賃貸経営で高い利回りを目指したい場合、ある程度、築年数の古いボロ物件を購入対象にすることがあります。
当然、築古物件になればなる程、老朽化が進んでいるため、室内室外共に厳しくチェックする必要があります。
建物にはさまざまなチェックポイントがありますが、中でも慎重に確認しなければいけない箇所は「水回りの設備」です。
この記事では水回り設備の特徴やリフォーム工事に掛かる費用などについて解説します。
築古物件の購入を検討している人には重要な知識ですし、現在、築浅の物件を所有している人にとっても将来的には役に立つ知識です。是非、最後まで読んで頂ければと思います。
- 築古物件の水回り設備について特徴や対策を知りたい人
- 水回り設備のリフォーム費用や料金を抑えるためのポイントを知りたい人
水回り設備の重要性
築古物件を購入する場合、建物の老朽化具合はとても気になるポイントです。
水回り設備は購入するまで確認できない?
修繕工事の費用が掛かりそうなポイントとしては以下のような箇所が挙げられます。
- 外壁塗装、雨漏り対策
- 地盤の傾き対策、シロアリ対策
- 受水槽やエレベーター
ただし、これらの設備については仮に入居者が住んでいた場合でも、ある程度、室外から判断(診断)することが可能です。
一方、室内の水回り設備については、入居者が住んでいる場合は室内に入ることができないため、確認できないことも多いです。
勿論、過去の修繕工事の履歴を元に「現時点での建物全体の品質」や「近い将来に必要になるであろう修繕工事の見積もり額」などを分析し、販売価格の妥当性を評価する訳ですが、室内に入れない以上、水回り設備については「恐らくこの程度の状態だろう」と予想するだけに留まります。
つまり、購入後、現在の入居者が退去した後に初めて確認する可能性が高いです。
勿論、全室の全設備を修繕するようなことはありえないですが、ある程度「最悪のシナリオ」を想定した上で「室内の状態が悪ければ○○円程の修繕費用が掛かるだろう」と予想しておいた方が無難だと思います。
水回り設備が大切な理由
室内の設備にはさまざまなものがありますが、その中でも水回り設備には以下のような特徴があります。
- 室内のリフォームの中で比較的費用が掛かる
- 入居希望者に満足されなければ入居付に苦労する
まず水回りのリフォームには費用の掛かる設備が多いです。例えば浴室などは10万円〜数十万円掛かる可能性もあります。
また、フローリングやクロスなどは多少不十分でも目をつぶってもらえるかもしれませんが、水回り設備に不満があると入居付にも苦労します。特に女性の入居者だと浴室、トイレ、キッチンなどが汚ければ、それだけで「ダメな物件」と評価されてしまいます。
つまり、室内の中でも水回り設備は特に高い水準での清潔感が求められる訳です。
リフォームのポイント
室内の清掃や修繕に比べて、水回り設備のリフォームは高額な費用が掛かります。
少しでも費用を抑える工夫をしなければ、経営に大きな影響を与えてしまうかも知れません。
ぼったくられないための注意点
特に建物管理会社が仲介する業者の場合、かなり割高になることもあります。
リフォームの仲介などは建物管理会社の貴重な収入源になっています。
「建物管理会社がリフォームの仲介で利益を得るのは間違っている」とは思いませんが、他の業者と比較して余りに高額な場合は、自分で業者を探しましょう。
関係業者と契約形態
リフォームには多くの業者間で協力して実施する。特にトイレやお風呂などだと関係者も多い。
例えば以下のような業者に協力する必要があります。
- 大工、配管業者、電気業者、解体業者、ダクト業者
- 内装工事業者、床の張替え業者、荷受け業者
- シロアリ駆除
これらの関係業者との契約形式については「一括発注」と「分離発注」の2パターンに分かれます。
- 一括発注は一つの業者を一括窓口とする
- 責任の所在を明確にできる
- コストが高くなる
- 酒膳箇所ごとのコスト感覚が身に付きにくい
- 分離発注は業者ごとに契約する
- 責任の所在が不明確になる
- 適切な業者選びでコスト削減が期待できる
- 修繕箇所のコスト感覚を身に付けられる
分離発注をして大家自らが関係業者をコントロールすることで費用を抑えることができますが、その分、事故や設備の破損などがあった場合は責任の所在が分かりにくくなるため、トラブルにならないように注意が必要です。
リフォームの目的を明確に
費用対効果を考えることが基本です。
- リフォームによって得られる効果
- 入居者満足度向上?空室率軽減?老朽化対策?
