建ぺい率や容積率のルールは建築基準法で定められています。
投資用物件を購入する時には、その物件が建築基準法に違反していないかを確認する必要があります。
容積率オーバーのような違法建築物の最大の問題点は金融機関からの融資評価が著しく不利になり、物件の購入自体が難しくなったり、購入できたとしても売却時に極端に値段が下がったりしてしまう恐れがあることです。
この記事にたどり着いた方の中には、容積率オーバー物件の購入を迷っている方もいるでしょう。
僕は現役の不動産投資家で、2020年〜2021年の間だけでも、30件〜40件ほどの物件の購入を検討してきましたが、そのうちの10%程が容積率オーバーの物件でした。
個人的には容積率オーバーの物件の購入には消極的で、現在の所有物件の中には容積率オーバーのものは含まれていません。ただし、条件次第では購入を検討する可能性もあります。
この記事を読みすすめることで、容積率オーバーの物件を購入対象になるか極めるための考え方が身に付きます。
建ぺい率や容積率の考え方、容積率オーバー物件ができてしまう仕組みなどもあわせて理解しましょう。
容積率オーバー物件の問題点
容積率とよく似た言葉に建ぺい率があります。
建ぺい率も容積率も建築基準法で物件ごとに上限が定められているため、規定の面積を超過することで違法物件(既存不適格物件)になってしまいます。
建ぺい率の計算方法
建ぺい率とは敷地面積に対して建てられる建物の建築面積の割合いのことで、計算式は以下のようになります。
- 建ぺい率=建物の建築面積÷敷地面積
通常、建築面積は1階部分の床面積が基準になりますが、厳密には建物を真上から見たときの水平投影面積のことを指します。
最近の戸建て物件などでは1階に駐車場があるため、1階部分よりも2階部分の面積の方が大きいこともあるため、その場合は、1階ではなく、2階の床面積が建築面積として採用されます。
用途地域別の建ぺい率の最高限度
建ぺい率の最高限度は用途地域ごとに定められています。
地域 | 建ぺい率 |
---|---|
第一種低層住居専用地域 第二種低層住居専用地域 第一種中高層住居専用地域 第二種中高層住居専用地域 工業専用地域 | 30%、40%、50%、60%のうち都市計画で定める割合 |
第一種住居地域 第二種住居地域 準住居地域 準工業地域 | 50%、60%、70%のうち都市計画で定める割合 |
近隣商業地域 | 60%、80%のうち都市計画で定める割合 |
商業地域 | 80% |
工業地域 | 50%、60%のうち都市計画で定める割合 |
用途地域の指定のない区域 | 30%、40%、50%、60%、70%のうち特定行政庁が定める割合 |
建ぺい率の緩和規定と制限のないものについて
建ぺい率の緩和規定には以下のようなものがあります。
一方、建ぺい率の制限のないものには以下のようなものが含まれます。
建物の敷地が異なる建ぺい率の地域にわたる場合は、それぞれの地域の面積により、加重平均された割合いが採用されます。
容積率の計算方法
容積率とは敷地面積に対する建物の延べ面積の割合いのことです。
容積率の計算式は以下のようになります。
- 容積率=建物の延べ床面積÷敷地面積
延べ面積とは各階の床面積の合計です。
建ぺい率が建築面積(水平投影面積)の面積率であることにたいして、容積率は建物全体の床面積を表しています。
用途地域別の容積率の最高限度
容積率についても建ぺい率同様、用途地域ごとに最高限度が定められています。
【用途地域別の容積率の最高限度】地域 | 容積率 |
---|---|
第一種低層住居専用地域 第二種低層住居専用地域 | 50%〜200%のうち都市計画で定める割合 |
第一種中高層住居専用地域 第二種中高層住居専用地域 第一種住居地域 第二種住居地域 準住居地域 近隣商業地域 準工業地域 | 100%〜500%のうち都市計画で定める割合 |
工業地域 工業専用地域 | 100%〜400%のうち都市計画で定める割合 |
商業地域 | 200%〜1300%のうち都市計画で定める割合 |
用途地域の指定のない区域 | 50%〜400%のうち特定行政庁が定める割合 |
もし敷地面積が100㎡で容積率の上限が200%の場合は認められる延べ面積は200㎡までとなります。
仮に1フロアを50㎡だとすれば4階建までしか建築できない計算です。
前面道路幅による容積率
敷地の前面道路の幅員が12m未満の場合は、その前面道路の幅員(m)の数値に以下の乗数を乗じたものと、各用途地域の都市計画で定められた容積率とを比較して、数値が少ない方がその容積率となります。
前面道路が2つ以上ある場合は、その幅員の最大のものが適応されます。
建物の敷地が異なる容積率の地域にわたる場合は、建ぺい率同様、それぞれの地域の面積により、加重平均された割合いが採用されます。
どうして建ぺい率や容積率を守らないといけないのか?
