入居者から「給湯器が壊れた」「エアコンが古いから替えてほしい」「雨漏りがする」と連絡が来たとき、大家がどこまで直す義務を負うかは、民法606条と賃貸借契約書の特約で決まります。原則は大家が直す。ただし入居者の責任で壊れたものと、契約で入居者負担に特定した小修繕は別。ここまでは多くの解説が書いています。
この記事は、そこから先の「揉める場面」を大家の側から整理したものです。入居者が自分で業者を呼んで請求してきたとき(民法607条の2・608条)、修繕のための立入りを拒まれたとき(606条2項)、直さないまま放置したときに何が起きるか(611条)を、条文・国土交通省の賃貸住宅標準契約書・裁判例をもとに書きます。設備が使えない期間の家賃減額の計算はエアコン故障の賃料減額はいくら?、修繕費の相場と交換周期はアパート・賃貸の修繕費はいつ何にいくら?に分けています。
- 入居者からの修繕依頼を、どこまで大家負担で受けるべきか判断基準を持ちたい大家
- 「電球・パッキンは入居者負担」のような特約が、どこまで有効かを知りたい方
- 入居者が勝手に修理して費用を請求してきたときに、払う範囲を確認したい方
- 修繕のための立入りを拒否された、または「直さない大家」として減額や解除を主張されている方
- 契約書と入居時案内に、修繕のルールを何項目入れればよいか決めたい方
- 大家の修繕義務(民法606条1項)は「修繕しないと契約どおりに使えない状態」に限られ、新品や最新機種にする義務はない(東京地裁平成25年1月29日判決)
- 直さなくてよいのは3つ:入居者の責任で壊れた場合、賃料に照らして採算がとれないほど高額な場合、使用に支障がない軽微な不具合。「家賃が安いから」は理由にならない
- 小修繕は入居者負担にできる:国交省の標準契約書の別表第4のように列挙すれば有効。構造部分や設備交換の多額修繕まで入居者負担にする特約は消費者契約法10条で無効になる
- 入居者が自分で直せるのは2つの場合だけ:通知したのに相当の期間内に直さないとき、または急迫の事情があるとき(607条の2)。払う義務があるのは「必要費」の範囲だけ(608条1項)
- 立入りは正当な理由なく拒めない(606条2項)が、無断で入ると自力救済になる。拒否が続けば解除が認められた裁判例がある(横浜地裁昭和33年11月27日判決)
賃貸の修繕義務は、「直さないと入居者が契約どおりに使えないか」を軸に、大家が直すのが原則です。入居者の責任で壊れたもの、契約で入居者負担と特定した小修繕、賃料に見合わないほど高額な修繕は例外になります。入居者が勝手に直した費用は「必要費」の範囲でしか払う義務がなく、立入り拒否には無断入室ではなく通知の記録と解除で対応します。
- ⚖️ 1. 修繕義務の全体像|民法の7つの条文を1枚の表にする
- 🔧 2. 大家が直す範囲|「使えるかどうか」で決まり、新品にする義務はない
- 🚫 3. 直さなくてよい3つの場合|入居者の責任・採算がとれない高額修繕・軽微な不具合
- 📝 4. 小修繕は入居者負担にできる|国交省標準契約書の別表第4と特約の限界
- 🛠️ 5. 入居者が自分で直せる2つの場合|民法607条の2の「相当の期間」と「急迫の事情」
- 💴 6. 勝手に直して請求されたら|払うのは「必要費」の範囲だけ
- 🚪 7. 修繕のための立入りを拒まれたら|606条2項・自力救済の禁止・解除の2要件
- 📉 8. 直さないとどうなるか|賃料の当然減額・損害賠償・解除
- 📋 9. 契約書と入居時案内で決めておく5項目
- ❓ 10. よくある質問
- 🎯 まとめ
- 📖 この記事の根拠(出典・参考)
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⚖️ 1. 修繕義務の全体像|民法の7つの条文を1枚の表にする
修繕をめぐる争いは、条文がばらばらに出てくるので混乱します。大家の立場で先に押さえるのは次の7つです。条文はe-Gov法令検索の現行民法から引きました。
| 条文 | 決めていること | 大家の実務での意味 |
|---|---|---|
| 606条1項 | 大家は使用収益に必要な修繕をする義務を負う。入居者の責めに帰すべき事由で必要になった修繕は除く | 原則は大家負担。入居者が壊したものは対象外 |
| 606条2項 | 大家が保存に必要な行為をするとき、入居者は拒めない | 修繕のための立入りを受け入れる義務(7章) |
| 607条 | 入居者の意思に反する保存行為で賃借の目的を達せなくなるとき、入居者は解除できる | 大規模工事で住めなくなる場合の、入居者側の出口 |
| 607条の2 | 通知後、相当の期間内に直さないとき、または急迫の事情があるとき、入居者が修繕できる | 入居者の自力修繕の条件(5章) |
| 608条1項 | 入居者が大家負担の必要費を支出したとき、直ちに償還請求できる | 勝手に直された費用を払う範囲(6章) |
| 611条1項 | 入居者の責めによらず一部が使えなくなれば、その割合に応じて賃料は減額される | 請求がなくても減額される(8章) |
| 621条 | 入居者は、通常損耗・経年変化を除く損傷を原状回復する義務を負う | 入居者の責任で壊れた分は退去時に精算 |
