重要事項説明書(重説)で迷うのは、「どこを読めば、この物件を買ってよいか判断できるのか」です。専門用語と細かい欄が並び、契約直前に宅建士が一度読み上げるだけでは、私道負担・借地・容積率オーバー・接道・ローン特約といった「後で取り返せない」情報を聞き流しかねません。
読み方の軸は、「権利関係」「法令上の制限」「インフラ・災害」「契約条件」の4ブロックに分けて、投資特有のリスクを先回りで確認することです。とくに中古の収益物件では、法令上の制限の欄を「いま建っている建物の説明」ではなく「建替えたら何が建つかの条件」として読むと、融資と出口の見え方が変わります。マイソクの数字(マイソクの落とし穴)や現地調査(現地調査チェックリスト)と突き合わせれば、買ってはいけない物件を契約前に外せます。
- 収益物件の重要事項説明書を受け取ったが、どの欄をどう読めばよいか分からない方
- 「法令上の制限」の欄から、建替え後に建てられる延床や戸数を読み取りたい方
- 用途地域・容積率・接道・防火地域が、融資と出口にどう効くかを押さえたい方
- 登記の「共同住宅」と、建築基準法の共同住宅・長屋の違いを知りたい方
- 手付・違約金・ローン特約で、売主が業者か個人かによって何が変わるかを知りたい方
- 契約前に印刷して使える重説のチェックリストが欲しい方
- 重要事項説明書=宅建業法35条に基づき、契約前に宅建士が説明する書面。2022年5月から押印は不要になり、承諾すればPDFなどで受け取れる
- 読む軸は「①権利関係 ②法令上の制限 ③インフラ・災害 ④契約条件」の4ブロック
- 法令上の制限の欄は「建替えたら何が建つか」で読む。容積率は、前面道路の幅員が12m未満なら、指定の数値と「前面道路の幅員×係数」の低い方が上限
- 接道は道路の種別(2項道路か)と、共同住宅にかかる条例の上乗せまで確認する
- 重説の「建物の種類」は原則として登記の記録どおり。建築基準法上の用途(共同住宅か長屋か)は建築計画概要書と確認済証・検査済証で確かめる
- 違約金20%・手付20%の上限は売主が宅建業者のときだけ。個人が売主の中古一棟には宅建業法の上限がかからず、契約書の数字が基準になる
- 当日の説明で初めて全文を見る
- 建物が建っているので、法令上の制限の欄は読み流す
- 「建物の種類:共同住宅」を見て、建替えても同じ規模が建つと思い込む
- 違約金20%を法律の決まりだと思って確認しない
- 事前にコピーを取り寄せ、登記簿・公図・マイソク・現地と突き合わせる
- 容積率・接道・防火地域・高さの制限から、建替え後の延床と構造を出す
- 建築基準法上の用途と、共同住宅にかかる接道の上乗せを確かめる
- 売主が業者か個人かで、違約金・手付・不適合責任の効き方を読み分ける
- 📄 1. 重要事項説明書とは――35条書面・マイソク・契約書との違い
- 🗂️ 2. 重説の全体像――4ブロックで読む
- ⚖️ 3. ①権利関係――登記・抵当権・借地権
- 🏛️ 4. ②法令上の制限――「建替えたら何が建つか」で読む
- 🚰 5. ③インフラ・災害――私道負担・排水・災害の区域
- 📑 6. ④契約条件――手付・違約金・ローン特約・契約不適合責任
- 💻 7. IT重説・電子交付の注意点――オンラインでも手を抜かない
- 🔍 8. 重説を登記簿・公図・確認済証・現地と突き合わせる
- ✅ 9. 重要事項説明書チェックリスト(保存版)
- ❓ よくある質問――重要事項説明書の疑問
- 📝 10. まとめ――重説は「建替え後の姿」と「契約が壊れる条件」を読む書面
- 📖 この記事の根拠(出典・参考)
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📄 1. 重要事項説明書とは――35条書面・マイソク・契約書との違い
重要事項説明書は、宅地建物取引業法35条に基づき、契約が成立するまでに、宅地建物取引士が買主(賃貸では借主)に書面を交付して説明する法定書面です。宅建士は説明の際に宅建士証を提示し(35条4項)、書面には宅建士が記名します(同5項)。2022年5月18日施行の改正で押印は不要になり、買主が承諾すれば、PDFなどの電磁的方法で受け取ることもできます(同8項)。