これから物件を建設し経営を始めようとしている家主からは以下のような疑問があがると思います。
そもそも、どうして建ぺい率や容積率を守らないといけないの?
限られた敷地内に無駄無く沢山の戸数の部屋を確保できた方が、高い収益につながるのに…
それでは何故、建ぺい率や容積率を守らないといけないのでしょうか?
一般的には以下のようなことが理由が考えられます。
経営者目線で考えると、限られた資金や資産(土地)で利益を最大化させることは大切ですが、これらの理由を考慮すると、定められた建ぺい率や容積率はちゃんと守らないといけないことが分かります。
容積率オーバー物件が建てられる仕組み
ここからは建築基準法に基づく工事の流れの中で、建ぺい率や容積率を超過した物件ができてしまう仕組みを解説します。
新築の建物だけではなく、増築や改築の場合も同様の流れの手続きが必要です。
建築基準法に基づく手続きの流れ
一般的に建物が建てられる場合、以下のような流れで建築が進められます。
- 設計段階建築計画の作成
- 建築確認申請および建築計概要証書を提出する
- 建築確認済証(建築確認通知書)を取得する
- 工事段階建築の着工
- 一定規模の建物の場合は中間検査申請を提出する
- 中間検査合格証を取得する
- 工事完了建物の完成
- 完了検査申請を提出する
- 検査済証を取得する
現在、建築基準法にて工事完了にともなう検査済証の交付を受けるには、以下の3種類の申請が必要です。
- 建築確認申請
- 中間検査申請
- 完了検査申請
もう少し詳しく解説します。
建築確認の申請
まずはじめに、設計段階では建築計画を作成したうえで、役所または民間の指定確認検査機関に対して建築確認申請書を提出します。
建築確認の内容をもとに建築基準法の規定に適合しているかの審査を受け、問題がなければ確認済証を取得し、建築をすすめることができるようになります。
中間検査の申請
一定規模の建物を建築する場合、工事段階で中間検査申請を作成します。
すべての工事が完了してしまうと、壁や柱のような内部構造が目視で確認できなくなるため、中間検査により、当初の計画通りに建築が進められているかのチェックを受け、問題がなければ中間検査合格証を取得する流れです。
もし、工事の途中で違反が発覚した場合は、特定行政庁により、工事の停止命令が下されることもあります。
中間検査は阪神大震災の被害状況を踏まえ、1999年(平成11年)に導入された制度です。
当初、中間検査を義務付けるための条件(建物規模など)は特定行政庁(都道府県や市町村)により個別に定められていました。
その後、2007年には構造計算書偽装問題(姉歯事件)などの影響を踏まえ、『3階建て以上鉄筋コンクリート造の共同住宅の床及び梁の配筋工事』については全国一律で中間検査が義務付けられるようになりました。
完了検査の申請
建物が完成すると工事完了から4日以内に完了検査申請を提出します。
もし完了検査申請の内容が当初の設計計画からずれている場合は、完了済書を取得できません。
ただし、検査済証を取得しなかったとしても、建築基準法上、何かペナルティを受けることがないため、現実問題としては完了検査を受けていない建物も多数存在します。
なお、ちゃんと完了検査を受けて承認を受けていれば、検査済証を紛失したとしても、再取得が可能なため、特に心配はいりません。
違法建築物と既存不適格建築物の違い
容積率オーバーのような建築基準法違反の建物は『違法建築物』と『既存不適格建築物』の2種類に分けられます。
容積率オーバー物件が建築される流れを踏まえ、違法建築物と既存不適格建築物の違いをまとめました。
違反建築物は違法性の高い悪質な物件
違反建築物はその名の通り、建築基準法を無視した違法な物件のことです。
罰則については明確な規定は無く、対応も地域によってさまざまですが、あまりに悪質(危険)であったり、地域住民からクレームが入ったりした場合には、厳しい監査が入る可能性もあります。