もう一つ、法務省が改正の検討段階で整理した表が、大家の判断を速くします。牛島総合法律事務所の井上治・猿倉健司弁護士がBUSINESS LAWYERSで紹介している「民法(債権関係)の改正に関する中間試案の補足説明」458頁の整理では、入居者に責任がある損傷かどうかで、修繕義務・賃料減額・費用償還・原状回復の4つの結論が一斉に反転します。
| 論点 | 入居者に責任がない | 入居者に責任がある |
|---|---|---|
| 大家の修繕義務(606条1項) | 発生する | 発生しない(直す権限はある) |
| 賃料の減額(611条) | 減額される | 減額されない |
| 入居者が直した費用の償還(608条1項) | 発生する | 発生しない |
| 入居者の原状回復義務(621条) | 負わない | 負う |
つまり、入居者から連絡が来たら最初に確認するのは「壊れた原因は誰にあるか」です。ここが決まれば残りの結論はほぼ機械的に出ます。なお606条は任意規定(=当事者の合意で変えられる規定)なので、契約書の特約が条文より優先する場面が多くあります。特約の限界は4章で扱います。
🔧 2. 大家が直す範囲|「使えるかどうか」で決まり、新品にする義務はない
606条1項の「使用及び収益に必要な修繕」がどこまでかは、裁判例が線を引いています。東京地裁平成25年1月29日判決は、修繕義務が生じるのは「修繕しなければ賃借人が契約によって定まった目的に従って使用収益することができない状態」になったときで、義務の程度も「用法に従って使用収益させるのに必要な限度」にとどまり、破損や障害があっても使用収益を妨げない程度なら修繕義務を負わない、と述べています(多湖・岩田・田村法律事務所の解説による)。
この基準で、よくある依頼を仕分けると次のようになります。
| 入居者からの依頼 | 大家の修繕義務 | 理由 |
|---|---|---|
| 給湯器が壊れてお湯が出ない | あり | 契約どおりの使用ができない。同等品への修理・交換でよく、最新機種にする義務はない |
| 備え付けエアコンが動かない | あり | 同上。効きが悪いだけで、フィルター清掃を何年も怠っていた場合は入居者側の善管注意義務が問題になる |
| エアコンが古いので新品にしてほしい | なし | 使えている限り「使用に必要な修繕」ではない |
| 雨漏り・給排水管の劣化による水漏れ | あり | 建物本体の不具合。台風など不可抗力が原因でも義務は消えない |
| 排水の詰まり | 原因次第 | 配管の劣化なら大家、異物を流したなら入居者(606条1項ただし書) |
| 壁紙の日焼け・家具の跡 | なし | 通常損耗・経年変化で、使用に支障がない |
| 入居者が持ち込んだ家電の故障 | なし | 大家の賃貸物ではない |
| 前の入居者が残した残置物の故障 | 原則なし | 契約書で「設備」にしていなければ対象外。募集広告で設備として表示すると義務が生じうる |
| 電球・蛍光灯の交換 | 特約次第 | 標準契約書の別表第4に入る小修繕(4章) |
不可抗力の扱いは誤解が多い点です。多湖・岩田・田村法律事務所の解説によると、大審院大正10年9月26日判決や東京地裁平成28年8月9日判決は、天災など不可抗力で壊れた場合でも大家は修繕義務を免れないとしています。台風で屋根が飛べば直すのは大家です。ただし、天災について大家が損害賠償責任まで負うかは別問題で、修繕を怠って被害を広げた場合に限られます(8章)。
契約時からあった欠陥も対象になります。東京高裁昭和56年2月12日判決は、修繕義務の対象は契約成立後に生じた破損に限られず、契約成立時に存在した欠陥にも生じるとしました。中古アパートを買った大家が「前のオーナーの時代からの不具合だから知らない」とは言えない、ということです。
もう一つ、契約書に載せた設備は維持し続ける義務があります。イー・トラストの解説が挙げるように、契約書に「温水洗浄便座」と書いてあれば、壊れたときに黙って普通の便座に替えることはできず、同等品で維持するか、入居者と合意して家賃調整を含めた交渉になります。
🚫 3. 直さなくてよい3つの場合|入居者の責任・採算がとれない高額修繕・軽微な不具合
3-1. 入居者の責任で壊れた場合(606条1項ただし書)
入居者の故意・過失で壊れた修繕は大家の義務ではありません。洗濯機のホースが外れて床が水浸しになった、異物を流してトイレが詰まった、といった例です。ここで注意したいのは、「直す義務がない」と「放置してよい」は同じではないという点です。国土交通省の賃貸住宅標準契約書(平成30年3月版)第9条1項は、修繕の実施主体を貸主に一本化したうえで、入居者の責めに帰すべき事由による修繕は費用を入居者負担とする形をとっています。解説コメントは、建物の管理を行ううえでは実施主体を貸主に統一し、費用だけ入居者に求める方が合理的だと説明しています。放置して被害が広がるより、大家が手配して費用を請求する方が建物のためになる、という設計です。