説明を省けるのは、買主が宅建業者の場合だけです。法人で買う投資家でも、宅建業者でなければ説明を受けられます。マイソク(物件概要書)が業者の作る任意の販売資料であるのに対し、重説は法律で記載事項が定められた書面です。
| 書面 | 性格 | 交付のタイミング |
|---|---|---|
| マイソク(物件概要書) | 業者が作る任意の販売資料 | 問い合わせ・内見の前後 |
| 重要事項説明書(35条書面) | 宅建業法で記載事項が決まった法定書面 | 売買契約の締結前 |
| 売買契約書(37条書面) | 成立した契約の内容を書き留める法定書面 | 契約の成立後、遅滞なく(37条1項) |
売買でのIT重説(オンラインの重要事項説明)は、2021年3月30日から本格運用されています(国土交通省)。対面でもオンラインでも、事前にコピーを取り寄せて予習し、当日は「質問の場」にするのが投資家の読み方です。
🗂️ 2. 重説の全体像――4ブロックで読む
35条書面の記載事項は多岐にわたりますが、投資判断の観点では次の4ブロックに整理すると読みやすくなります。
| ブロック | 主な記載事項 | 投資家が見る理由 |
|---|---|---|
| ① 権利関係 | 登記・所有権・抵当権・借地権・賃借権 | 担保・融資・出口の可否に直結 |
| ② 法令上の制限 | 区域の別・用途地域・建蔽率・容積率・敷地等と道路との関係・私道の変更又は廃止の制限・その他の制限 | 建替え後の延床・構造・再建築の可否 |
| ③ インフラ・災害 | 電気ガス水道・排水・私道負担・災害の区域・建物状況調査 | 追加工事費・災害リスク・保険料 |
| ④ 契約条件 | 手付・解除・違約金・ローンのあっせん・契約不適合責任の履行に関する措置(保険など) | 契約が壊れる条件と、そのときの負担 |
⚖️ 3. ①権利関係――登記・抵当権・借地権
- 登記名義と売主の一致:所有者と売主が同一か。相続未登記・共有は、決済までに片付くかを確認します
- 抵当権・差押:残債が売買代金で完済され、決済と同時に抹消されるか。抹消の段取りが書かれていない抵当権は、その場で理由を聞きます
- 借地権か所有権か:借地権なら地代のほか、契約の内容によって更新料や譲渡の承諾料がかかり、融資の評価も変わります。旧法か新法かも確認します
- 賃借人の権利:既存の賃貸借契約(普通借家か定期借家か)と、サブリースの有無
登記簿の乙区で抵当権と借入先を読む方法は不動産登記事項証明書の読み方、抵当権・根抵当権の基礎は抵当権と根抵当権の違いで解説しています。
🏛️ 4. ②法令上の制限――「建替えたら何が建つか」で読む
法令上の制限の欄に書かれているのは、「いま建っている建物」ではなく「この土地に今後建てられる建物」の条件です。中古の収益物件では建物がすでにあるため読み流されがちですが、容積率の超過や再建築の可否は融資と出口に響くので、この欄から「建替えたらどの規模のものが建つか」を自分で出しておきます。
国土交通省の様式例では、都市計画法・建築基準法に基づく制限として次の欄が並びます。全国宅地建物取引業協会連合会(全宅連)の書式(土地建物の売買・交換用)でも、区域区分・用途地域・地域地区・建ぺい率・容積率・敷地と道路との関係・私道の変更廃止の制限の欄が並び、高さの制限と条例による制限は別の欄になっています。
| 欄 | 書かれていること | 投資家が確認すること |
|---|---|---|
| 区域の別 | 市街化区域/市街化調整区域/非線引区域など | 市街化調整区域なら、建替えに都市計画法の許可が要るかを個別に確認する |
| 用途地域 | 13種類のいずれか。「制限の内容」に用途の制限・斜線制限・日影規制 | 共同住宅を建てられるか・高さの制限の種類 |
| 地域・地区・街区 | 防火地域・準防火地域・高度地区など | 建替え時に必要な構造と高さ |
| 建蔽率・容積率 | 建築面積と延床面積の限度 | 前面道路の幅員で上限が下がらないか・現況が超えていないか |
| 敷地等と道路との関係 | 道路の種別・幅員・接している長さ | 再建築できるか・セットバック・共同住宅に条例の上乗せがあるか |
| 私道の変更又は廃止の制限 | 私道を勝手に廃止・変更できない制限 | 敷地の一部が私道なら、その部分は自由に使えない |
🗺️ 区域の別と用途地域――共同住宅が建てられない用途地域は1つだけ