- リフォーム費用(投資額)を回収する期間
- 現状維持のまま値下げの方が懸命かも
建物の修繕には明確なゴールがありません。欲を出せば出すほど費用は掛かかってしまいます。
「リフォームする箇所の判断」も大切ですが「リフォームしない箇所の決断」も重要です。
常に「○○万円の費用を投下した場合、回収するのには○○年掛かる」という計算をした上で対応しなければ、独りよがりの修繕になってしまいます。
水回りの注意点
賃貸住宅の水回り設備として、リフォームの対象になるのは「流し台」「浴室」「トイレ」「洗面台」「洗濯機置場」辺りです。
高級住宅などでは「ディスポーザー」や「食器洗い乾燥機」のような最先端の設備なども備え付けられていますが、賃貸住宅の場合はそこまで重要では無いはずです。
勿論、あればライバル物件と差別化できますが、高価な設備になりますし「必要最低限の設備か?」と言えば、必ずしも必須の設備では無く、また設置する以上は所有者側の管理対象となり、費用対効果の観点からも余程の理由が無い限り設置する必要は無いと思います。
洗面台(洗面化粧台)
洗面台は洗面化粧台、またはシャンプードレッサーとも呼ばれます。以下のような特徴があります。
- 主なサイズ、機能、特徴など
- 主なサイズは「幅600mm」「幅750mm」の2種類
- 鏡は主に「1面鏡タイプ」「2面鏡タイプ」「3面鏡タイプ」の3種類
- 通常の吐水(とすい)用とシャワーの切替式
- 栓水(すいせん)の先端部分は可動式(引き出し可能)
- 交換に掛かる金額
- 本体価格…30,000円〜50,000円程
- 設置価格…数千円程
- 寿命(交換するタイミング)…10年〜20年程
洗面台は毎日(毎朝)使うものなので清潔感が大切です。耐久面での寿命だと10年〜20年程は大丈夫だと思いますが、デザイン面も含め、余りにも古い印象を与える場合は思い切って交換するのもありかもしれません。
洗濯機用防水トレイ
洗濯機置場の設置箇所は洗濯機用防水トレイ、防水パン、洗濯機パンなどと呼ばれます。以下のような特徴があります。
- 主なサイズ、機能、特徴など
- 基本的には物件自体に取り付けられていることが多い
- 排水ホースと床の排水口を接続し洗濯用水を排出
- 排水ホースの亀裂、劣化、接続不良などによる水漏れ防止
- 交換に掛かる金額
- 本体価格…3,000円〜10,000円程
- 設置価格…無料〜数万円程
- 排水口の位置が変更になる場合は工事費用が掛かる
- 寿命(交換するタイミング)…不明(かなり長期間使えるはず?)
最近の洗濯機では水漏れする心配も少なく、必ずしも洗濯機用防水トレイは必要では無いという意見もありますが、万が一にでも、水漏れの可能性があることを考えると、設置する方が無難だと思います。
本体価格は予想通り安価ですが、排水口の位置が変更になる場合は追加工事が必要になるため、意外と高額な費用が掛かりそうです。
キッチン(賃貸住宅向けのブロックキッチン)
キッチンには「システムキッチン」と「ブロックキッチン」の2種類があります。
- システムキッチン
- ファミリー向けの分譲住宅などで採用
- 流し台、調理作業台、コンロ台が一体化されたキッチン
- ブロックキッチン(セクショナルキッチン)
- 一人暮らし用のワンルームマンションなどで採用
- 流し台、調理作業台、コンロ台を3つ並べて配置するキッチン
一人暮らし用のワンルームマンションなどでは、ほぼ間違いなくブロックキッチンが採用されているはずです。
ブロックキッチンには以下のような特徴があります。
- 主なサイズ、機能、特徴など
- 主なサイズは公団型のNタイプ(幅1700mm×奥行550mm)、Cタイプ(幅1700mm×奥行460mm)
- 流し台、調理作業台、コンロ台など
- 小さなキッチンだと調理作業台が無い場合もある
- コンロ内蔵型と別売りコンロ設置型がある
- 交換に掛かる金額
- 本体価格…30,000円〜50,000円程
- 設置価格…100,000前後
- 寿命(交換するタイミング)…20年程
トイレ(賃貸住宅向けの和式トイレ)