入居者が不具合に気づいていながら知らせず、被害が広がった場合も入居者側の問題になります。民法400条の善管注意義務(=借りた物を注意深く扱う義務)の話で、不動産投資家Kの解説は、備え付けエアコンの軽微な水漏れを放置して壁が腐食した事案で大家の修繕義務が否定された裁判例を紹介しています。
3-2. 賃料に照らして採算がとれないほど高額な修繕
東京高裁昭和56年2月12日判決は、修繕義務は入居者の賃料支払義務に対応するものだから、「修繕に不相当に多額の費用、すなわち賃料額に照らし採算のとれないような費用の支出を要する場合には、賃貸人は修繕義務を負わない」としました。全日本不動産協会の相談回答(江口正夫弁護士)も、修繕費より新築費の方が高いなら修繕義務は認められないとしています。
ただし、この線は厳しく引かれます。名古屋総合法律事務所が紹介する東京地裁平成3年5月29日判決は、大家が「修繕に賃料3年分かかる」と主張した事案で、賃料の数か月分を超える程度では修繕不能とはいえず、新築以来修繕費を出していない事情も踏まえて修繕義務を認めました。「家賃の数か月分だから高すぎる」は通らないと考えて、老朽アパートは修繕か建替えかを早めに決める必要があります。三井住友トラスト不動産のコラム(大谷郁夫弁護士)では、賃料100か月分の耐震補強工事を入居者が勝手に実施して請求した事案について、契約時に古い建物と分かって借りていたこと、費用が過大なこと、承諾なく工事したことから、支払義務を争う余地が十分あると整理されています。
3-3. 使用に支障がない軽微な不具合
2章の基準の裏返しで、壁紙の変色、小さな傷、床のわずかなきしみのように「そのままでも通常どおり住める」不具合は対象外です。判断に迷うときは、入居者の説明だけで決めずに現地か業者の確認を入れます。同じ「水漏れ」でも原因で負担者が変わるからです。
逆に、大家が持ち出しやすい理由で通らないものもあります。全日本不動産協会の相談回答は、家賃を安くしているからといって修繕義務の帰属は変わらない、安く貸すのを前提に修繕義務を負わないなら契約書に特約を設ける必要がある、と明確に書いています。「築古で安いから小修繕は入居者で」は、特約なしでは主張できません。
📝 4. 小修繕は入居者負担にできる|国交省標準契約書の別表第4と特約の限界
電球やパッキンまで大家が交換するのは現実的ではありません。606条は任意規定なので、範囲を特定した特約で入居者負担にできます。ひな形として最も使われている国土交通省の賃貸住宅標準契約書(平成30年3月版・連帯保証人型)の第9条は、次の5項で組まれています。
| 項 | 内容 | 大家が読むときの要点 |
|---|---|---|
| 1項 | 貸主は使用に必要な修繕を行う。費用は、借主の責めに帰すべき事由によるものは借主、それ以外は貸主 | 実施主体は貸主に統一し、費用だけ分ける |
| 2項 | 貸主が修繕するときは事前に借主へ通知する。借主は正当な理由がなければ拒否できない | 立入りの根拠(7章) |
| 3項 | 借主は修繕を要する箇所を発見したら貸主に通知し、修繕の必要について協議する | 通知は書面か電子メールが望ましい(解説コメント) |
| 4項 | 通知があり修繕の必要が認められるのに、貸主が正当な理由なく実施しないときは借主が自ら修繕できる。費用は1項に準ずる | 民法607条の2を契約に落とし込んだ条項 |
| 5項 | 別表第4の修繕は、借主が貸主に請求するほか、自ら行うことができる。自ら行う場合の費用は借主負担で、貸主への通知も承諾も要らない | 小修繕を入居者負担にする根拠 |
別表第4に載っているのは、ヒューズの取替え、蛇口のパッキン・コマの取替え、風呂場等のゴム栓・鎖の取替え、電球・蛍光灯の取替え、その他費用が軽微な修繕の5項目です。解説コメントは、これらは安価で貸主に不利益をもたらさず、貸主の修繕を待つ方がかえって不都合な修繕なので借主が自ら行えるとし、借主が自ら行った場合には費用償還請求権は排除されると考えられる、と書いています。別表第4は当事者の合意で変更・追加・削除できるので、畳の表替えや障子・ふすまの張替え、給水栓・排水栓の取替えを足している契約書も多くあります。
4-1. 「修繕は借主負担」と書いただけでは、借主に修繕義務は生じない
特約には2種類あります。大家の修繕義務をなくす「免除特約」と、入居者に積極的に修繕義務を負わせる「負担特約」です。最高裁昭和43年1月25日判決は、契約書の「入居後の大小修繕は賃借人がする」という条項について、単に大家が606条1項の修繕義務を負わない趣旨にすぎず、入居者が使用中に生じる一切の汚損・破損を自費で直して当初の状態で維持する義務まで負う趣旨ではないとしました(虎ノ門桜法律事務所・内藤寿彦法律事務所の解説による)。
実務への影響はこうです。内藤寿彦弁護士の解説が指摘するとおり、免除特約にすぎない条項では、入居者が直さなかった分を退去時に敷金から引くことはできません。入居者に直させたい設備があるなら、設備名と修繕の範囲を特定して書く必要があります。
4-2. 負担特約が有効なのは「設備機器の少額修繕」まで
