日本は世界の中でも有名な地震大国です。
そのため「ある程度の規模の地震にも耐えられるような物件」を所有することが大切です。
「建物がどの程度の地震にまで耐えられるのか?」を判断する上で重要なのが「耐震基準」です。
この記事では建物の耐久性を評価するために大きなポイントになる耐震基準について解説します。
- 耐震基準が改定されてきた経緯について知りたい人
- 旧耐震基準と新耐震基準の違いを理解したい人
旧耐震基準と新耐震基準の違い
耐震基準については、これまでに耐震基準は何度も改定されていますが、1981年(昭和56年)に改正された新耐震基準かそれまでの旧耐震基準かによって、建物に対する安心感は大きく変わります。
耐震基準改定の流れ
日本で初めて建築法規ができたのが1920年(大正9年)の市街地建築物法です。
そして、1950年(昭和25年)に市街地建築物法が廃止され、建築基準法が誕生しました。
その後も大きな地震や災害が発生するたびに耐震基準が見直されていますが、1978年の宮城県沖地震をきっかけとし、1981年(昭和56年)に改正された耐震基準のことを新耐震基準といわれています。
耐震基準の改定の流れ改定時期 | 耐震基準 | 改定のきっかけとなった災害 |
---|---|---|
1920年(大正9年) | 市街地建物法制定 | 濃尾地震(1891年10月28日発生) |
1924年(大正13年) | 市街地建物法改正 | 関東大震災(1923年9月1日発生) |
1950年(昭和25年) | 建築基準法制定 | 福井地震(1948年6月28日発生) |
1971年(昭和25年) | 建築基準法改正 | 十勝沖地震(1968年5月16日発生) |
1981年(昭和56年) | 建築基準法改正(新耐震) | 宮城県沖地震(1978年6月12日発生) |
1995年(平成7年) | 耐震改修促進法制定 | 阪神淡路大震災(1995年1月17日発生) |
1995年(平成7年) | 建築基準法改定 | 阪神淡路大震災(1995年1月17日発生) |
2005年(平成17年) | 建築基準法改定 | 新潟中越地震(2004年10月23日) |
2011年(平成23年) | 耐震改修促進法改正 | 東日本大震災(2011年3月11日発生) |
新耐震基準の特徴
旧耐震基準は、震度5強程度の揺れでも建物が倒壊しないような構造を基準とされていますが、新耐震基準はさらに厳しい基準が設定されています。
新耐震基準の主なポイントは以下の通りです。
- 1978年の宮城県沖地震を受けて改正
- 1981年6月1日以降の建築確認において適用
- 震度5強程度の地震ではほとんど損傷しないような耐震強度
- 震度6強~7程度の揺れでも倒壊しないような耐震強度
新基準では、地震による建物の倒壊を防ぐだけではなく建物内の人間の安全を確保することに着目されています。
新耐震基準の物件を見分ける方法
それでは、自分の住んでいる建物やこれから購入しようと思っている建物が旧耐震基準をもとに建てられた物件なのか、新耐震基準をもとに建てられた物件なのかを見分けるにはどうしたら良いでしょうか?
築年数で判断できる?
建築基準法の改正により新基準が施行された1981年(昭和56年)6月1日以降に着工された建物に対して新耐震基準が適用されているはずです。
ですが、仮に完成が1981年6月1日以降でも着工がそれ以前の場合は旧耐震基準の設計をもと建設されている可能性があるので、それだけで判断する訳にはいきません。
また、施行日(登記上の建築日付)が1982年(昭和57年)1月1日以降の建物は新基準に適合しているものと”みなす”ことになっていますが、実際には建築期間が長く掛る(1年~2年程)マンションなど、新耐震基準に適合しない建物が存在することもあります。
建築確認済証の交付日を基準にする
仮に1982年以降に完成した物件でも、建築期間が長い場合、新耐震基準をもとに建築されている保証はありません。なので判断が難しい場合は建築確認済証の交付日を確認することで、その物件が旧耐震基準で建てられているか?新耐震基準で建てられているか?が分かります。
- 建築確認済証の交付日が1981年5月31日以前なら旧耐震基準
- 建築確認済証の交付日が1981年6月1日以降なら新耐震基準
「竣工日」は物件が完成した日ですが、「建築確認済証の交付日」は物件が完成した日では無く、建築前の確認申請を提出した時期です。
- 竣工日…物件が完成した登記上の建築日付
- 建築確認済証の交付日…確認申請を提出した時期(提出後およそ3週間程)
明らかに新耐震基準で建てられているであろう物件に対しては、わざわざ建築確認済証の交付日を確認する必要はありませんが、1982年〜1985年辺りに完成した判断が難しい物件については建築確認済証の交付日を確認した方がより安心できます。
旧耐震基準は絶対に買ってはいけない?
