あなたはどのように投資対象の物件を探し始めますか?
投資対象の物件を選ぶ方法は人によって多少の違いはあるものの、まずは賃貸仲介サイトに掲載されている情報や物件概要書などの書類の情報から投資対象として相応しい「良い物件」を探し始めることが多いです。
ただ「良い物件」の定義は人によって変わります。「利回りは低くても空室や修繕リスクの低い安定した物件」が良い人もいれば「キャッシュフローを潤沢に得られる物件」や「金融機関からの評価が高く融資を受けやすい物件」に価値を感じる人もいます。
全ての条件を満たせるような万能な物件は存在しませんが、今回は上記の条件をバランス良く取り入れ「空率や修繕リスクを比較的低く抑えた上で一定のキャッシュフローが見込める物件」を探すことを中心に、情報の取り扱い方や判断基準についてまとめてみました。
- 良い物件を探すための基準を明確にしたい人
- 誤った判断をすることで賃貸経営を失敗したく無い人
利回りとキャッシュフローが重要
投資用物件を選ぶ際、重要になるポイントは沢山ありますが、最も基本となる軸が「利回り」と「キャッシュフロー」です。
まずは、自分が希望する利回りを決めます。キャッシュフローを確保するためには、返済期間や金利にもよりますが、まず最初に「○%以上の利回りの物件を探す」という軸を立てた方が効率良く物件を探すことができると思います。
利回りを評価する際の注意点
利回りについては「高ければ高い程良い」訳ですが、以下の点を考慮する必要があります。
- 利回りの信憑性は?
- 「本当に想定した利回りを達成できるのか?」が重要
- 大規模修繕やリフォーム費用は?
- 高利回りでもメンテナンス費用によっては経営を圧迫する
また、販売価格は人によって意見が大きく別れますし、僕のような弱小大家だと金融機関からの融資限度額も限られています。販売価格を検討する時は「この物件を購入する場合、いくらまでなら融資が可能になるか?」も含めて考えなければいけません。
どれだけ入念に物件情報を調査しても、そもそも購入できないような物件であれば時間の無駄になってしまいます。
利回りの信憑性はあるか?
利回りの妥当性を判断するには以下の4点がポイントになります。
設定された家賃が妥当なのか?
設定された家賃が妥当なのかどうかは周辺の競合物件の価格から判断します。
周辺相場よりも高めの家賃が設定されていたら、それは現実離れした「理想の家賃」であり、妥当性は低いです。
期待できる入居率は妥当なのか?
空率リスクが高いこと自体は悪いことではありません。それは空室リスクの高さが物件価格(利回り)に組み込まれているからです。
空室リスクが心配される物件はその分、期待できる利回りは高くなる傾向にあります。
仮に空室リスクが高くても、その分利回りが高ければ、仮に満室率が100%から多少下回ったとしても、安定したキャッシュフローが見込めるはずなので、購入対象と判断できますが、逆に、期待できる利回りが高くないにも関わらず、空室リスクも高い物件はハイリスク・ローリターンなので、当然、投資対象外となります。
投資対象の地域として妥当か?
満室経営を目指す上で立地はもっとも大切です。ただ「何を基準に良い立地とするか?」は物件の種類によって多少変わります。中でも、以下の2点は大切なポイントです。
- 人口流入は維持できるか?
- 企業や大学など一部の団体に依存しないか?
賃貸経営は遠隔地でもできますが、物件を自主管理したかったり、将来、自主管理を目指したい場合は、手軽に現地までに出向ける距離の方が良いです。
当然、自宅や生活圏から近い地域の方が、その地域の魅力や治安なども分かるので、おすすめだと思います。
移動手段は電車か?車か?