東京地裁平成25年12月19日判決は、「専用部分の修理は賃借人の負担とする」特約について、入居者が利用する設備機器の修繕費(ガス器具のリモコン操作部の修理費2万円など)を入居者負担とする部分は有効としつつ、建物の主要な構造部分の修理費のように、入居者の賃借期間を超えて大家の利益になり、かつ多額の費用を要する修繕まで入居者負担とする部分は、消費者契約法10条により無効としました。居住用の個人入居者は消費者契約法の「消費者」なので、この線は関西の木造アパートでもそのまま当てはまります。
事業用でも同じ発想です。東京高裁昭和51年9月14日判決は、ビル地階の入居者に排水ポンプの修繕義務を負わせる特約があっても、他の階や共用部分に影響する設備なので大家負担としました。東京高裁昭和59年10月30日判決は、ゴルフ練習場で「経営上必要な一切の経費は賃借人負担」とあっても、ネットの張替えは入居者負担、恒久的な鉄柱の維持補修は大家の責任と分けています。
一方、免除特約は広めに認められています。東京地裁平成27年8月26日判決は、「設備等の修理交換義務を賃貸人は一切負わない」特約について、入居者が内覧のうえ契約し、賃料が近隣の同面積より安かったことから、大家が特約を主張しても権利濫用ではないとしました。安く貸す代わりに直さない、という取引は、契約書に書き、入居者が内容を理解して合意していれば成り立つということです。国土交通省の原状回復ガイドラインが特約に求める3要件(必要性と客観的・合理的理由があること、入居者が通常の義務を超える負担を認識していること、入居者が負担の意思表示をしていること)を満たす形で作るのが安全です。

うちの契約書には「室内の修繕は借主負担」とだけ書いてあります。退去時に、壊れたまま直していない給湯器の分を敷金から引けますか?

その書き方だと難しいです。最高裁昭和43年1月25日判決の考え方では、その条項は大家の修繕義務を免除するだけで、入居者に直す義務を負わせたことにはなりません。しかも給湯器は入居者の賃借期間を超えて大家の利益になる設備なので、入居者負担にする特約自体が消費者契約法10条で無効になる可能性があります。次の更新時に、別表第4方式で小修繕だけを列挙する形に直すのをおすすめします。
🛠️ 5. 入居者が自分で直せる2つの場合|民法607条の2の「相当の期間」と「急迫の事情」
2020年4月施行の改正民法で新設された607条の2は、入居者が自分で修繕できる場合を2つに限定しています。
「賃借物の修繕が必要である場合において、次に掲げるときは、賃借人は、その修繕をすることができる。
一 賃借人が賃貸人に修繕が必要である旨を通知し、又は賃貸人がその旨を知ったにもかかわらず、賃貸人が相当の期間内に必要な修繕をしないとき。
二 急迫の事情があるとき。」(民法607条の2)
三井のレッツの解説(江口正夫弁護士)が説明するように、これは改正前から判例で認められていた入居者の修繕権を条文にしたもので、法的な考え方は変わっていません。ただ条文に明記されたことで、行使される場面が増えると見込まれています。大家の立場で押さえるのは次の3点です。
- 前提は「修繕が必要である場合」。2章の基準で大家に修繕義務がない不具合なら、入居者が直しても607条の2の修繕ではなく、費用の請求もできません
- 1号は通知が起点。BUSINESS LAWYERSの解説によれば、修繕が必要であることの通知義務は入居者にあり、大家が必要な修繕をしなかったことの立証責任も入居者側にあります。標準契約書第9条3項は、通知を受けたら修繕の必要について協議すると定め、解説コメントは通知を書面か電子メールで行うことが望ましいとしています
- 2号の「急迫の事情」に定義はない。通知して大家の手配を待つ時間的余裕がないほど、放置すると被害が広がる状況を指すと読むのが自然です(当サイトの解釈)。給水管の破裂で階下に水が落ちている、ガス臭がする、といった場面です
「相当の期間」も、法律と標準契約書のどちらにも日数は書かれていません。不具合の緊急度、季節、代替手段の有無で変わる相対的な期間で、真夏のエアコンと春先のエアコンで同じ日数にはなりません。目安として使えるのが、家賃減額の計算で業界が使う日本賃貸住宅管理協会のガイドラインの免責日数(電気2日・水2日・ガス3日・トイレ1日・風呂3日・エアコン3日・雨漏り7日)です。免責日数は「待ってもらえる日数」ではなく減額計算から除く日数ですが、業界が「この日数で代替手配や修理の段取りがつく」と見ている数字なので、これを超えて着手していなければ「相当の期間」を過ぎたと言われても反論しにくくなります。免責日数の仕組みはエアコン故障の賃料減額はいくら?の4章に書きました。
大家側の防御は、通知を受け取れる窓口と初動の速さに尽きます。夜間・休日に管理会社にも大家にも連絡がつかない状態が、607条の2を発動させる最大の要因です。24時間の緊急窓口(管理会社のオプション、家賃保証会社の駆けつけサービス、提携業者の直通番号のいずれか)を契約書と入居時案内に書き、通知が来たら「現地を見る日」「業者の手配状況」を短くても返信して記録に残します。返信そのものが、相当の期間内に動いている証拠になります。
💴 6. 勝手に直して請求されたら|払うのは「必要費」の範囲だけ