また、既に完成後の場合でも使用禁止や改善命令を受ける可能性があり、最悪の場合は強制執行による取り壊しのような処置が下されるかもしれません。
万が一、行政処分を受けることになると、是正のための費用負担も、当然、物件所有者側の負担となるため、想定外の出費が掛かってしまう可能性も十分にあります。
既存不適格物件は違反な物件では無い
一方、既存不適格物件は建築当初は何も問題が無かったものの、その後、規制が強化されることによって、結果的に不適格となってしまった物件のことです。
基本的には使用禁止や改善命令が出される可能性は低く、何か問題が生じても、ある程度の緩和措置は受けることができるでしょう。
ただし、将来、これ以上の増改築をする場合には現行のルールを守る必要がありますし、新しい物件を建て替える場合も、従来の(規制強化前の)ルールで建築することはできません。
野放しになっている容積率オーバーの物件
既存不適格物件については、すぐに何かを改善する必要はありませんが、違反建築物については本来であれば、何だかの対応が必要になるはずです。
ただ、現実問題としては明確な罰則が定められていなかったり、居住権の効力が強いため、実際に人が住んでいる住宅を取り壊すことはとても難しいです。なので、もし建築基準法に違反していたとしても、結果的に野放しになってしまっているのが現状です。
容積率オーバー物件が融資に与える悪影響
この記事の冒頭でもお伝えした通り、容積率オーバーの物件の最大の問題点は融資評価が著しく低くなることです。
購入時の融資評価が低くなる影響
購入時に物件の評価が低くなってしまうと、金融機関からの十分な借り入れができない可能性が高くなります。
戸建のように数百万円で購入可能な物件であれば、現金購入も可能ですが、価格が数千万円を超えるアパートや1棟マンションの場合、十分な融資が下りなければ、物件を購入することができません。
インターネットや書籍などでは容積率オーバー物件であっても、融資を受けられる可能性は十分にあるという意見もありますが、融資を受ける側の個人属性や金融機関側の内部事情によっては、全然融資に結びつかないことも多く、僕の個人的な感覚としても2020年〜2021年では余り前向きな金融機関は見つかりませんでした。
スルガ銀行、静岡銀行、三井住友トラストL&Fのような融資に積極的なノンバンク系の金融機関であれば、借り入れが期待できるかもしれませんが、仮に融資を受けられたとしても金利が高かったり返済期間が短かったりと、長期的に考えて不利益になるケースが多いでしょう。
売却時の融資評価が低くなる影響
容積率オーバーの物件は出口戦略に大きなマイナス影響を与えます。
何故なら、金融機関から融資を受けられなかったり、仮に受けれたとしても物件評価額が大幅に下がってしまうからです。
金融機関からの物件評価が下りない、または下がるということは、次に購入する人に対する融資枠(融資できる金額)もマイナスの影響を与えます。そうなると購入できる人が少なくなってしまう(もしくはいなくなってしまう)ため、自然と売却可能な価格も下がってしまいます。
融資の判断基準は金融機関ごとに異なるため、一概に融資ができないということはありませんが、今後、規制やコンプライアンスが強化されれば、購入する(所有者側からすると売却する)条件が課せられてしまうことは間違い無いでしょう。
所有期間中には経済的な不利益はそれ程感じないかもしれませんが、売却時には容積率オーバーを理由に値下がりしてしまう恐れは十分にあると言えます。
仮に高い収益を継続できていたとしても売却時の価格が大きくマイナスになってしまえば、結果的に投資として失敗に終わってしまいます。
賃貸経営を進める上で、出口戦略は予想以上に重要です。
