相続時精算課税制度のメリットは?節税対策の仕組みを理解しよう!

節税対策
この記事は約12分で読めます。

贈与や相続について調べていると、相続時精算課税制度という言葉を耳にするかもしれません。

相続時精算課税制度を適切に活用することで、贈与税や相続税を削減する効果があります。

ただし、相続時精算課税制度はとても複雑な制度です。

複雑な理由としてはこのようなことが挙げられると思います。

  • 覚えるべきポイントや前提条件が沢山ある
  • 断片的な情報をもとに語られることが多く全体像が見えにくい
  • 結局、得するのか?損するのか?が分かりにくい

ですが、この記事を読んで頂ければ相続時精算課税制度の仕組みや、その他の疑問点がある程度、理解できる内容になっています。

是非、最後まで読んで頂ければと思います。

  • 相続税や贈与税の仕組みについて知りたい
  • 相続時精算課税制度の全体像が知りたい
  • 相続時精算課税制度が自分に適しているのか知りたい
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相続税と贈与税の違いは?

まず相続時精算課税制度の解説に入る前に「相続税」と「贈与税」の違いについて理解する必要があります。どちらも同じような言葉ですが、「相続税」と「贈与税」の違いが理解できていないと必ず混乱してしまうからです。

人から無償で財産を受け取る場合「相続」と「贈与」の2つに分けられます。そして、一定の金額を超えると「相続には相続税」「贈与には贈与税」の納税義務が課せられます。

  • 相続税
    • 被相続人(財産を与える側)が死亡し相続が発生した財産についての課せられる税金
  • 贈与税
    • 贈与人が生きているうちに受贈者に対して無償で与えた財産について課せられる税金

つまり、相続は非相続人(財産を与える側)が死亡しないと発生しませんが、贈与は贈与者(財産を与える側)が生きている間に財産を引き渡すことができます。

相続税の計算方法

相続税はまず基礎控除額を計算します。

相続税の基礎控除額

  • 3,000万円+600万円×相続人の数

例えば相続人の数が3人(母親と子供2人)だった場合、基礎控除額は4,800万円になります。

  • 3,000万円+600万円✕3人=4,800万円

相続税の税率の適応

基礎控除額で控除しきれなかった場合は、以下の相続税の速算表の金額に税率を乗じて計算します。

法定相続分に応ずる取得金額税率控除額
1,000万円以下10%
1,000万円超〜3,000万円以下15%50万円
3,000万円超〜5,000万円以下
20%200万円
5,000万円超〜1億円以下30%700万円
1億円超〜2億円以下40%1,700万円
2億円超〜3億円以下45%2,700万円
3億円超〜6億円以下50%4,200万円
6億円超55%7,200万円

相続税は直近で2015年に税制改正されていて、基礎控除額が大幅に削減されています。

つまり、これまでは相続税を支払う義務が無かったような人達も、税制改正により相続税を納税しなければいけなくなってしまいました。また納税すべき相続税率も少しずつ増えてきています。

相続税と聞くと「一部のお金持ちで資産家の家庭にしか縁の無い話」というイメージがありますが、今後はさらに相続税を収めなければ行けない家庭が増えてくるかもしれません。

贈与税(暦年課税)の計算方法

贈与税の課税方式は以下の2種類に分けられる。

  • 暦年課税
  • 相続時精算課税制度

相続時精算課税制度は申請が必要となる選択式であるため、特に申請をしなければ通常の暦年課税が適応されます。

暦年課税と相続時精算課税制度の違いは以下の通りです。

暦年課税相続時精算課税制度
非課税額年間110万円一生涯で2,500万円
贈与時の税率累進税率をもとに10%~50%2,500万円超過分は一律20%
相続時の税率相続開始3年前までの贈与を相続財産に加算全ての贈与を相続財産に加算
※納付済の贈与税は控除
適応条件無し贈与者…60歳以上の親または祖父母
受贈者…20歳以上の子(推定相続人)

この記事のポイントである相続時精算課税制度については、後ほど、詳しく解説します。

まずは通常の課税方式である暦年課税の仕組みについて説明します。

誰にでも適応される基礎控除

贈与税の基礎控除額は年間110万円です。

贈与額が110万円以下の場合は、贈与税は発生しませんし、申告書の提出も不要です。

連年贈与はペナルティの対象になる?

