免税の可否 |
|---|---|---|
| 1,000万円未満 | 7万円 | 設立1〜2期目は原則免税 |
| 1,000万円ちょうど | 7万円 | 消費税免税NG(1,000万円「以上」で課税事業者) |
| 1,000万円超〜1億円以下 | 18万円 | 免税の論点は適用なし |
| 1億円超〜10億円以下 | 29万円 | 外形標準課税対象・中小法人軽減税率喪失 |
| 10億円超〜50億円以下 | 95万円 | 同上 |
| 50億円超 | 121万円 | 同上 |
8-2. 1,000万円の境界――消費税免税と均等割の二重論点
資本金1,000万円の壁は消費税の納税義務と直結します。資本金1,000万円「以上」の新設法人は、設立1〜2期目から課税事業者となり、原則として消費税を申告・納付する義務を負います。「1,000万円ちょうど」も該当するため、ジャストで設定してしまうと均等割の階段は最安のままなのに消費税免税だけ失う、というもったいない設計になりやすい。免税を狙うなら999万円以下に必ず収めるのが鉄則です。
8-3. 1億円の境界――外形標準課税と軽減税率の喪失
資本金1億円の境界は均等割の増加(29万円)に加えて、外形標準課税の対象になるのがインパクト大です。外形標準課税は付加価値割・資本割を加算する仕組みで、不動産投資の法人ではキャッシュフローを直接圧迫する負担になります。さらに、中小法人の軽減税率(年800万円以下の所得に対する法人税15%)が適用外となり、所得全体に23.2%が課税される。年100万円規模の追加負担になりうるラインです。
8-4. 資本準備金への振替と大規模DESの分割実施
会社法445条3項により、払込金額の2分の1までは資本準備金に振り替えることが可能です。たとえば5,000万円のDESを行う場合、資本金2,500万円+資本準備金2,500万円の配分にすれば、資本金は1,000万円超の階段(均等割18万円)に留まり、1億円の壁を超えずに済みます。住民税均等割の節約は10年単位で見れば数百万円規模になり得るので、DESの設計段階で必ず最適配分を決めておくべきです。
残高が1億円を大きく超える場合、一度に全額DESすると資本金が1億円超に達して外形標準課税の対象になります。これを避けるため、残高を複数期に分けて段階的にDES+資本準備金振替を繰り返す手法も実務では用いられます。各期の登録免許税(最低3万円)と司法書士報酬は重複しますが、外形標準課税回避のメリットの方が遥かに大きいケースが多く、長期目線の設計が効きます。
資本金壁は法人税率(800万円超で軽減税率切替)・消費税免税・外形標準課税の三重構造で効くため、関西の不動産投資家は法人決算の総合設計を地銀・信金との関係も含めて組み立てるべきです。関西地銀・信金の格付け運用実勢は「不動産投資家の銀行格付け攻略|LTV・DSCR・債務償還年数・債務者区分6段階・関西地銀信金の融資実勢」で京都中央信金・大阪協栄信組・京都銀行・池田泉州銀行の運用差を整理しています。
🚫 9. 役員貸付金は論外――認定利息・認定賞与・銀行評価
役員借入金と字面が似ているだけで真逆の存在が役員貸付金です。本章は役員貸付金がなぜ「論外」と呼ばれるのか、税務・銀行融資・代表死亡時の3軸で整理します。
9-1. 認定利息――無利息は税務上認められない
法人が役員に金銭を貸し付ける場合、法人税基本通達9-2-9により適正な利息を取らないと「認定利息」として益金計上される論点があります。適正利率は特例基準割合(2024年・2025年とも1.4%)を下回らない水準とされ、無利息や年0.5%等の低利は税務調査で必ず指摘されるポイントです。法人が役員から利息を受け取れば法人側で雑収入として課税、役員側は支払利息として控除(給与所得との関係で論点あり)になります。
9-2. 認定賞与――長期未返済で重加算税リスク