仮に物件を購入できたとしても、次は売却時に評価が下がってしまうことも考えられます。
もし購入希望者が現れたとしても、融資評価額が低ければ借り入れはできないため、必然的に購入できる人が少なくなってしまいます。
中には現金一括購入が可能な資産家もいるかもしれませんが、購入希望者の候補が少ないということは、その分、価格低下圧力が掛かり、売却価格にも大きな影響が出てしまうでしょう。
出口戦略についての考え方は以下の記事でより詳細に解説しています。
容積率オーバー物件についての考え方
金融機関や世間一般的な評価を考えると、容積率オーバーの物件はデメリットが多いように感じてしまいます。
ただし「容積率オーバーの物件は投資対象としてはNGなのか?」と聞かれると、多くの賃貸経営者は「条件次第では検討の余地がある」と答えます。
魅力的な高利回り物件が存在する
容積率オーバーの物件は訳あり物件であることは確かです。
ですが、その分、通常よりも一段と安値で購入できたり、同じ水準の物件と比べてかなり高利回りだったりします。
もし投資額を短期間で回収できそうな場合や長期的な保有を想定する場合は購入を検討するのもありでしょう。
なお、不動産投資の世界では収益性が高く魅力的に見えるものの実は問題を抱えているような訳あり物件が一定数存在します。
一般的な高利回り訳あり物件の特徴をまとめましたので、極端に高利回りな物件を見つけた場合は該当しないかチェックしてみましょう。
種類 | 物件の特徴 | デメリット |
---|---|---|
再建築不可物件 | 建築基準法を満たせれていない物件 | 再建築ができない |
容積率オーバー | 容積率が超過した物件 | 融資評価額が下がる |
建ぺい率オーバー | 建ぺい率が超過した物件 | 融資評価額が下がる |
市街化調整区域の物件 | 市街化を抑制する地域の物件 | 融資評価額が下がる 入居付けに苦労する |
採光不良の物件 | 日当たり制限を満たせていない物件 | 室内環境の悪化 身体への悪影響など |
接道義務の物件 | 接道の幅が不十分な物件 | 消防活動の妨げになる 救急車両の妨げになる |
旧耐震基準法 | 新耐震以前に認可を受けた物件 (1981年5月31日以前) | 倒壊の恐れが高い 保険加入料金が高い |
借地権付き建物 | 借地上に建築した物件 | 地代(借地料)支払いの義務 変更時は地主承諾が必要 |
社会的評価への影響は?
違法建築物や既存不適格物件を保有していると物件所有者の社会的評価にも影響を与えるという意見もあります。
容積率オーバーの物件は建築基準法に違反した物件であり、仮に収益に繋がるとしても敬遠する購入者が増えることは十分に予想できます。
ちなみに、全国の中でも関西、特に大阪では容積率オーバーの物件がかなり集中しています。
そのため、意外とそれがまかり通りいるのも事実であり、必ずしも購入者が見つからないとまではならないのかもしれません。
ただし、どのタイミングで規制が強化されるかは予想できないですし、安心した経営を心掛けたいのであれば、やはり可能な限り避けるべき物件だと思います。
デメリットを理解した上で検討しよう
勿論、注文住宅など個人で物件を設計する時も気を付けないといけませんが、現在市場に出回っている物件の中にも地域によっては容積率オーバーの物件が結構存在するので注意が必要です。
広告などにも意外としれ~っと「本物件は容積率オーバーです。」と記載されている事もあります。
容積率オーバーの物件は、限られた敷地面積の中で、本来、建築が認められている以上の延べ床面積を確保した物件であるため、その分、高利回りや割安感もあるかもしれません。
デメリットを理解した上で、それ以上のメリットが見込める場合は、是非、検討してみても良いでしょう。
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