区域の別が市街化調整区域なら、建物がある物件でも、建替えに都市計画法上の許可が要るか、許可の見込みがあるかを自治体に個別に確認します。市街化区域であれば、次は用途地域です。
用途地域は13種類ありますが、共同住宅を建てられないのは工業専用地域だけです(建築基準法48条・別表第二。特定行政庁(建築主事を置く市町村ではその長、それ以外は都道府県知事)の許可による例外はあります)。第一種低層住居専用地域でも用途の上では共同住宅を建てられるので、アパート投資で効いてくるのは用途の制限そのものより、用途地域ごとに違う容積率の係数と高さの制限です。
敷地が2つの用途地域にまたがる物件もあります。この場合、用途の制限は敷地の過半が属する地域のものが敷地全体にかかり(91条)、建蔽率・容積率は、それぞれの地域の限度を敷地の面積の割合で加重平均します(52条7項・53条2項)。防火地域と準防火地域にまたがる建物は、原則として建物全体に厳しい方の規定がかかります(65条)。
📐 建蔽率・容積率――指定の数値と「前面道路の幅員×係数」の低い方
重説に載る容積率は都市計画で指定された数値ですが、前面道路の幅員が12m未満の敷地では、幅員に係数を掛けた値との低い方が上限になります(建築基準法52条2項)。前面道路が2本以上あるときは、いちばん広い道路の幅員を使います。
| 用途地域 | 前面道路の幅員に掛ける係数 | 幅員4mの場合 |
|---|---|---|
| 第一種・第二種低層住居専用地域、田園住居地域 | 4/10(例外の指定なし) | 160% |
| 第一種・第二種中高層住居専用地域、第一種・第二種住居地域、準住居地域 | 4/10(特定行政庁が指定した区域は6/10) | 160%(指定区域は240%) |
| 近隣商業・商業・準工業・工業・工業専用地域など | 6/10(指定した区域は4/10か8/10) | 240%(指定区域は160%か320%) |
指定容積率が200%でも、前面道路が4mの第一種住居地域(指定区域でない場合)なら、上限は4×4/10=160%です。重説の容積率の欄が指定の数値だけなら、前面道路の幅員を自分で掛けて確かめます。
- 敷地100㎡・間口10m・第一種住居地域(指定区域でない)・指定容積率200%
- 道路の中心線から敷地までは現況1.5m。中心線から2mの線まで0.5m下がるので、後退面積は0.5m×10m=5㎡、有効な敷地は95㎡
- 容積率は後退後の幅員4mで計算して4×4/10=160%。延床の上限は95㎡×160%=152㎡
- 指定容積率どおりなら190㎡。いま延床190㎡の建物が建っていても、建替えると152㎡までしか建てられない
共同住宅は、共用の廊下・階段の床面積が容積率の計算に入りません(52条6項2号)。そのため容積率の計算上の延床と、登記簿の床面積の合計は一致しないことがあります。
現況が上限を超えている物件は2種類に分かれます。建てた時は適法で、あとの法改正や都市計画の変更で合わなくなった既存不適格は、違法ではありません(建築基準法3条2項)。一方、建てた時から、または後の増築で違反している違反建築は、この保護を受けません(同3条3項)。どちらも、建替えや一定の増改築では現行の制限で建てることになるので、同じ延床を再現できないことがあります。見分け方は確認済証・検査済証・建築計画概要書と、現況の床面積の突き合わせです。超過している物件の融資と出口は容積率オーバー物件の融資と出口戦略で詳しく扱っています。
🔥 防火地域・準防火地域――建替え時の構造が決まる
地域・地区の欄に防火地域か準防火地域とあれば、建替え時の構造が規模に応じて決まります(建築基準法61条・施行令136条の2)。
| 地域 | 規模 | 必要な構造(同等の延焼防止性能を含む) |
|---|---|---|
| 防火地域 | 階数3以上、または延べ100㎡超 | 耐火建築物相当 |
| 防火地域 | 階数2以下かつ延べ100㎡以下 | 準耐火建築物相当 |
| 準防火地域 | 地上4階以上、または延べ1,500㎡超 | 耐火建築物相当 |
| 準防火地域 | 地上3階で延べ1,500㎡以下/地上2階以下で延べ500㎡超1,500㎡以下 | 準耐火建築物相当 |