個人的には旧耐震基準の物件を購入するのはリスクが高いと考えています。
余程の理由が無い限り、僕があえて旧耐震基準の物件を購入することは無いでしょう。
正直なところ、大震災などで重大な問題が発生した時に、適切に(適切なコスト、適切な納期で)修繕できるか疑問があるからです。
ただ「旧耐震基準の物件は絶対に買うべきでは無いのか?」というと必ずしもそうではありません。
旧耐震基準の物件は耐久性に大きなリスクがつきまとうことは事実ですが、その反面、以下のようなメリットもあるからです。
- 旧耐震基準を避けたがる投資が多いため競合が少ない
- ライバルが少ない分、希望の価格で購入しやすくなる
- 結果的に高い利回りが期待できる
- 高齢者や生活保護受給者(低所得者)が入居しているケースが多い
- 家賃延滞リスクはあるものの退去される可能性が低い
- 上手く対応できれば安定経営が期待できる
- 家賃下落率が極めて少ない
- 築年数が古いため既に家賃設定がかなり低めに設定されている
僕自身が旧耐震基準の物件に手が出せないため余り説得力が無いですが…
賃貸経営では「敢えてリスクを取りに行くことで結果的に安定経営に繋がる」ことが多々あります。
地域の特性や地盤の強度にもよりますが、もしある程度倒壊(半壊、一部損壊)のリスクが取れるのであれば、挑戦する価値があるのかもしれません。
新耐震基準なら必ず安全か?
1981年6月1日に新耐震基準に改定されて以降、何度か大きな地震がありました。
阪神大震災では旧耐震基準の建物に被害が集中
一つのデータとして1995年に発生した阪神淡路大震災の被害状況を見るとそれぞれの差が明確に出ており、旧基準の建物は壊滅的な被害がとても多かった事に対し、新基準の建物はその被害は数%程に留まっています。
阪神大震災の新旧建築基準ごとの被害状況旧建築基準法 | 新建築基準法 | |
---|---|---|
壊滅的な被害 | 約30% | 約10% |
小規模な被害 | 約40% | 約15% |
軽微な被害・被害無し | 約30% | 約75% |
国土交通省のデータからも旧耐震基準で建てられた建物に対して被害が集中していることが記載されています。
熊本地震では新耐震基準の建物にも大きな被害
熊本地震は阪神淡路大震災を超える大規模な地震で、観測史上初めて震度7を2度含む震度5強以上の大きな揺れ継続的に発生しました。
勿論、旧耐震基準と比べると新耐震基準の方が被害は少なかった訳ですが、2016年に発生した熊本地震では新耐震基準の建物に対しても大きな被害をもたらしました。
また新耐震基準の建物のみならず、比較的、築浅の物件でさえ倒壊してしまい、住宅業界にも大きな課題を残しました。
南海トラフ巨大地震には耐えられない?
南海トラフ巨大地震とは四国の南の海底にある水深4,000m級の深い溝(南海トラフ)沿いにある「海側のプレート」が「陸側のプレート」に少しずつ沈み込んで、その反動で発生する巨大地震です。
地震の発生する確立や時期、被害規模などを予測することは難しいですが、よく以下のようなことが言われています。
- 今後30年以内に70%の確立で発生する
- 今後50年以内に90%の確立で発生する
- 最悪の場合32万人以上の死者が出るかもしれない
よく南海トラフ巨大地震のシュミレーションがされていますが、勿論あれも予想であり、実際にどのような被害になるかは分かりません。
ただ南海トラフ巨大地震は今まで日本で発生した地震と比べても、とても大きな被害をもたらすことは確かです。なので、今までよりも一層強固な耐震基準が求められています。
新耐震基準を満たすだけだと不安もある
耐震基準は、あくまで守らなければならない最低基準です。
勿論、新基準の建物だからと言って絶対に安心とは言いません。
もしどうしても心配な場合は以下のような方法でリスクヘッジを検討するのも可能です
- 地震保険に加入する
- 耐震診断を受ける
個人的には地震保険については保険料が高い割には補償範囲が狭い印象を持っているため、基本的には加入する必要は無いと考えていますが、建物の強度を見極めて必要によっては検討しても良いと思います。
また耐震診断は一般的な住宅診断とは異なり、建物の耐震性に特化した調査内容になります。
各販売会社の営業は「最近の物件は大丈夫です!」と言うかもしれませんが、いざ物件の購入を検討すると地震対策についてはどうしても気になるポイントになります。
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