役員貸付金が数年単位で残高変動なく放置されると、税務調査で「実態は役員賞与」と認定されるリスクが顕在化します。認定された場合の影響は3層構造で、①法人税で損金不算入(事前確定届出のない役員賞与は損金不算入)、②給与所得の源泉徴収漏れで本税+不納付加算税最大10%、③仮装隠蔽と認定されれば重加算税という重い負担が発生します。残高が大きいほど影響は跳ね上がります。
9-3. 銀行融資の自己査定マイナス
銀行は決算書の役員貸付金を見たとき、原則として「不良資産」「公私混同の証拠」として実質純資産から減算します。役員借入金が中立〜加点であるのと真逆の評価です。決算書上の自己資本がそれなりにあっても、役員貸付金が500万円・1,000万円と乗っているだけで実質純資産は減算され、新規融資の入口で躓きます。さらに、融資条件として「役員貸付金の解消」を求められたり、税理士が変わらないと融資できないと言われたりするケースも実在します。
9-4. 代表死亡時の請求リスクと発生防止策
代表が死亡した場合、役員貸付金は相続人が会社に対する債権者の立場に立つことになり、法人側は相続人から返済を請求される立場に変わる可能性があります。法人にキャッシュがなければ、保有物件の売却で返済資金を捻出するしかなく、事業継続そのものが揺らぐ。役員借入金と方向は違うものの、相続局面で揉める構造は同じです。
発生の典型場面は3つ。社長の個人費用を法人カード・法人口座から支払って精算ができていないケース、社長が法人から「とりあえず」現金を引き出した後に費用区分が確定しないケース、決算整理で社長への仮払金が貸付金に振り替えられるケース。毎月の経費精算ルールの明文化と、法人カード・個人カードの完全分離が最も効く防止策です。
章のまとめとして、役員貸付金は認定利息・認定賞与・銀行マイナス評価・相続時請求の4方向からマイナスが効く完全な論外論点。役員借入金が「身内借金で中立」なのと真逆。発生を許さないルール(経費精算明文化・カード分離)の構築が、決算書設計の優先度最上位です。
役員借入金(法人←代表)と役員貸付金(法人→代表)の真逆性を整理します。役員貸付金は税務・融資・相続のすべてで論外です。
- 認定利息(特例基準割合2025年1.4%)の課税
- 長期未返済で認定賞与=源泉徴収漏れ+不納付加算税10%
- 重加算税リスク
- 銀行自己査定で「不良資産」扱い・実質純資産から減算
- 新規融資ストップ・金利見直し・税理士契約解除条件にする金融機関も実在
- 無利息で計上可(経済的利益課税なし)
- 将来DESで自己資本比率改善
- 銀行格付けでは実質資本性と評価される
- 通達204額面評価リスクはあるがDESで解消可能
- 債務免除・贈与・報酬減額・DESの4手段から状況に応じ選択
📊 10. 建物減価償却比率と銀行格付けのトレードオフ
不動産投資の法人で、決算書設計のもう一つの大論点が建物減価償却比率です。建物比率を上げると償却費が増えて法人税が減る一方、PLが赤字化すれば銀行格付けが下がり新規融資が止まる――この相反する2つの論点を、本章は金融検査マニュアルFAQと自己査定の現実に即して整理します。
10-1. 建物比率を上げるメリット
不動産売買契約書では土地と建物の按分を売主・買主で合意します。建物比率を上げると年間の減価償却費が増え、所得が圧縮されて法人税が減る。木造中古(耐用年数簡便法4年)で1棟5,000万円のうち建物比率を70%とすれば、年875万円の償却を10年弱で取れる計算になります。短期間でキャッシュフローを最大化する典型的な手法です。
10-2. 金融検査マニュアルFAQの整理
建物比率を上げて減価償却赤字を作ると、決算書上は赤字法人になります。ここで効くのが金融庁の「金融検査マニュアルに関するFAQ」の整理です。FAQでは、「減価償却費の負担で赤字となっている場合でも、返済能力に問題がないと判断できれば正常先と取り扱って差し支えない」旨が示されていました。マニュアル本体は2019年12月に廃止されましたが、後継のディスカッションペーパーでも基本的な考え方は引き継がれています。
10-3. 自己査定の実態と2〜3期連続赤字の格下げリスク