| 準防火地域 | 地上2階以下で延べ500㎡以下の木造 | 外壁・軒裏の延焼のおそれのある部分を防火構造にし、その部分の開口部に20分の防火設備 |
| 準防火地域 | 地上2階以下で延べ500㎡以下の木造以外(鉄骨造など) | 延焼のおそれのある部分の開口部に20分の防火設備 |
防火地域では、延べ100㎡を超える建物は耐火建築物相当が必要なので、準耐火や防火構造で建っている既存の木造アパートと同じ仕様では建て直せません。なお、防火地域で耐火建築物等に、準防火地域で耐火建築物等・準耐火建築物等にすれば、建蔽率に10%が加わります(53条3項。2019年6月25日施行の改正)。建替えを前提に土地値を見るなら、この加算も含めて建築面積を出します。新築で3階建てを建てる場合の構造の選び方はアパート用地の探し方とボリュームチェックにまとめています。
🏔️ 高さの制限――絶対高さ・北側斜線・高度地区
用途地域の「制限の内容」には、道路斜線・隣地斜線・日影規制などが書かれます。建替えで今の階数を再現できるかは、ここで決まります。
- 絶対高さ:第一種・第二種低層住居専用地域と田園住居地域は、高さ10mか12mが上限です(55条)。階数の制限ではなく高さの制限なので、木造3階建てが入るかは設計次第になります
- 北側斜線:低層住居専用地域・田園住居地域・中高層住居専用地域だけにかかります(中高層住居専用地域でも、日影規制の条例で一定の指定がある区域ではかかりません)。高さの上限は「真北方向の水平距離×1.25」に、低層住居専用地域と田園住居地域は5m、中高層住居専用地域は10mを足した値です(56条1項3号)
- 高度地区・日影規制:内容は自治体ごとに違います。重説の欄と、自治体の都市計画図の両方で確認します
北側斜線の距離は、「前面道路の反対側の境界線又は隣地境界線」までの真北方向で測ります。敷地の真北が道路なら、道路の幅の分だけ起算点が遠くなるので、建替え時に北側の上階を削られにくくなります。南側だけが道路の敷地は、北側の隣地境界線から測るため、道路の幅による緩和はありません(北側が水面・線路敷に接する場合や、敷地が北側の隣地より1m以上低い場合の緩和は別にあります。施行令135条の4)。重説の「敷地等と道路との関係」の欄で接道の方向を見れば、どちら側が道路かが分かります。
🛣️ 敷地等と道路との関係――道路の種別・接道2m・条例の上乗せ
再建築できるかを決める欄です。道路の種別・幅員・接している長さが書かれています。確認するのは次の4点です。
- 建築基準法上の道路か、何号の道路か:42条1項の各号(道路法の道路・位置指定道路など)か、2項道路(建築基準法が適用された時点で建物が立ち並んでいた幅員4m未満の道で、特定行政庁が指定したもの)か。建築基準法上の道路でなければ、原則として建替えられません
- 接している長さ:建築基準法上の道路に2m以上接していること(43条1項)。道路に接していない敷地でも、43条2項の認定・許可で建てられる場合があります。許可は建築審査会の同意が要り、建物ごとに出ます(再建築不可物件は投資で買えるかで詳しく扱っています)
- セットバック:2項道路なら、道路の中心線から2m(幅員6mの指定区域では原則3m)の線が道路の境界とみなされます。道の反対側が崖・川・線路敷地などなら、反対側の境界から4mの線まで自分の敷地の側だけで下がります(42条2項)。後退した部分は建蔽率・容積率の計算に使う敷地面積から外れます。重説に「セットバック要・約◯㎡」とあれば、有効な敷地面積で利回りを引き直します
- 条例の上乗せ:共同住宅は特殊建築物(学校・病院・旅館・共同住宅など、建築基準法2条2号が列挙する用途の建物)なので、自治体の条例で2mより厳しい接道を求められることがあります(43条3項)。3階以上の建物や、袋路状の道路だけに接する延べ150㎡超の建物(一戸建て住宅を除く)なども上乗せの対象になりえます
いま共同住宅が建っていても、建てた後に条例ができたり変わったりしていれば、同じ接道で共同住宅を建て直せるとは限りません。旗竿地や間口の狭い敷地の共同住宅は、所管の建築指導課で「この敷地に今の規模の共同住宅が建つか」を確認します。関西の府県・政令市の接道の上乗せの数値はアパート用地の探し方とボリュームチェックの接道の章に早見表があります。