608条1項で入居者が請求できるのは「賃貸人の負担に属する必要費」です。全日本不動産協会の相談回答(江口正夫弁護士)は、判例上の必要費を「単なる原状維持・原状回復のための費用に限らず、目的物を通常の用法に適する状態において保存するための費用も含む」(大審院昭和12年2月19日判決)と整理したうえで、建物の清掃費用は必要費ではなく、ふすまの張替えも必要費と認められない場合が多いとしています。屋根の葺替えや屋根の塗装のように、建物を使える状態に保つ費用が必要費の典型です。
払わなくてよい、または減額できるのは次の場合です。
| 請求の中身 | 大家の扱い | 根拠 |
|---|---|---|
| 大家に修繕義務がない不具合を直した | 払わない | 「賃貸人の負担に属する」必要費ではない(606条・608条1項) |
| 特約で免除・入居者負担にした範囲の修繕 | 払わない | 免除特約があれば大家の負担に属する必要費ではない(全日本不動産協会)。別表第4の小修繕は償還請求権が排除される(標準契約書の解説コメント) |
| 元の状態を超える改良(高機能機種への交換など) | 必要費相当額を超える部分は払わない | 超過分は有益費で、608条2項により契約終了時に民法196条2項の範囲で精算 |
| 承諾なく行った修繕の費用は請求できない、との特約がある | 払わない | 608条1項と異なる特約は一般に有効。入居者の利益を一方的に害する場合を除く(三井のレッツ・江口正夫弁護士) |
| 相場から大きく外れた金額 | 相場相当額まで | 必要費は「必要な」費用に限られる。相見積と実額で立証 |
三井のレッツの解説は、大家の承諾を得ずに行った修繕の費用は請求できないという特約を、濫用的な修繕を防ぐ方策として挙げています。BUSINESS LAWYERSの解説は条項例として、修繕箇所・修繕の必要性・見積金額を明示した書面で事前に通知し、大家の承諾を得たときに修繕できる、という形を示しています。ただし急迫の事情がある場合まで承諾を要求する条項は、入居者の利益を一方的に害するとして無効と判断される余地があるので、緊急時の例外を書いておきます。
6-1. 工事の中身で「必要費」の範囲を分ける
請求額が妥当かを見るには、同じ工事を自分の取引先の業者に見積もってもらった額が物差しになります。そのうえで、工事の中身が「元の状態に戻す」範囲か、それを超える改良かで扱いが分かれます。
| 工事の中身 | 必要費として見るとき |
|---|---|
| 壊れた部品を同じ部品に替える修理 | 入居者が同等の修理をして請求してきたら、相場相当額は必要費の範囲 |
| 同容量・同等品への交換 | 交換が必要な故障なら必要費の範囲。修理で直る故障だったかは業者の報告で確認する |
| 配管の新設や上位機種への交換を伴う工事 | 改良の性格が混じる。同等品相当を超える部分は必要費ではなく有益費(608条2項) |
| 退去時の原状回復 | 入居者の帰責分は敷金精算の話(621条)で、608条の必要費とは別枠 |
入居者からの請求額が、同じ工事を自分の業者に見積もらせた額と同じ水準に収まっているなら、金額だけで争うより「大家に通知があったか」「修繕義務のある不具合か」を先に確認する方が早いです。逆に、修理で済む故障を交換にした請求は、修理相当額との差額が争点になります。
6-2. 請求が来たときの5段階
- 通知の有無と日付を確認する。1号なら通知から相当の期間が過ぎていたか、2号なら急迫だったかを、メールや管理会社の受付記録で見る
- 修繕義務のある不具合だったかを確認する。2章・3章の基準で、入居者の責任や軽微な不具合なら必要費ではない
- 請求書・領収書・施工前後の写真を出してもらう。工事内容が「元の状態に戻す」範囲かを見る
- 同じ工事の見積を自分の業者から取る。相場と6-1の区分で必要費相当額を出す
- 払う範囲と払わない理由を書面で返す。必要費相当額は払い、超過分は有益費として契約終了時の精算に回すか、根拠を示して拒む

入居者が「お湯が出ないので自分で業者を呼んだ」と言って、12万円の請求書を持ってきました。管理会社には連絡していなかったようです。

金額が妥当かは、同じ修理を自分の業者に見積もってもらえば確かめられます。問題は手続きです。通知なしに直したなら1号には当たらず、2号の急迫の事情があったかが争点になります。お湯が出ないだけで漏水などがなければ、急迫とは言いにくいでしょう。ただし、大家に修繕義務がある故障を直した以上、必要費相当額の償還請求は残るという前提で三井のレッツの解説は承諾なし修繕の費用不請求特約を勧めています。特約がないなら、次回から先に連絡してもらう約束を取り付けたうえで、相場相当額を払うのが現実的です。
🚪 7. 修繕のための立入りを拒まれたら|606条2項・自力救済の禁止・解除の2要件
606条2項は、大家が保存に必要な行為をしようとするとき入居者は拒めないと定めています。全日本不動産協会の相談回答(江口正夫弁護士)はこれを入居者の「修繕認容義務」と呼び、標準契約書第9条2項も、事前通知を条件に「正当な理由がある場合を除き、当該修繕の実施を拒否することができない」と書いています。