贈与税を節税するために以下のように考える方も多いと思います。

複数年に渡って毎年基礎控除額の110万円ずつ贈与を繰り返せば贈与税が掛からなくて済むのでは無いか?

一見、とても良い考えに思えますよね。

ですが、長期に渡って毎年110万円ずつ贈与を繰り返すことが「連年贈与」と判断されれば、毎年分の合計金額を一括で贈与したして、とても高額な贈与税が課税される可能性があります。

贈与者と受贈者との間で(口約束も含めて)契約されている場合には、契約をした年に将来連年贈与を予定している金額が課税対象となってしまします。

ですが、一方、「予め期間を定めずに毎年110万円ずつ贈与を続け、結果的に10年間、贈与が続いた」ということであれば連年贈与には該当しないとされています。

少し屁理屈なようにも聞こえますが、連年贈与と判断されないために、贈与のたびに贈与契約書を作成したり、毎年の贈与金額や時期を微妙に変えるような工夫(?)をすると連年贈与と判断される可能性を抑えることができます。

相続開始前3年以内の贈与に注意

近い将来、相続が発生する(つまり相続人が死亡する)ことを想定して、生前贈与を検討する人も多いと思います。

ただし、このような相続税納税の回避を防ぐために、相続開始前3年以内に被相続人から贈与により取得した財産は、相続財産として加算されてしまいます。また、その財産分の贈与税がある場合は相続税額から控除されます。

相続を見据えた生前贈与を検討する際は、相続開始の時期(つまり相続人が死亡する時期)からある程度逆算した計画が必要になります。

配偶者からの居住用不動産に適応される配偶者控除

贈与税の配偶者控除は以下の要件を満たした場合、配偶者からの住居用不動産やその購入資金を贈与された場合、課税価格から2,000万円控除できる規定です。

  • 婚姻期間が20年以上である
  • 取得の翌年3月15日までに居住し、その後も居住する見込みである
  • 関連書類を添付した申告書を提出する
  • 居住用不動産の価格が2,000万円未満でも他の財産からは控除できない
  • 同じ配偶者から贈与を受けた財産で過去に同特性を適応している場合は適応されない

直系親族からの居住用不動産に適応される非課税制度

2015年〜2021年までの間に直系尊属(父母や祖父母など)から居住用の住宅取得のための資金を受け取った場合、受贈者は贈与を受けた翌年の3月15日までにその資金を一定の家屋の新築や増改築に充てて、継続的に居住することが見込まれる場合、以下の条件で非課税となります。

非課税となる金額は「省エネ等住宅」か「省エネ等住宅以外の住宅」かによって変わりますが、その他にも消費税の税率(8%か10%か)によっても変わります。

消費税率が8%の場合、省エネ等住宅および省エネ等住宅以外の非課税額は以下の通りです。

契約締結日省エネ等住宅省エネ等住宅以外
2015年1月1日~2015年12月31日1,500万円1,000万円
2016年1月1日~2020年3月31日1,200万円700万円
2020年4月1日~2021年3月31日1,000万円500万円
2021年4月1日~2021年12月31日800万円300万円

一方、消費税率が10%になると、省エネ等住宅および省エネ等住宅以外の非課税額は以下のように変わります。

契約締結日(消費税10%)省エネ等住宅省エネ等住宅以外
2019年4月1日~2020年3月31日3,000万円2,500万円
2020年4月1日~2021年3月31日1,500万円1,000万円
2021年4月1日~2021年12月31日1,200万円700万円

消費税率が8%でも10%でも、少しずつ非課税限度額が削減されていることが分かります。

贈与税(暦年課税)の税率の適応

贈与税の計算は、贈与によって取得した財産の合計額から基礎控除額や配偶者控除などの金額を差し引いた後の金額に、以下の贈与税の速算表の税率を乗じて計算します。

基礎控除後の課税価格税率控除額
200万円以下10%
200万円超〜300万円以下15%10万円
300万円超〜400万円以下20%25万円
400万円超〜600万円以下30%65万円
600万円超〜1,000万円以下40%125万円
1,000万円超50%225万円

贈与税(暦年課税)はとにかく高い!