家庭用のトイレには旧式の和式トイレと1980年代〜1990年代頃から普及してきた洋式トイレの2種類があります。また一般的な洋式トレイには「タンク式」「タンクレス」などの種類があります。
- タンク式トイレ
- トイレに手洗いが設置(統合)されている
- 停電時や脱水時にも動作に支障が無い
- タンクレストイレ
- 省スペースで見た目がシンプル、コンパクト
- タンク式トイレと比べ節水効果が高い
- タンク式トイレと比べて本体価格が数万円〜10万円程高価になる
- 停電時や脱水時には正常に動作しない
- 水道水の水圧で水を流す仕組み
- 手洗いが別に必要になる
- 水圧の低いタワーマンションの高層階などでは設置が困難
- ウォシュレット部分だけでの取替ができない
なお、アパートやワンルームマンションのような賃貸住宅の場合、基本的にはタンク式トイレで十分だと思います。タンク式トイレの特徴は以下の通りです。
- 主なサイズ、機能、特徴など
- 主なサイズは0.4坪用、0.5坪用、0.75坪用の3種類
- 主な機能
- ウォシュレット機能、便座暖房、脱臭機能など
- 交換に掛かる金額
- 本体価格…30,000円〜50,000円程
- 設置価格…30,000円〜50,000円程
- 寿命(交換するタイミング)…20年程
トイレを交換するタイミングで床やクロスも一緒に修繕することも多いです。トイレットペーパーホルダーやコンセントの位置なども最低限考慮しておいた方が良いです。
トイレ自体の寿命は長いですが、古い印象を与えたり水漏れの心配が出てきたら交換するタイミングだと考えるべきです。
浴室
室内のリフォームで一番費用が掛かるのは浴室です。
築年数が古い住宅であれば「バランス釜」と呼ばれる旧式の湯船が設置されていることもありますが、入居付けに苦労する可能性が高いためなるべく避けたいところでが、もし建物そのものが魅力的な場合は購入後に一般的な浴室にリフォームしても良いでしょう。
浴室の特徴は以下の通りです。
- 主なサイズ、機能、特徴など
- 主なサイズは0.75坪用の1216(120cm×160cm)、1416(140cm×160cm)辺り
- 主な機能
- 浴室暖房乾燥機、床暖房、追い焚き機能など
- 浴槽の交換に掛かる金額
- 本体価格…100,000円〜150,000円程
- 交換費用…300,000円〜350,000円程
- 壁、床、天井の工事費用
- 公示価格…100,000円〜300,000円程
浴室の特徴としては、ユニットバス自体は意外にも数万円〜十数万円で済むのですが、工事を進めるために協力してもらう関係業者の数が多いことです。
インターネットでユニットバスを購入し、取り付けだけを業者に依頼するのが安く済みますが、ユニットバスの取り付け工事には各工程で必要となる技術があり、特殊な免許が必要な場合もあります。
また、リフォーム前の設備が3点式ユニットバスの場合は、当然ですが、浴室の他にもトイレと洗面台の設置場所および設置費用が必要になります。
入居者目線で考えると、3点式ユニットバスはやはり変更した方が良いのですが、リフォームする場合は他の設備同様、費用対効果と初期投下コストを回収できるまでの期間を算出し、効果的な戦略が必要です。
水まわり設備についてのまとめ
最後に水回り設備に関する情報をもう一度振り返ってみます。
- 水回り設備は清潔感が大切なのでしっかり手入れする
- 投下したリフォーム費用を回収できる期間を計算する
- 室内の設備は購入後にしか分からないため最悪のシナリオも想定する
- 契約の形式は一括発注と分離発注とがある
- 賃貸住宅の水回り設備はトイレ、キッチン、浴室、洗面台、洗濯機置場などがある
- 費用対効果が低い高級設備は無理に設定する必要は無い
注意するべき項目も多く、全てを網羅するのは大変かもしれませんが、逆に言えばこれらの項目だけでも抑えておければ、室内設備に関する大きな不安要素は解消できます。
購入後になってから「失敗した!」と嘆かないように、室内の設備については、最低限、この辺りは抑えておきましょう。
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