FAQの整理は理屈の上では明快ですが、実務では銀行ごと・支店ごと・担当者ごとに自己査定の運用が異なるのが現実です。マニュアル廃止後の2019年12月以降、各行の裁量が増えたため、ある行は減価償却赤字を正常先と判断し、別の行は要注意先に格下げする、ということが起こります。特に新規取引行は機械的に「赤字決算=要注意先」と判断する傾向が強い印象です。
1期だけの赤字なら多くの銀行が許容しますが、2〜3期連続の赤字決算は要注意先・要管理先への格下げリスクが顕在化します。格下げは新規融資ストップ・既存ローンの金利見直し・追加担保要求の引き金になりかねません。法人税節税のメリット(限界税率33%とした場合の節税額)と、格下げによる新規融資機会損失(数千万〜数億円規模)を秤に掛けると、後者の方が圧倒的に重いのが多くの不動産投資家のケースです。
10-4. バランス設計と「税理士・銀行員の谷」を埋める姿勢
実務的な落とし所は、償却前利益(営業利益+減価償却費)が確実にプラスになる範囲で建物比率を設定することです。償却前利益がプラスなら、銀行員に「キャッシュフロー自体は黒字、減価償却で会計上赤字に見えるだけ」と説明でき、FAQの正常先扱いを得やすい。逆に償却前利益までマイナスになると、本質的に返済能力が不足していると判断され、いかなる説明も通らない領域に入ります。
建物比率の最適化を本当に正しく行うには、税務側と融資側の両方を見渡す視点が必要です。税理士は法人税の節税だけを見て建物比率を上げに行きがち、銀行員は格付けだけ見て赤字決算を嫌う。この谷を埋めるのは投資家自身の仕事で、両者の言い分を統合した上で「どこに線を引くか」を決める責任は社長にあります。決算前の数ヶ月で税理士と銀行員の両方と握る習慣をつけるのが、長期保有を回す大家業の現実解です。詳しい銀行対応の組み立て方は銀行紹介物件の見方や2026年型家主5つの軸側のガバナンス論点とも合わせて整理してください。
関西の不動産投資家として、決算書設計と銀行・税務署・相続の3視点を統合的に持つことが長期保有の鍵です。家賃下落圧力に対する対応は「不動産投資家が家賃交渉される時の対応5パターン|借地借家法32条・値下げ拒否・関西の交渉相場と訴訟リスク」、関西4都市別の物件選定実勢は「関西の大家が知るべき不動産投資の実務|大阪・京都・神戸の物件選定・客付け・管理会社の選び方」を併読すると、決算書設計・融資戦略・運営実務の三位一体が見えてきます。
❓ 11. FAQ――役員借入金・DES・決算書設計のよくある誤解
Q1. 役員借入金は銀行に「準資本」として加点してもらえるのですか?
かつての金融検査マニュアル別冊(中小企業融資編)では、社長が返済優先順位を劣後させる旨を明示している役員借入金を実質純資産に加算する整理が示されていました。マニュアル廃止後の2019年12月以降は各行の自己査定基準ごとに運用が分かれるのが実情で、メイン行は加点・新規取引行は中立、というまだら模様です。加点に依存しすぎず、DESや債務免除で「目に見える純資産」を作っておく方が安全です。
Q2. 株式会社・合同会社のDESをセルフ手続で完結できますか?
株式会社は会社法207条9項5号(金銭債権で帳簿価額以下なら検査役省略)の論点があり、GVA法人登記・freee登記等のテンプレートが整備されているのでセルフ可能なケースが多い。一方、合同会社はセルフサービスの情報・テンプレートが乏しく、定款変更条項の漏れや業務執行社員決定書の書式不備で却下リスクが高いため司法書士相談を強く推奨します。報酬相場は4〜7万円台で、却下リスクを考えれば十分にペイする費用です。
Q3. 代表死亡時の役員借入金で、債務超過なら通達205の評価減を取れますか?
原則として取れません。神戸地裁平成22年判決・東京地裁令和5年判決等は、「単なる債務超過の状態にあるだけでは205の評価減を認めない」という考え方を示しています。事業継続中は役員報酬削減等で長期回収可能と見做され、額面評価が維持されるのが標準的な帰結。認容例は清算手続中や6ヶ月以上の休業に入っているケースに限られます。
Q4. DESで資本金を1,000万円ちょうどにするのは何が問題ですか?