ここでもう一度、相続税と贈与税のそれぞれの税率を見直して見て下さい。

それぞれの速算表を見比べると、相続税に比べて贈与税の負担比率が比べ物にならない程高いことが分かります。

何故でしょうか?

それは、相続税がたくさん発生するような家庭では、少しでも相続税を抑えるために被相続人が生きているうち(生前)に財産を受け渡すことで、少しでも相続税の負担を減らそうと考える人達がいます。このような方法で相続税の支払いを免れることが無いように「贈与税」という考え方が生まれました。

そのため贈与税は相続税と比べるとかなり大きな負担率が設定されているのです。

相続税と比べると贈与税はとても割高な税率が設定されています。
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相続時精算課税制度とは

相続時税参加税制度とは「贈与税の特例制度」で親から子供への生前贈与をスムーズにおこない、世の中の経済を少しでも活性化することを目的に2003年に創設された制度です。

贈与者側としても自分が生きている間に財産の分配を明確にし、自分の死後、相続争い(争族)でもめないようにするためにも相続時精算課税制度を活用した生前贈与を選択することもあります。

相続時精算課税制度の仕組み

相続時精算課税の特徴は以下の通りです。

  • 生前贈与時の贈与税を受贈者ごとに最大2,500万円まで特別控除とする
    • 複数年にまたがる贈与の場合は合計額(累計)が2,500万円まで特別控除とする
    • 通常の贈与税は贈与者ごとに1年間で110万円まで基礎控除となる
  • 特別控除額を超える部分に対しては、一律20%の税率が適用される
  • 相続発生時に生前贈与された財産もあわせて精算し課税される
  • 贈与税としては最大2,500万円まで控除されるが相続税としては課税対象になる
  • 株式や不動産のように価格変動がある財産については相続時ではなく贈与時の評価額を基準に計算される
  • 一度、相続時精算課税制度を選択すると、その後に暦年贈与に戻すことはできない
    • その後、通常の暦年贈与の110万円の基礎控除が受けられなくなる
  • 適応対象者の条件が定められている
    • 贈与者…(その年の1月1日時点で)60歳以上の親(父母または祖父母)
    • 受贈者…20歳以上の子(推定相続人)

「最大2,500万円まで非課税」というキーワードが誤解を招くようですが、上記でも記載されている通り、贈与税としては最大2,500万円までは特別控除され非課税になるが、将来的に相続が発生した(つまり相続人が死亡した)タイミングでは贈与された財産に対して、相続税として課税されます。

名前の由来は「贈与した際、最大2,500万円までは贈与税を非課税とし、相続時に非課税としていた贈与税も含めて精算して課税する制度」という意味になります。

住宅取得等資金贈与に係る特例

2021年12月31日までは居住用の住宅を取得するための資金贈与を受けた場合は、贈与者の年齢要件が無くなり、親が60歳未満であっても相続時精算課税が適応されます。

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相続時精算課税制度の注意点

相続時精算課税制度のメリットとデメリットを中心に制度を利用する場合の注意点をまとめます。

相続時精算課税のメリット

相続時精算課税を上手く活用すれば節税効果を高めることが可能です。具体的には以下のようなメリットがあります。

納税の先延ばしが可能

相続時精算課税制度を利用し、贈与税の納税を先延ばしにすることで、早いタイミングで財産を受け継ぐことができます。

資産運用などで効率的にお金を増やしていくことを考えると、財産の贈与は早ければ早い程良いはずです。早くお金が手に入れば、そのお金を有効活用して資産運用や事業ができます。つまり10年後の1,000万円より、今すぐに手に入る1,000万円の方が価値は大きいのです。

特にこれからインフレが進めば進むほど、その影響は大きくなります。

相続によりいずれ手に入る予定のお金なのであれば、相続時精算課税制度を上手く活用し、少しでも早いタイミングでの資産構築を目指すことが、将来的に大きな財産になるはずです。