移動手段が電車やバスに依存している都心では「最寄り駅までの徒歩分数」「最寄り駅の規模」「大規模ターミナルへの所要時間」などが重要ですが、地方や田舎のような車社会では、むしろ大通りにアクセスしやすい方が重宝されます。
逆に、都心の特にワンルームマンションなどでは車の保有率もかなり低いため、駐車場はほとんど不要ですが、車社会である地方や田舎の物件では「駐車場の設置」は必須項目です。最低でも戸数分以上の駐車場を確保するべきです。
土地関係の情報は意外と大切
土地関係の情報についても法律などで定められている場合が多く、立地同様、購入後に変更できない項目も沢山あります。必ず購入前に確認しなければいけません。
土地の権利
土地の権利には、基本的には「所有権」が多いですが、中には「借地権」の場合もあります。
- 所有権
- 販売元が所有している土地を売買する一般的な方式
- 借地権
- 別の所有者の土地(底地)の上に建物を建築している方式
借地権の場合、仮に購入したとしても土地自体は自分の所有物にならないため、物件の販売価格や安く抑えられますが、土地の所有者に対して毎月一定額の借地料(地代)が必要になります。また、借地料自体はわずかであったとしても、20年〜30年ごとに百万円単位での更新料が掛かることもあります。
所有権の場合は土地が自分の所有物になるためとてもシンプルですが、借地権の場合は「利用用途」や「契約期間」など、いろいろと考慮する部分も出てきます。地方や田舎など借地権の更新料が必要ない地域もありますが、基本的には初心者は避けたい契約内容だと思います。
地目は「宅地」なら問題無い
地目とは「土地の用途」のことで、土地の利用状況や利用目的によって区分したものです。主な地目には以下のようなものがあります。
- 宅地
- 建物の敷地および、その維持、もしくは効用を果たすために必要な土地
- 田
- 農耕地で用水を利用して耕作する土地
- 畑
- 農耕地で用水を利用しないで耕作する土地
地目は「宅地」なら特に問題ありません。既に物件が建てられている中古物件の場合は「宅地」になっているはずですが、新築用に土地を購入する場合は注意が必要です。
上記以外にも「牧場」「池沼」「墓地」「水道用地」「用悪水路」「ため池」「公衆用道路」「公園」「鉄道用地」「学校用地」「雑種地」など合計で23区分(23種類)に分けられます。
都市計画区域は「市街化区域」が良い
計画的な市街化を図るために都道府県ごとに定められた区分(区域)です。以下のような区域があります。
- 市街化区域
- すでに市街地を形成している区域
- 今後10年以内に優先的、計画的に市街化を進める区域
- 路線価が設定されているため土地の評価が出しやすい
- 市街化調整区域
- 都市施設の整備や市街化などが抑制された区域
- 農地が多いエリアなど
- 生活インフラの整備が乏しく
- 自治体からの整備工事に関わる助成金が受けにくい
- 原則的には建築不可、建物を建築する際には許可が必要となる
- 金融機関からの融資も付きにくいため基本的には投資対象外
- 都市施設の整備や市街化などが抑制された区域
- 非線引き区域
- 都市計画区域内ではあるが市街化区域および市街化調整区域に該当しない区域
- 路線価が設定されていないため土地の評価が低い傾向になる
基本的には「市街化区域」になっているはずです。
用途地域は一般的には「住宅系地域」が良い
用途地域が分かれば物件の周辺環境が何となく把握できるはずです。
建築できる建物の種類、用途、容積率、構造などについて一定の制限を定めたものです。基本的には「住居系地域」になっていると思いますが「住居系地域」「商業系地域」「工業系地域」ごとに合計で13種類に分けられています。
- 住居系地域
- 第1種低層住居地域
- 第2種低層住居地域
- 第1種中高層住居地域
- 第2種中高層住居地域
- 第1種住居地域
- 第2種住居地域
- 準住居地域
- 田園住居地域
- 商業系地域
- 近隣商業地域
- 商業地域
- 工業系地域
- 準工業地域
- 工業地域
- 工業専用地域
「商業系地域」や「工業系地域」の中にも住宅を建築しても良い用途地域が存在します。ただし「商業系地域」はいわゆるオフィス街のようなイメージで、土地値が高かったり、駐車場スペースを確保しにく場合が多く、また「工業系地域」は騒音や匂いなどの問題があったり、大型車両の通行も多くなり、どちらも賃貸経営には不向きな地域が多いです。
建ぺい率と容積率から「違法物件」を判断する
「建ぺい率や容積率が何%?」も大切ですが、それ以上に重要なポイントになるのが「違法物件では無いか?」です。
容積率オーバー物件でも、賃貸経営として成立するのであれば問題無いと思うかもしれませんが、金融機関としては違法物件には融資してくれない可能性が高いので、購入することは難しくなりますし、もし購入できたとしても、売却する時に買い手が見つからず苦労します。
売却が上手くいかなければ、結果的に経営成績にもマイナスの影響を与えます。
公共インフラも無難なものを選ぶ
基本的に大きな心配はいらないですが、地方の物件や築年数が古い物件では、トラブルにつながることがあるかもしれません。
基本的には「公共水道」「公共下水」「都市ガス」などであれば手間は少なくなるはずです。
私道負担面積と接道状況
「私道負担面積」とは土地に含まれる私道部分の面積のことです。
敷地の前面道路の幅員が4m未満の場合、必要幅員である4mを確保するために敷地境界線を交代させる必要があり、その部分を後退(セットバック)することで、私道面積を確保します。
また、接道状態とは敷地が道路に接している状況のことで、方角と接している長さが記載されます。
接道義務が満たせているかを確認します。
建物の物理的な情報
建物の物理的な情報については後からリフォームが可能ではあるものの、課題や問題点を把握しておかなければ、後から高額な修繕工事が必要になるようなこともあります。やはり、こちらについても購入前に確認しておかなければいけません。
土地面積
土地面積の記載方法には「公簿面積」と「実測面積」がありますが、公簿面積の情報が掲載されていることが多いです。
- 公簿面積
- 登記簿謄本に記載されてる面積
- 実測面積
- 実際の測量に基づいた面積
公簿面積と実測面積で微妙に面積が異なることは多いですが「仮に公簿面積と実測面積とで誤差があったとしても最終的には実際の物件(実測面積)の内容をもとに契約を締結する」のが一般的です。
物件構造と対応年数の関係性
まず最初に物件構造を決めます。物件構造には区分マンション、1棟アパート、戸建て物件など、さまざま種類があります。
購入対象の物件を選ぶ過程で物件構造を決めても良いと思いますが、物件構造を決めずに物件選びを始めてしまうと、対象となる物件の数が膨大になり、とても非効率になります。
余程、理由が無い限りは物件構造を決めてから購入対象の物件を探すべきです。
なお、建物構造と築年数は関連性が高いため「築○○年の○○構造の物件」のように、ひとまとめにして考えても良いと思います。主なチェックポイントは以下の2点です。
法定耐用年数の問題は無いか?