ただし、拒まれたからといって鍵を開けて入ることはできません。同じ回答は、賃借人が拒否しているのに強引に建物内部に入って修繕を実力で実現することは「自力救済」として禁止されていると明言しています。エイブルのオーナー向け記事(芝大門法律事務所・高橋真司弁護士監修)も、調査目的でも同意なく入室すれば住居侵入罪の嫌疑やプライバシー侵害、損害賠償請求に発展しうるとして、必ず同意を得て、管理会社や業者など第三者の立会いを付けるよう勧めています。
7-1. 拒否が続いたときの出口は契約解除
全日本不動産協会の回答によれば、入居者が修繕認容義務に違反して大家が建物の保存に必要な工事をできない事態は、賃貸借契約の目的を達成できない場合に当たり、大家は修繕認容義務違反を理由に契約を解除できる(横浜地裁昭和33年11月27日判決)とされています。ただし常に解除できるわけではなく、次の2要件が必要で、欠ければ解除権の濫用として無効になります。
- 修繕義務が発生していること。修繕をしないと契約目的に応じた使用収益に支障を来す、建物の保存に必要な修繕であること
- 必要最小限の修繕工事であること。入居者の排他的な使用を尊重し、使用の必要性に配慮した工事計画であること
賃貸管理会社iedokiが紹介する裁判例では、階下への漏水の原因調査のための浴室床の点検を、管理会社への不信感を理由に拒み続けた入居者について、解除と、階下入居者の退去による損害の賠償が認められています。拒否の記録(通知した日付・提案した日程・入居者の返答)を残すことが、解除にも損害賠償にも直結します。
7-2. 実務の手順
- 通知は書面かメールで、工事の内容・所要時間・立入りが必要な理由を具体的に書く。日程は複数の候補を出す
- 入居者の「正当な理由」(病気、仕事の都合など)には日程変更で応じ、その経緯も記録する
- 立入り当日は管理会社か業者と2人以上で入り、作業前後の写真を残す
- 拒否が2回以上続いたら、解除の可能性を書面で予告し、弁護士に相談する
- 契約書には標準契約書第9条2項と同じ立入り条項に加え、緊急時(漏水・火災・ガス漏れ)の立入りについても書いておく
📉 8. 直さないとどうなるか|賃料の当然減額・損害賠償・解除
修繕を放置した大家に起きることは3段階あります。
8-1. 賃料は請求されなくても減る(611条1項)
改正民法611条1項は、入居者の責めによらない事由で一部が使えなくなれば、賃料は「減額される」と定めています。改正前の「減額を請求することができる」から変わり、入居者が請求しなくても、使えなくなった時点から当然に減額されます。滅失だけでなく「その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合」も対象なので、設備故障や雨漏りも入ります。裁判所が認めた減額割合の例を、多湖・岩田・田村法律事務所の解説から抜き出します。
| 不具合 | 減額割合 | 裁判例 |
|---|---|---|
| 唯一のエレベーターの長い待ち時間と夏場の空調不良(事務所) | 約10% | 東京地裁平成10年9月30日判決 |
| 断続的な雨漏り、トイレからの漏水、下水の悪臭(築40年超の店舗) | 3% | 東京地裁平成24年12月19日判決 |
| 水道管の錆で台所の水に10分の通水が必要、シャワーの温度が不安定(居住用) | 15% | 東京高裁平成25年9月11日判決 |
| 大雨のたびに約20平方センチの水たまりと2〜3日の悪臭(美容室) | 12.5% | 東京地裁平成26年10月9日判決 |
| 排水管の不具合でユニットバス・キッチンの排水に支障(居住用) | 20% | 東京地裁令和4年1月19日判決 |
| 空調設備がほとんど稼働しない(事務所の共益費) | 共益費が半額 | 東京地裁令和元年5月30日判決 |
居住用アパートで実際に使われる目安は、日本賃貸住宅管理協会のガイドライン(電気40%・ガス10%・水30%、トイレ20%・風呂10%・エアコン10%など)で、計算式と実額はエアコン故障の賃料減額はいくら?にまとめました。
8-2. 損害賠償は「大家に落ち度があるとき」
減額と損害賠償は別です。多湖・岩田・田村法律事務所の解説によれば、債務不履行の損害賠償には大家の帰責性(=故意・過失)が必要で、入居者が通知しなかったため大家が不具合を知りえなかった場合は帰責性がなく、損害賠償は認められない(東京地裁平成21年3月27日判決)とされています。通知を受けて合理的な期間内に直せば、減額はあっても営業損失などの賠償までは負わないのが通常です。逆に、通知を受けて放置し、入居者の家財が濡れた、引っ越さざるを得なくなったという場合は賠償の対象になります。
賠償額にも歯止めがあります。最高裁平成21年1月19日判決は、浸水で営業できなくなったカラオケ店が4年5か月分の営業利益を請求した事案で、別の場所で営業を再開するなど損害を回避・減少させる措置を取らずに損害を発生させ続けた分まで請求することは条理上認められないとしました。入居者側にも損害拡大防止義務があるということです。
8-3. 解除と契約の終了