「私道の変更又は廃止の制限」の欄も読みます。私道の変更・廃止で接道の規定に合わなくなる場合、特定行政庁はそれを禁止・制限できます(45条)。
🏘️ 建物の種類――登記の「共同住宅」と、建築基準法の共同住宅・長屋
重説の「建物の表示」に書かれた種類は、原則として登記簿の表題部の記録どおりに書かれます。登記の種類は不動産登記規則113条が「建物の主な用途」で定めるもので、居宅・共同住宅・店舗などに分かれ、「長屋」という区分はありません。一方、建築基準法は「共同住宅」と「長屋」を使い分けていて、共同住宅は特殊建築物に含まれ、長屋は含まれません(建築基準法2条2号)。根拠の法令が違うので、登記の「共同住宅」は、建築基準法上の用途の判定そのものではありません。
建築基準法には共同住宅と長屋を分ける定義の条文がなく、判断は特定行政庁の取扱いに委ねられています。たとえば大阪市の取扱いでは、長屋を「隣接する住戸が開口部のない壁又は床を共有し、廊下、階段等の共用部分を有しないもの」で、各住戸の主要な出入口が道路か有効幅員3m以上の敷地内通路に面するものとしています。堺市の取扱いは、廊下の手すり壁が建物と一体の構造で、廊下の上に屋根やバルコニーなど建物の部分がある形などを共用部分ありとして共同住宅と判断し、屋根のない廊下、手すり壁のない廊下、床を土間コンクリートで仕上げただけの通路は共用部分とみなさないとしています(玄関扉と手すり壁の幅の関係などの細かい条件もあります)。判定の基準は特定行政庁ごとに違い、京都市は、廊下・階段・出入口等の共用部分のうち2つ以上を各戸が共用するものを共同住宅としています。
| 区分 | 建物の形 | 建替え・再建築で効く点 |
|---|---|---|
| 共同住宅 | 共用の廊下・階段・エントランスがある。一般的なアパート | 特殊建築物。条例の接道の上乗せ・避難の規定がかかる |
| 長屋 | 共用部がなく、各戸の玄関が道路か敷地内通路に直接面する | 特殊建築物ではない。各戸の出入口と敷地内通路の幅・長さなどを条例で決めている自治体がある |
| 重層長屋 | 長屋のうち、1階と2階が別の住戸。2階の住戸へは各戸専用の階段で上がる | 長屋の一形態。上下の住戸の間の床にも、住戸どうしを仕切る壁(界壁)と同等の規定がかかる取扱いがある(大阪市) |
重層長屋について、兵庫県建築基準条例25条は「住戸又は住室の垂直方向に他の住戸又は住室の全部又は一部を有する長屋」と定義しています。上下が別の世帯でも、玄関に至る廊下が共用部分と判断されれば共同住宅になります。分かれ目は上下の住戸の配置ではなく、共用部があるかどうかです。
投資家にとって効くのは建替えの場面です。共同住宅は43条3項の条例の上乗せの対象になり、長屋は特殊建築物としては対象になりません。そのため、接道が細い敷地では長屋なら建て直せても、共同住宅には建て直せない組み合わせが起こりえます。重説の種類欄が「共同住宅」でも、建築基準法上どちらの用途で確認を受けた建物かは、建築計画概要書(役所で閲覧できる確認申請の概要)と確認済証・検査済証で確かめます。


- 容積率の超過や再建築不可が、融資の審査で問題になるとき
- 出口で売るとき、次の買主も同じ内容の重説を受け取るとき
- 老朽化や災害で、実際に建替えを考えるとき
容積率や接道で延床が減る、防火地域で建替えの構造が重くなるなら、その分は購入価格で先に織り込んでおきます。
🚰 5. ③インフラ・災害――私道負担・排水・災害の区域
- 私道負担:敷地の一部が私道なら、その面積は建物に使えません。私道の通行や、水道・ガス管の引込みのための掘削で、所有者・共有者との調整が要ることがあります(現行の民法213条の2では、電気・ガス・水道の引込みに必要な設備は、事前に通知して償金を払えば他人の土地にも設置できます)。持分の無い私道では、「通行・掘削承諾書」を売主の責任で取得することを契約条件に入れます
- 境界・越境:境界標の有無と境界明示の方法(確定測量をするか現況渡しか)を確認します。塀・庇・配管などの越境があれば、「越境の覚書」(現状の容認と、建替え時の是正の合意)を決済までに取り交わします
- 電気・ガス・水道・排水:本管の引込状況、下水か浄化槽か。未整備なら追加の工事費がかかり、金額は本管の位置で大きく変わります