建物の構造によって物件ごとの法定耐用年数が異なります。
原価償却費を計上するための減価償却期間は法定耐用年数をもとに計算されるため、建物構造と築年数によって、年間の減価償却費に大きな影響が出てきます。
また、一般的に、金融機関からの融資期間は法定耐用年数に依存することが多いため、残りの法定耐用年数が10年程であれば、融資期間も10年前後になってしまう可能性が高いです。
また少し気が早いように感じるかもしれませんが、法定耐用年数は売却時にも大きな影響を与えます。
もし法定耐用年数が残っていない物件であれば、金融機関からの融資を受けれない可能性が高く、いざ、物件を売却しようと考えた時に、次に購入できる人がいなければ、売却できなくなりますし、仮に売却できれば購入層が現金一括購入ができるような人に限られるため、安く買い叩かれる恐れがあるかもしれません。
自然災害発生時の影響
同じ日本でも地域によって自然災害のリスクは変わります。地震が多い地域もあれば、水災の被害を受けやすい地域もあります。
また仮に地震の被害を受けたとしても、新耐震基準か旧耐震基準かによって、物件に与えるダメージは大きく変わります。
経験のある家主であれば、旧耐震基準法で建築された物件でも自力でどうにでも対応できるかもしれませんが、それ程経験が無い場合は避けた方が無難です。
個人ごとに考え方が分かれるかもしれませんが、あくまで僕の個人的な考えとしては「旧耐震基準法で建築された物件は購入しない」と決めています。
間取りと戸数の考え方
間取りと戸数からは「賃貸経営に対する安定性」が分かります。
勿論、安定した賃貸経営をするためには、間取りや戸数よりも大切な項目がたくさんありますが、以下のような傾向があると思います。
間取りと家族構成との関係性
間取りが分かれば入居者の家族構成がある程度見えてきます。一概には言えませんが、例えば以下のようなイメージです。
- ワンルーム、1DK〜1LDK
- 一人暮らし
- 1LDK〜2LDK
- DINKs(子供を持たない夫婦)や同棲しているカップル
- 3LDK〜4LDK
- 子供のいるファミリー層
一人暮らしやDINKsの場合は、転職、転勤、結婚などのライフイベントが控えている可能性が高く、平均入居期間が短くなりますし、子供のいるファミリー層であれば、平均入居期間は長くなりそうですが、その分、空率発生時に新しい入居希望者を獲得するのは大変そうです。
戸数とリスク分散の関係性
分譲の区分マンションを1部屋だけ保有している場合、入居者がいれば家賃収入は満額得ることができますし、空室があれば家賃収入はゼロです。
つまり「満室率100%」か「満室率0%」かのどちらかです。
一方、一棟マンションで戸数が10部屋あれば、その分、空室リスクを分散化できます。
勿論、戸数が多い分、満室経営を実現するのは大変ですが、想定利回りによっては満室で無くても、安定した経営は実現できます。
戸数と青色申告特別控除の関係性
小規模な不動産経営でも青色申告で確定申告することは可能ですが、青色申告特別控除で65万円の控除を受けるためには「所有物件の規模が5棟10室」であることが基準になります。
事業的規模だと判断できる場合は、仮に5棟10室の基準を満たしていなくても65万円の青色申告特別控除が受けられます。ただし、所有物件の規模が微妙な場合は、戸数を増やすことで、青色申告特別控除の基準に近付けると思います。
状況と引渡
物件の状況には以下のようなものがあります。
- 建物の状況
- 居住中、空室、賃貸中、未完成など
- 土地の状況
- 更地、上物有など
物件の状態については「空室」や「未完成」の場合は、入居者がいないため当然ながらその分の賃料は発生しません。
特に空室があることについては大きな問題ではありませんが「空室分は販売価格に盛り込まれているのか?」「ちゃんと空室を埋めることができそうなのか?」などを判断しなければいけません。
また、契約締結後の物件引渡までの期間として「即時」や「相談」などがあります。特に理由が無い限りはなるべく早めに引渡してもらい、入金(家賃)が発生するようにしたいところです。
防火区分