節税効果が期待できる

「相続時精算課税制度は納税の先延ばしであり節税効果は無い」と言われますが、2,500万円以下の贈与であれば非課税です。

また、相続時には財産として受け取った全ての贈与額が相続税の対象として取り扱われますが、相続税の基礎控除額の範囲内であれば相続税は掛かりません。

全ての人にとって相続時精算課税制度がお得であるとは言えませんが、恩恵を受けられる人も意外と多いはずです。

相続時精算課税制度のデメリット

一方、相続時精算課税制度には注意点も沢山あります。デメリットをしっかり理解しなければ「節税のつもりだったのにむしろ損してしまった」ということになってしまいます。

暦年贈与に戻せない

一度、相続時精算課税制度を選択すると、二度と暦年贈与には戻せなくなります。

そのため、年間110万円の基礎控除も適応されなくなり、全ての贈与額が相続時精算課税制度の対象となってしまいます。

特例制度が受けられない

相続時精算課税制度を選択すると、小規模宅地等の特例制度が受けられなくなってしまいます。

小規模宅地等の特例制度とは、非相続人と一緒に生活し生計をともにしていた相続人について、一定の条件を満たすことで相続税が最大で50%〜80%減額される制度です。

相続時精算課税制度を利用する場合、小規模宅地等の特例制度との併用はできないため注意が必要です。

相続税が2割加算になる

相続時精算課税制度は受贈者が「一親等の血族」か「配偶者」以外である場合、相続税が2割加算されてしまいます。

一親等の血族とは子供か父母のことを意味します。

つまり孫への贈与の場合は代襲相続で無い限り、相続税が2割加算されます。

相続時精算課税に必要な書類

通常の暦年贈与であれば年間110万円(基礎控除額)以下までであれば贈与税は掛かりませんし、申告書の提出なども特に必要ありません。

一方、相続時精算課税制度を選択する場合、受贈者は贈与を受けた翌年の2月1日〜3月15日までの間に、以下の届出書を提出しなければいけません。

  • 確定申告書
  • 相続時精算課税選択届出書
  • 戸籍謄本

自身(受贈者)が贈与者の推定相続人であることを証明できるように戸籍謄本も併せて提出する必要があります。

なお、コロナウイルスの影響により、2019年度分の確定申告に限り、申告期限が2020年の4月16日(木)までに延長されました。

  • 所得税の確定申告期限
    • 2020年3月16日(月)→2020年4月16日(木)に延長
  • 消費税の確定申告期限
    • 2020年3月31日(火)→2020年4月16日(木)に延長

※「青色申告申請書の提出期限」や「贈与税の申告期限」については、特に申告期限の延長は無く、2020年3月16日(月)のままです。

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結局は節税になるの?

結局、相続税として納税させられるのであれば余り意味は無いのではないか?と思う人もいるかと思いますが、実際は効果があるのでしょうか?

相続税の基礎控除額がポイントになる

相続時精算課税制度を選択することによって以下のような効果があります。

  • 贈与税よりも相続税の方が基礎控除額が大きいため課税の負担が少なくなる
  • 贈与税よりも相続税の方が税率が低いため課税の負担が少なくなる
  • 相続が発生するまで待つ必要が無く、早いタイミングで財産を受け取れるため将来に向けた資産拡大が期待できる

相続時精算課税の効果にもっとも影響を与えるのは相続税の基礎控除額が大きなポイントになります。相続税の基礎控除額が「相続時精算課税制度を活用した後の課税対象額」より大きければ、そもそも相続税は発生しません。

こう考えると「相続時精算課税制度には大きな節税効果がある」と言えることが分かると思います。

財産を不動産にすることで評価額を圧縮できる

相続時精算課税制度に限った話ではありませんが、贈与や相続をする場合、財産を現金の状態で受け渡すのではく、不動産にして受け渡すことで、財産の評価額を大きく抑えることができます。

例えば、現金1億円は当然1億円として評価されますが、この1億円で購入した不動産を受け渡すと、(条件にもよりますが)評価額を40%〜70%程に抑えることもできます。

相続のために必要でも無い住宅(もしくは正常に運用できない投資用物件)を購入しても逆効果ですが、評価額を抑えることができれば、その分、贈与税や相続税の課税対象となる金額を抑えることができるので、大きな節税効果が期待できます。

 

プロフィール

楽待新聞&不動産投資Libraryのコラムニストをしています。
普段、不動産投資家として考えていることや体験談などを掲載しています。
これから不動産投資を始めたい方や、賃貸経営初心者の方に対して、分かりやすい内容を心掛けています。

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