- 造成・擁壁:高さ2mを超える擁壁は、建築基準法の工作物として確認と検査の対象です(施行令138条1項5号)。宅地造成や開発許可で造った擁壁は、その許可の側で検査を受けます(建築基準法88条4項)。どちらの検査済証があるかを確認します
- 建物状況調査(インスペクション):実施済みなら結果の概要が説明されます。対象になる調査は1年以内のもので、鉄筋コンクリート造・鉄骨鉄筋コンクリート造の共同住宅等は2年以内のものです(宅建業法施行規則16条の2の2)
災害の欄は、法律で説明が義務づけられた項目と、そうでない項目を分けて読みます。
| 区分 | 項目 | 読み方 |
|---|---|---|
| 説明が義務の項目 | 造成宅地防災区域・土砂災害警戒区域・津波災害警戒区域/水害ハザードマップ上の所在地/石綿調査の記録があればその内容/旧耐震の建物で耐震診断を受けていればその内容 | 水害ハザードマップ(洪水・雨水出水・高潮)上の所在地は、2020年8月28日施行の施行規則改正で加わりました(16条の4の3第3号の2) |
| 35条の記載事項にない項目(業者が知っていれば、故意に告げないことは禁止=宅建業法47条1号) | 液状化の可能性・過去の浸水の履歴など | 自治体の液状化マップや現地で自分で確かめます(液状化リスクの判定軸) |
国土交通省は、浸水想定区域に入っていないことを理由に、水害リスクがないと誤解させないよう配慮することを求めています。
📑 6. ④契約条件――手付・違約金・ローン特約・契約不適合責任
数字と権利を確認したら、最後に「どういう条件で契約が壊れるか・誰がリスクを負うか」を読みます。違約金・手付・契約不適合責任について宅建業法が定める上限や下限は、売主が宅建業者のときだけにかかる規制で、個人や一般の法人が売主の中古一棟には及びません。ただし民法の一般ルールは残り、免責の特約があっても、売主が知りながら告げなかった不適合は免責されません(民法572条)。売主が事業者で、買主が消費者契約法上の消費者にあたる場合は、同法8条・9条の制限もかかりえます。
| 項目 | 売主が宅建業者 | 売主が個人・一般の法人 |
|---|---|---|
| 違約金 | 損害賠償の予定と合わせて代金の20%まで(宅建業法38条) | 宅建業法の上限はかからない。額は契約書の定めが基準になる |
| 手付 | 代金の20%まで。解約手付として扱われる(同39条) | 額は合意で決まる。解約手付として扱うのが民法の原則(民法557条) |
| 契約不適合責任 | 通知期間を引渡しから2年以上とする特約を除き、民法より買主に不利な特約は無効(同40条) | 特約で決まる。範囲・通知期間・免責の有無を契約書で読む(免責の特約があっても、売主が知りながら告げなかった不適合は免責されない。民法572条) |
- 手付金の額と手付解除の期限
- ローン特約(融資が承認されないときの解除)の有無・対象の融資・期限
- 契約不適合責任の範囲・通知期間・免責特約
- 違約金の額(売主が業者かどうかで上限の有無が違う)
- ローン特約なしで、融資の承認が手付解除の期限に間に合わない日程
- 契約不適合を全部免責(雨漏り・シロアリも自己負担)
- 手付解除の期限が極端に短い
- サブリース・長期の賃貸借を不利な条件のまま引き継ぐ
ローン特約がない契約で融資が承認されなかった場合、手付解除の期限内で、売主がまだ契約の履行に着手していなければ、手付を放棄して解除できます(民法557条)。期限を過ぎて代金を払えなければ債務不履行になり、契約で決めた違約金を求められます(民法420条)。投資用の融資は承認までに時間がかかることがあるので、ローン特約の有無と期限は日程と一緒に確認します。
業者が融資のあっせんをする場合は、あっせんの内容と、融資が成立しないときの措置が重説の記載事項になります(35条1項12号)。解除の条件そのものは売買契約書の特約で確認します。特約の書き方は買付・契約条項の実務、免責の中古物件の判断は契約不適合責任「免責」の中古物件は買っていい?で扱っています。
契約条件のブロックでは、次の3点も見落とされがちです。
- 公簿売買か実測売買か:登記簿の面積のまま取引するか、確定測量して実測面積との差額を精算するか。土地値の大きい取引では価格に直結します
