投資用物件の売買価格が「割高なのか?」「割安なのか?」を判断するのは少し難しいですよね。
普段の生活で買い慣れている商品であれば「いつもより安いかな?」とか「先月から値上げされてしまった」などと、比較的簡単に売買価格を評価できますが、車や不動産のように、すぐに価値が分かりにくい商品については、もう少し明確は評価基準が必要です。
今回は不動産の中でも主に賃貸物件の評価方法である収益還元法についてまとめてみました。
不動産の価格は分かりにくい
不動産の価格を評価するにはさまざまな情報が必要になります。挙げ出すと切がありませんが、以下のような項目は物件価格を評価する上で、大きな影響を与えます。
- 間取り
- ワンルーム、1LDK、○○㎡、など
- 構造
- 木造、鉄骨造、鉄筋コンクリート造、など
- 築年数
- 新築、築浅、法定耐用年数を経過している、など
- 立地
- 都心、郊外、駅チカ、など
- 金融機関の担保評価
- 担保評価額が高ければ売却にも有利
つまり「築○年の○LDKの分譲マンションが○○万円」との情報だけでは、(大まかには分かるかもしれませんが)その物件が「割高なのか?」「割安なのか?」もしくは「妥当な価格なのか?」は分かりません。
収益還元法による価格の算出
収益還元法とは「該当の物件が将来生み出すであろう収益と現在価格を総合的に評価する計算方法」のことです。物件の収益性をもとに物件の売買価格を算出します。
収益還元法は以下の2種類の計算方法があります。
- 直接還元法
- DCF(Discounted Cash Flow)法
直接還元法とDCF法の特徴については以下のとおりです。
直接還元法の特徴
直接還元法とはある期間(通常は1年間)における純利益を還元利回り(実質利回り)で割ることで不動産価格を算出する方法です。
計算方法は以下の通りです。
- 年間収益÷還元利回り(実質利回り)=不動産価格
年間収益と還元利回り
直接還元法を正しく算出するには以下の値の信憑性を高めなければいけません。
- 年間収益
- 還元利回り(実質利回り)
年間収益は1年間の家賃収入から必要経費を差し引いて算出します。
年間の家賃収入は単純に月々の賃料を12倍するのでは無く、空室率などを踏まえて計算する必要があります。
また必要経費には主に以下のようなものが含まれます。
- 賃貸経営の必要経費
- 毎月必要となる管理会社へ支払う管理費用
- 毎年必要となる固定資産税・都市計画税
- 入居者の入れ替わりが発生した際に必要となる仲介手数料や修繕費用
年間収益が分かれば、物件の購入価格から年間収益を割ると利回り(実質利回り)が算出できます。
また、実際にはエリアごとの類似物件(競合)の利回りなどが考慮され価格に影響を与えることもあるようです。
なお、利回りの基本的な計算方法についてはこちらの記事で詳しく解説しています。利回りの計算方法は賃貸経営をする上では基本中の基本なので、是非、あわせて読んで頂ければと思います。
収益還元法の注意点
収益還元法の考え方としては「将来の家賃収入や必要となる経費が一定である」ことを前提として計算が進められます。ですが、現実問題として年数が経過すれば家賃収入は下がりますし、必要となる経費(管理費や修繕積立金)は増える傾向にあります。
家賃の下落率や必要経費の上昇などを考慮するにはDCF法による計算の方が、より信憑性のある価格が算出できると言えます。
DCF法の特徴
DCF法とは「Discounted Cash Flow」の略です。DCF法とは将来得られる収益と売却価格を現在価値に割引き、それらを合計することで評価額を求める方法です。
DCF法の根底には「同じ金額の資産の場合、将来価値よりも現在価値の方が価値が大きい」との考え方があります。
これはDCF法に限った話ではありませんが、「今すぐ手に入る現在価値の100万円」と「10年後に手に入る(と約束される)将来価値の100万円」では「現在価値の100万円」の方が価値が大きいとされているのです。