消費税免税の判定で「1,000万円以上」は課税事業者と定められているため、1,000万円「ちょうど」は均等割は最安(7万円)のままなのに消費税免税だけ失います。最悪設計です。免税を維持したいなら999万円以下に必ず収める。境界の1円違いで年間数十万円のコスト差が出るので、設計段階で慎重に配分してください。
Q5. 役員貸付金が決算書にある状態で新規融資は受けられますか?
金額が小さく(数十万〜100万円程度)、決算ごとに残高が動いている(精算が進んでいる)なら、銀行担当者の裁量で許容される場合があります。しかし500万円・1,000万円規模で複数期固定の残高になると、ほぼすべての銀行で減点要因となり、新規融資の入口で躓きます。融資前に解消する(社長個人からの返済・債務免除・場合によっては短期借入金で穴埋め)のが現実解です。
Q6. 建物比率を上げて減価償却赤字を作ると、何期目から銀行に問題視されますか?
銀行ごと・担当者ごとに差はありますが、目安としては2〜3期連続の赤字決算で要注意先への格下げリスクが顕在化します。1期だけの赤字なら金融検査マニュアルFAQの整理(減価償却赤字は返済能力が問題なければ正常先扱い)を引用して説明できますが、連続赤字になると説明力が落ちる。償却前利益(営業利益+減価償却費)が確実にプラスになる範囲で建物比率を設定するのが安全圏です。
✅ 12. まとめ――役員借入金からDESへの設計図
役員借入金は不動産投資の法人で避けて通れない論点で、放置すれば銀行印象悪化・税務調査リスク・代表死亡時の相続税地獄・合同会社の強制解散という4方角からリスクが顕在化します。本記事のエッセンスを3点に絞ると、次のとおり。第一に、残高が積み上がる前にDES・債務免除・計画返済の組み合わせで解消を進める。繰越欠損金が潤沢な期は債務免除、ない期はDESが基本選択。第二に、合同会社は社員死亡=強制解散の固有リスクがあるため、定款に会社法608条の承継条項を入れるか社員2名以上にしておく対応が事実上必須。第三に、DES実施時は資本準備金活用で資本金を1,000万円未満または1億円以下に抑える設計を徹底し、住民税均等割と外形標準課税の階段を踏まない。
あわせて、役員貸付金は字面が似ているだけで真逆の論外論点。建物減価償却比率は税理士の言い分だけで決めず、銀行格付けとのトレードオフを社長自身が握ること。決算書は「税金を減らす書類」ではなく「銀行に未来を約束する書類」でもある――この両眼視点を持つかどうかが、長期保有を続ける不動産投資家の生命線です。
📖 この記事の根拠(出典・参考)
- 会社法207条9項5号(検査役調査省略)/445条3項(資本準備金)/607条(社員死亡)/641条1項4号(社員欠缺解散)/585条(持分譲渡)
- 国税庁「財産評価基本通達204・205」「特例基準割合(認定利息)」「タックスアンサーNo.1215」
- 神戸地裁平成22年判決「貸付金債権の相続税評価」
- 東京地裁令和5年判決「通達205の解釈」
- 法務省「合同会社の設立・運営マニュアル」
- GVA法人登記 / freee登記 / 弥生「DESセルフ手続サービス」
- 金融庁「金融検査マニュアルFAQ(減価償却赤字の評価)」
- 小谷野税理士法人「役員借入金の相続税評価」
- 植村会計事務所「DES実施手順詳細」
- レガシィ「役員借入金 相続税対策」
- チェスター「役員借入金 死亡時の取り扱い」
- 山田コンサルティンググループ「擬似DESとは」(疑似DESの定義・手順・税務)
- 福永俊明税理士事務所「DESの税務上の取扱い」(DES・疑似DESの実務)
- 小野山公認会計士・税理士事務所「借入金の資本金への振替(DES)」
- 湘南合同法律事務所「役員からの多額の借入金がある場合の節税相談」
- 税理士法人Sofa「相続税対策!役員借入金DESのメリット」
- RSM汐留パートナーズ司法書士法人「DES実施プロセス」
- 国税庁「相続税法基本通達9-2(みなし贈与)」
- 国税庁「法人税基本通達9-1-13・9-1-14(時価のない株式の評価)」
- 辻・本郷税理士法人「法人税法上の時価の考え方と注意点」
- トゥモローズ「同族会社への貸付金の相続税評価」
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