- 固定資産税・都市計画税の精算:引渡日を境に日割りで精算するか、起算日をいつにするかは法律で決まっておらず、契約で決めます(定めがあれば売買契約書の記載事項。宅建業法37条1項12号)。関西圏では4月1日起算とする傾向がありますが、統一された慣習ではありません(不動産流通推進センターの相談事例)。契約書の起算日を確認します
- 引渡しの猶予:決済後も引渡しを待つ特約は、所有権と占有が分かれる状態になるので、期間と違約金が書かれていなければ応じません
💻 7. IT重説・電子交付の注意点――オンラインでも手を抜かない
IT重説は画面越しの説明で、対面より確認が甘くなりがちなので、画面の説明を聞く前に、手元の資料で突き合わせを終えておくことが前提になります。
- 事前に書面(PDF)を受け取って予習する。当日の画面共有だけで判断しない
- 宅建士証の提示・本人確認・通信環境・録画の可否を最初に確認する
- 登記簿・公図・マイソク・現地写真・確認済証を手元に並べ、説明を聞きながら突き合わせる
- 疑問はその場で口頭で確認し、あとでメールで回答を文書に残す(担当者の異動に備える)
🔍 8. 重説を登記簿・公図・確認済証・現地と突き合わせる
重説は単体で読むのではなく、他の資料と照らし合わせて初めて矛盾やリスクが見えます。法令上の制限は、確認済証と自治体の都市計画図の2つと必ず照合します。1つでも食い違えば、その場で理由を確認します。
| 突き合わせる資料 | 見る矛盾・リスク |
|---|---|
| 登記簿(甲区・乙区) | 所有者・抵当権・差押が重説の記載と一致するか(登記簿の読み方) |
| 公図・地積測量図 | 私道・境界・接道の長さの実態と重説の整合 |
| 確認済証・検査済証・建築計画概要書 | 建築基準法上の用途(共同住宅か長屋か)・確認時の延床と現況の差・検査を受けているか |
| 自治体の都市計画図・指定道路図・道路台帳 | 用途地域・防火指定・高度地区・道路の種別が重説と一致するか |
| マイソク | 面積・利回り・負担金の食い違い(マイソクの落とし穴) |
| 現地調査 | 設備・インフラ・接道の記載と現況(現地調査チェックリスト) |
重説の確認を終えて決済へ進むと、最後は司法書士が登記書類と本人確認を仕切り、融資の実行と同時に所有権移転登記を申請します。重説で拾った宿題(承諾書・越境の覚書・抹消する抵当権)が決済日までにそろっているかを一覧にするのが買主の実務です。
✅ 9. 重要事項説明書チェックリスト(保存版)
事前に取り寄せた重説のコピーに、次の項目を1つずつ照合します。
- ☐ 登記名義=売主か/相続・共有の有無
- ☐ 抵当権・差押が決済と同時に抹消されるか
- ☐ 借地権か所有権か(借地なら旧法・新法・地代・承諾料)
- ☐ 区域の別(市街化調整区域なら建替えの許可の見込み)
- ☐ 容積率:指定の数値と「前面道路の幅員×係数」の低い方で、建替え後の延床を出したか
- ☐ 現況が制限を超えていないか(既存不適格か違反建築か)
- ☐ 防火地域・準防火地域:建替え時に必要な構造
- ☐ 高さの制限:絶対高さ・北側斜線・高度地区で今の階数を再現できるか
- ☐ 接道:道路の種別(2項道路か)・接している長さ・共同住宅にかかる条例の上乗せ・43条2項の許可が前提になっていないか
- ☐ 建築基準法上の用途(共同住宅か長屋か)を確認済証・検査済証で確かめたか
- ☐ 私道負担と通行・掘削承諾書
- ☐ 災害の区域と水害ハザードマップ上の所在地、義務でない液状化・浸水履歴の自己確認
- ☐ ローン特約の有無・対象の融資・期限と、融資承認の日程
- ☐ 売主が業者か個人か(違約金・手付・不適合責任の規制の有無)
- ☐ 既存の賃貸借・サブリースを引き継ぐ条件
→ 1つでも不明・不利があれば、当日に質問するか、契約を保留します
❓ よくある質問――重要事項説明書の疑問
Q1. 重要事項説明書と契約書(37条書面)は何が違うのですか?
A. 重説(35条書面)は、契約するかどうかを判断するための情報を契約前に説明する書面で、契約書(37条書面)は成立した契約の内容を書き留める書面です。重説で物件のリスクと条件を理解し、納得してから契約書に署名する順序になります。重説の段階で不利な条件に気づけば、契約前に交渉や撤退ができます。
Q2. 重説は事前に見せてもらえますか?