611条2項は、残った部分だけでは賃借の目的を達せられないとき入居者は解除できると定め、616条の2は、全部が使えなくなれば賃貸借は終了すると定めています。修繕できないほど老朽化した建物は、直す義務の問題ではなく契約が終わる問題に変わります。不動産投資家Kの解説が挙げるように、生活インフラの不具合を長期間放置すれば、入居者の退去が債務不履行を理由とする解除として認められやすくなり、空室期間と次の募集費用、原状回復の負担が大家に戻ってきます。
📋 9. 契約書と入居時案内で決めておく5項目
ここまでの条文と裁判例を、契約書と入居時案内に落とすと次の5項目になります。標準契約書を使っているなら、追加するのは太字の部分だけです。
| 項目 | 契約書に書くこと | 根拠・注意 |
|---|---|---|
| ① 小修繕の範囲 | 別表第4方式で、電球・蛍光灯・ヒューズ、蛇口のパッキン・コマ、ゴム栓・鎖、その他軽微な修繕を列挙し、入居者が通知・承諾なしに自費で行えるとする。畳・障子・ふすまの張替えを足すなら明記する | 列挙した範囲は償還請求が排除される。設備の交換や構造部分まで広げると消費者契約法10条で無効になりうる |
| ② 通知の窓口と方法 | 修繕を要する箇所を発見したら、貸主または管理会社に書面・メール・管理アプリで通知し協議する。24時間の緊急連絡先を明記する | 標準契約書第9条3項。通知の記録が「相当の期間」と帰責性の判断材料になる |
| ③ 入居者が自ら修繕する手続 | 修繕箇所・必要性・見積金額を書面で通知し、貸主の承諾を得たときに修繕できる。承諾なく行った修繕の費用は請求できない。ただし急迫の事情がある場合は事後報告でよいとし、金額の上限を書く | 608条1項と異なる特約は一般に有効。急迫時の例外を書かないと、入居者の利益を一方的に害するとされる余地がある |
| ④ 修繕のための立入り | 貸主は事前に通知して修繕を実施し、入居者は正当な理由なく拒否できない。漏水・火災・ガス漏れなど緊急時は事前通知なしで立ち入れる | 606条2項・標準契約書第9条2項。無断入室は自力救済になるので、緊急時の定義を具体的に書く |
| ⑤ 設備と残置物の区別 | 付帯設備一覧で貸主が修繕義務を負う設備を特定し、残置物は「無償貸与・修繕義務なし」か「無償譲渡」かを書く | 契約書に載せた設備は同等品で維持する義務が生じる。残置物を募集広告で設備と表示しない |
大家側で並行して用意するのは、設備ごとの業者リスト、修繕履歴(内容・費用・原因が経年か入居者過失か)、修繕前後の写真です。修繕履歴は税務の修繕費・資本的支出の判定でも同じ書類を使うので、発注の段階でそろえておくと二度手間になりません。判定の手順は修繕費と資本的支出のフローチャートに書きました。
❓ 10. よくある質問
Q1. 築古で家賃を相場より安くしています。小修繕は入居者にお願いできますか?
特約がなければできません。全日本不動産協会の相談回答は、家賃が安いかどうかで修繕義務の帰属は決まらず、安く貸すのを前提に修繕義務を負わないなら契約書に特約を設ける必要があるとしています。特約を入れる場合も、電球やパッキンなどの小修繕にとどめ、給湯器の交換や構造部分まで入居者負担にすると無効になる可能性があります(東京地裁平成25年12月19日判決)。
Q2. 「エアコンが古いので新品にしてほしい」と言われました。応じる義務はありますか?
使えている限り義務はありません。修繕義務は「修繕しなければ契約どおりに使用収益できない状態」に生じ、程度も使用に必要な限度にとどまります(東京地裁平成25年1月29日判決)。壊れたときは同等品への修理・交換で足り、最新機種にする義務もありません。空室対策として交換する判断は別の話で、その費用が修繕費か資本的支出かは税務の判定になります。
Q3. 「相当の期間」は具体的に何日ですか?
法律にも国土交通省の標準契約書にも日数はありません。不具合の緊急度、季節、代替手段の有無で変わります。目安として、日本賃貸住宅管理協会の賃料減額ガイドラインの免責日数(電気2日、水2日、ガス3日、トイレ1日、風呂3日、エアコン3日、雨漏り7日)を超えても着手していない状態は、入居者から「相当の期間を過ぎた」と主張されやすいと考えて動くのが安全です。通知を受けたら、現地確認の日と業者の手配状況を短くても返信し、動いている記録を残してください。
Q4. 入居者が勝手に、元より高機能な給湯器に交換して全額請求してきました。
払う義務があるのは「必要費」、つまり元の状態に戻すのに必要な範囲までです。同等品への交換費用を超える部分は有益費に当たり、608条2項により契約終了時に、価格の増加が現存する場合に限って民法196条2項の範囲で精算する扱いになります。同等品の交換見積を自分の業者から取り、必要費相当額と超過分を分けて書面で回答します。
Q5. 台風で屋根が壊れました。不可抗力でも大家が直すのですか?
直すのは大家です。大審院大正10年9月26日判決や東京地裁平成28年8月9日判決は、不可抗力による損傷でも大家は修繕義務を免れないとしています。一方で、天災そのものについて大家が損害賠償責任を負うわけではなく、修繕を怠って被害を広げた場合に賠償の問題になります。火災保険の風災補償と、入居者側の家財保険・借家人賠償責任保険の確認を先に進めてください。
Q6. 入居者が修繕のための立入りを拒否し続けています。契約を解除できますか?