もし現時点で100万円が手元にあれば、銀行で貯金したり、運用益の見込める投資信託などを購入することで、10年後には100万円以上の価値になっている可能性が高い訳です。勿論、ゴミみたいな投資信託を購入してしまった場合は100万円以下になってしまいますが、正しいタイミングで正しい金融商品を運用すれば基本的には100万円以上になっていると考えられているんですね。
勿論、将来のインフレ率などによってお金の価値は変わりますが、インフレ率の予測は難しく(と言うかできない?)、計算も複雑になるため割愛します。なお、インフレの仕組みについてはこちらの記事で解説しています。
またDCF法を理解するには「現在価値」と「将来価値」の関係性を理解した上で、次の考え方を理解する必要があります。
- 割引現在価値
- 将来価値を現在価値に割り引いた価値
- 割引率
- 価値を割り引くための利率
仮に、5年間保有した後に売却することを想定した場合、計算方法は以下の通りです。
- 1年目収益(割引現在価値)+2年目収益(割引現在価値)+3年目収益(割引現在価値)+4年目収益(割引現在価値)+5年目収益(割引現在価値)+売却価格(割引現在価値)=不動産価格
家賃収入や売却価格(物件の価値)は入居者の入れ替わりや、年数の経過によって徐々に下がっていくのが一般的です。そう考えると、割引率(割引現在価値)を考慮した計算方法の方が、より信憑性の高い売買価格を算出できると考えられます。
DCF法と割引現在価値
一般的には「収益還元法よりもDCF法の方がより正確な価格が算出できる」と言われますが、以下の設定によって価格が大きく変動します。
- 割引率
- 売却価格
いくらDCF法が優れた計算方法だとしても、割引率や売却価格が現実離れしていれば、適切な不動産価格は算出できなくなってしまいます。
具体的な計算方法
直接還元法とDCF法のそれぞれの計算方法について、具体的な数字をもとに解説します。
まず、物件の条件を以下の通りとします。
- 年間収益…50万円
- 家賃収益…60万円
- 支払経費…10万円
- 実質利回り…5%
- 割引率…5%
- 保有期間…5年
- 売却予定価格…700万円
直接還元法による算出
先程、ご説明した通り、直接還元法の計算方法は以下の通りです。
- 年間収益÷還元利回り(実質利回り)=不動産価格
この計算方法をもとに実際の数字を当てはめてみます。
- 50万円÷0.05=1,000万円
直接還元法はかなりシンプルな計算になります。
DCF法による算出
DCF法による算出の場合、まずは各年度の割引現在価値を算出する必要があります。
- 1年目収益の割引現在価値
- 50万円÷(1+0.05)=476,190円
- 2年目収益の割引現在価値
- 50万円÷(1+0.05)²=453,514円
- 3年目収益の割引現在価値
- 50万円÷(1+0.05)³=431,918円
- 4年目収益の割引現在価値
- 50万円÷(1+0.05)⁴=411,351円
- 5年目収益の割引現在価値
- 50万円÷(1+0.05)⁵=391,763円
- 売却時の割引現在価格
- 700万円÷(1+0.05)⁵=5,484,683円
上記の金額を合計します。
- 476,190円+453,514円+431,918円+411,351円+391,763円+5,484,683円=7,649,419円
不動産価格を算出することのメリット
賃貸物件の利回り計算などと比べて、収益還元法やDCF法は少し複雑な計算方法になります。
ですが、これらの仕組みを理解することで、購入時にしても売却時にしても提示された価格の妥当性を判断することができます。
- 提示された不動産価格はどの計算方法で算出された価格なのか?
- 根拠(前提)となる利回りや売却価格は現実離れしていないか?
- 自分が想定したキャッシュフローや利回りが実現できそうか?
購入時、売却時、問わず、不動産価格を正しく評価することは、とても大切なことですが、この辺りを理解できていると、極端に高値で購入することや、極端に安値で売却することは防げるはずです。
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