住宅街で万が一火災が起きてしまった時に、少しでも被害や延焼を小さくするための規則です。主に以下のような防火区分に分けられます。
- 防火地域
- 床面積100㎡以上、かつ3階建て以上の物件は耐火建築物となる
- 準防火地域
- 一定規模の建物において耐火基準が設けられている
- 法22条区域(建築基準法22条指定区域)
- 屋根を燃えにくい不燃材で建築しなければいけない
「防火地域」が最も規制が厳しく、次に「準防火地域」「法22条区域」の順番に緩和されていきます。
国土法届出
一定規模以上の土地売買等の契約を締結した場合、国土利用計画法に基づいて必要となる届出でです。「要」か「不要」のどちらかになります。
補足情報は必ずチェック
その他にも注意するべきポイントがいくつかあります。
備考欄などに記載されている場合もありますが、わざわざ明記している特筆事項であるため、必ず見落とさないように注意が必要です。
修繕積立金と修繕履歴
「修繕積立金は確保されているか?」はその後の運営資金に大きな影響を与える大切な項目です。
前回の大規模修繕工事の時期と、現在の修繕積立金の金額も大切なポイントです。
設備情報
設備情報には「オートロック」「エアコン」「宅配ボックス」「駐車場」などの情報が記載されています。
1棟マンションやアパートの場合は、入居者が退去するタイミングで設備を取り替えるため多少のばらつきもあるはずなので、全ての部屋を確認します。
過不足があれば費用対効果を考慮して新設するのもありです。
ただし、地方や田舎の物件の場合「駐車場の台数」には注意が必要です。特にファミリー向けの物件であれば、最低でも「部屋数×1台」条件によっては「部屋数×2台」の駐車場を確保できる方が良い場合もあります。
必要となる支出
必要となる支出は利回りやキャッシュフローの計算に影響を与えるため、漏れなく把握しなければいけません。特に以下のような支出は定期的に必要になります。
- 管理費、修繕積立金
- 固定資産税、都市計画税
- 町内会費
固定資産税や都市計画税は新築後数年間は減免されている場合もあるため、減免適用期間内の金額であれば、将来的に値上がりするので注意が必要です。
その他の告知事項
上記以外に何か注意点がある場合は告知事項に記載されています。例えば以下のようなものがあります。
- 物理的瑕疵
- 雨漏り、傾き、境界不明確など
- 心理的瑕疵
- 自殺、殺人、事故死(孤独死)など
- 環境的瑕疵
- 騒音悪臭、近隣に高層ビルなどの建築予定ありなど
- 法的瑕疵
- 建ぺい率、容積率オーバー、再建築不可など
不明点や怪しい点があれば、後で泣き寝入りにならないように、必ず購入前に確認しなければいけません。
これらの告知事項が明記されている場合、必ずしも購入対象外になる訳ではありませんが、その分、適切な価格(必要に応じて値引き交渉をする)になるか検討する必要があります。
効率良く物件を探すために
効率良く物件を探すためには物件概要書などのデータを適切に把握することが大切です。
前向きに購入を検討したいような物件であれば現地にまで見に行けば良い訳ですが、物件概要書の内容を正しく読み込んでおけば、そもそも対象外であるはずの物件に対して、わざわざ出向くような無駄足を減らすことができます。
勿論、現地で初めて気付く情報もあるでしょうし、物件概要書などに記載されている物件情報が実物と微妙にことなるケースもあるため、データだけで判断できない部分も多いと思いますが、気になる物件が出てくるたびに、その都度、現地まで足を運ぶようでは、時間がどれだけあっても足りません。
効率的に物件情報を把握するためには、やはり物件概要書などのデータは重要な判断基準になります。
ちなみに、ここまでの内容は書籍「一級建築士の大家が教える 儲かるアパートの選び方」の中でとても丁寧にまとめられていました。「購入対象の物件を選ぶ」という意味では僕が今まで読んできた書籍の中で一番参考になった本です。是非、一度、読んでみて頂ければと思います。
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