A. 法律上は契約までに説明する義務があり、事前にコピーを依頼することができます。専門用語が多く当日一度の説明では判断しきれないので、事前に取り寄せて予習します。2022年5月からは、承諾すればPDFなどの電磁的方法で受け取ることもできます。
Q3. 重説の建物の種類が「共同住宅」なら、建替えても共同住宅が建ちますか?
A. そうとは限りません。重説の種類は原則として登記の記録どおりで、建築基準法上の用途とは別の物差しで決まっています。さらに共同住宅は特殊建築物として、自治体の条例で接道の上乗せを受けることがあるため、今と同じ接道で共同住宅を建て直せるかは、所管の建築指導課で確認します。建築計画概要書と確認済証・検査済証もあわせて見ます。
Q4. 容積率の欄が200%なら、建替えで延床200%まで建てられますか?
A. 前面道路の幅員が12m未満なら、幅員に係数(用途地域により4/10か6/10など)を掛けた値との低い方が上限です。2項道路なら後退後の幅員4mで計算し、後退部分は敷地面積からも外れます。重説の容積率の欄は、この計算をして初めて使える数字になります。
Q5. 違約金20%は法律の決まりですか?
A. 損害賠償の予定と違約金を合わせて代金の20%までとするのは、売主が宅建業者の場合の規制です(宅建業法38条)。個人や一般の法人が売主の中古一棟には宅建業法の上限がかからず、契約書に書いた額が基準になります。額は契約前の交渉で決まるので、条項の書き方は買付・契約条項の実務で確認します。
📝 10. まとめ――重説は「建替え後の姿」と「契約が壊れる条件」を読む書面
重要事項説明書は、物件のリスクと契約条件を契約前に開示する法定書面です。①権利関係、②法令上の制限、③インフラ・災害、④契約条件の4ブロックで読み、私道負担・借地・接道・災害の区域・ローン特約・契約不適合責任を先回りで確認します。
中古の収益物件では、法令上の制限の欄を建替えの条件として読みます。容積率は前面道路の幅員で下がり、接道は共同住宅に条例の上乗せがあり、防火地域は建替え時の構造を決めます。この欄から建替え後に建てられる延床と構造を出しておけば、今の建物との差を購入価格に先に織り込めます。
建物の種類は登記の写しなので、建築基準法上の用途は確認済証・検査済証で確かめます。違約金・手付・不適合責任は、売主が宅建業者かどうかで規制の有無が変わります。事前にコピーを取り寄せて予習し、登記簿・公図・確認済証・現地と突き合わせてから当日に臨めば、不利な条件に契約前に気づき、交渉するか契約を見送るかを決められます。
📖 この記事の根拠(出典・参考)
- 宅地建物取引業法35条(重要事項の説明・4項 宅建士証の提示・5項 記名・8項 電磁的方法による提供)/37条/38条(損害賠償額の予定等の制限)/39条(手付の額の制限等)/40条(担保責任についての特約の制限)/78条2項
- 宅地建物取引業法施行令3条1項(法令に基づく制限)/同施行規則16条の2の2(建物状況調査)・16条の4の3(第3号の2 水害ハザードマップ。2020年8月28日施行)
- 国土交通省「宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方」別添・重要事項説明の様式例/売買取引のIT重説の本格運用(2021年3月30日開始)/宅建業法の押印廃止・電磁的方法による提供(2022年5月18日施行)/水害ハザードマップの説明義務化(2020年7月17日公布)
- 建築基準法2条2号/3条2項・3項/42条2項/43条1項・2項・3項/45条/48条・別表第二/52条2項・6項・7項/53条2項・3項/55条/56条1項3号/61条/65条/88条4項/91条
- 建築基準法施行令136条の2/138条1項5号
- 不動産登記規則113条1項/法務省「不動産登記事務取扱手続準則」80条
- 民法420条(賠償額の予定)/557条(手付)
- 大阪市建築基準法取扱い「6-1 長屋の解釈」/堺市建築基準法取扱い「3-1 共同住宅と長屋の判断について」/京都市建築法令実務ハンドブック 総2-8/兵庫県建築基準条例25条
- 公益財団法人不動産流通推進センター不動産相談「固定資産税の分担起算日を定めなかった場合の対応」
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関西の不動産投資家。賃貸経営の体験と、法令・公的機関の資料をもとに、税務・融資・賃貸経営・法人運営の実務ガイドを発信しています。

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