できる場合があります。横浜地裁昭和33年11月27日判決は、修繕認容義務違反を理由とする解除を認めました。ただし、建物の保存に必要な修繕であること、必要最小限の工事計画であることの2要件が要り、欠ければ解除権の濫用になります。無断で入室すると自力救済として大家側が違法になるので、通知と日程提案の記録を積み重ねて、弁護士に相談したうえで解除に進んでください。
Q7. 入居者から減額の請求がなければ、家賃はそのままでよいですか?
よくありません。改正民法611条1項は、入居者の責めによらず一部が使えなくなれば賃料は「減額される」と定めており、請求がなくても使えなくなった時点から減額されます。後から過払い分の返還を求められることもあるので、故障日・通知日・修理完了日を記録し、免責日数を超えた分は協議して精算する運用にしておきます。
🎯 まとめ
賃貸の修繕義務は、「直さないと契約どおりに使えないか」を軸に大家が負うのが原則で、新品や最新機種にする義務まではありません。直さなくてよいのは、入居者の責任で壊れた場合、賃料に照らして採算がとれないほど高額な場合、使用に支障がない軽微な不具合の3つですが、「家賃が安いから」は理由になりません。
小修繕は、国土交通省の標準契約書の別表第4のように範囲を特定すれば入居者負担にできます。ただし「修繕は借主負担」と書いただけでは大家の義務が免除されるだけで、入居者に直す義務は生じません。構造部分や設備交換のような多額の修繕まで入居者に負わせる特約は、消費者契約法10条で無効になります。
入居者が自分で直せるのは、通知したのに相当の期間内に直さないときと、急迫の事情があるときの2つで、大家が払う義務は必要費の範囲に限られます。立入りを拒まれても無断では入らず、通知と日程の記録を残して解除の要件をそろえます。放置すれば家賃は請求がなくても減額され、落ち度があれば損害賠償にもなります。契約書に5項目を入れ、通知を受けたら短くても返信して記録を残すことが、この記事で書いたすべての場面の防御になります。
📖 この記事の根拠(出典・参考)
- e-Gov法令検索 民法 第606条(賃貸人による修繕等)・第607条・第607条の2(賃借人による修繕)・第608条(賃借人による費用の償還請求)・第611条(賃借物の一部滅失等による賃料の減額等)・第616条の2・第621条(賃借人の原状回復義務)(2026年9月参照)
- 国土交通省「賃貸住宅標準契約書 平成30年3月版・連帯保証人型」第9条(契約期間中の修繕)・別表第4・解説コメント/「『賃貸住宅標準契約書』について」(2026年9月参照)
- 公益財団法人日本賃貸住宅管理協会「貸室・設備等の不具合による賃料減額ガイドライン」(令和6年10月4日運用開始。減額割合と免責日数)
- 公益社団法人全日本不動産協会 不動産お役立ちQ&A(江口正夫弁護士)「賃借人による賃貸人の修繕要求の拒否」(月刊不動産2012年6月号)/「賃借人からの建物修繕費用の支払請求」(2012年12月号)/「老朽建物の修繕義務と責任免除特約の効力」(2011年10月号)
- 多湖・岩田・田村法律事務所「不動産賃貸相談/賃貸人の修繕義務の範囲」(2025年11月1日更新。大審院大正10年9月26日、東京高裁昭和56年2月12日、東京地裁平成25年1月29日、平成21年3月27日、平成28年8月9日、賃料減額割合の各裁判例、最高裁平成21年1月19日の各判決)
- 名古屋総合法律事務所「老朽化した建物、どこまで修繕する必要がありますか。」(東京地裁平成3年5月29日判決)
- 虎ノ門桜法律事務所 伊澤大輔弁護士「借家の修繕義務を賃借人に負担させる特約の有効性」(2022年2月2日。最高裁昭和43年1月25日、東京地裁平成25年12月19日、平成27年8月26日の各判決)/内藤寿彦法律事務所「賃借人が修繕義務を負担するという特約」(東京高裁昭和51年9月14日、昭和59年10月30日の各判決)
- 三井のレッツ 江口正夫弁護士「賃貸人の修繕義務の範囲とは?賃借人の修繕権について解説」(2022年1月改訂)/BUSINESS LAWYERS 井上治・猿倉健司弁護士「賃貸借契約に関する民法改正の概要と留意点(その4)修繕義務・修繕権、賃料減額等」(中間試案補足説明458頁の整理、条項例)
- 三井住友トラスト不動産 大谷郁夫弁護士「それって、払わなければいけないの?大家さんの修繕義務の範囲」(2023年6月号)/エイブル オーナー向けサイト(芝大門法律事務所 高橋真司弁護士監修)「賃貸物件で水漏れ発生!大家さんの責任範囲や対処法」
- 不動産投資家K「賃貸人の修繕義務範囲はどこまで?設備が故障したときの責任や対処法」(2025年8月22日)/iedoki「賃貸物件の修繕協力義務: 賃借人の拒否が契約解除につながる裁判例」/イー・トラスト「賃貸物件の修理費用を負担するのは誰?」(いずれも2026年9月参照)
- 監修について:本記事は弁護士の監修を受けたものではありません。個別の契約の解釈と紛争対応は、契約書の原文をもとに弁護士にご相談ください
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関西の不動産投資家。賃貸経営の体験と、法令・公的機関の資料をもとに、税務・融資・賃貸経営・法人運営の実務ガイドを発信しています。


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