不動産投資の利益は「家賃収入-必要経費」で決まります。同じ家賃でも、経費を正しく漏れなく積めるかどうかで手残りと納税額は大きく変わります。一方で、経費にできないものを混ぜたり、私用と事業の線引きが甘いと、税務調査で否認されて加算税を招きます。
本記事は、関西の現役不動産投資家(2013年に賃貸経営を開始・2020年に法人化・楽待新聞コラムニスト)が、不動産所得で経費にできるもの・できないもの・按分が必要なものを勘定科目別に一覧化し、判断基準と否認されないための実務までまとめた「経費の総覧ガイド」です。減価償却・修繕費・家事按分など判断が分かれる論点は、各専門ガイドへ案内します。
- 不動産投資で「何が経費になるのか」を勘定科目別に一望したい大家
- ローンの元本・所得税・スーツなど「経費にできないもの」を確認したい方
- 自宅兼事務所・車・スマホの家事按分をどこまで計上してよいか迷っている方
- 税務調査で否認されない証憑・記帳の整え方を知りたい方
- 大原則:経費になるのは「家賃収入を得るために直接必要な支出」だけ。私的支出は不可。
- 落とせる:租税公課・減価償却費・修繕費・借入金利子・管理費・保険料・仲介手数料・交通費・税理士報酬など。
- 落とせない:ローンの元本返済・所得税や住民税・私的な飲食や旅行・スーツや時計・罰金や延滞税。
- 按分が必要:自宅兼事務所の家賃や光熱費・車・スマホは、事業使用割合で家事按分。
- 判断が分かれる3論点:減価償却・修繕費か資本的支出か・家事按分は、各専門ガイドで詳細を確認。
🧭 不動産所得の経費の大原則|「家賃収入を得るために直接必要」か
不動産所得の必要経費は、所得税法37条により「総収入金額を得るために直接要した費用」と「その年に生じた販売費・一般管理費その他業務上の費用」に限られます。判断軸はシンプルで、その支出が家賃収入を得るために必要だったと客観的に説明できるかです。私的な支出や、家賃収入と関係のない支出は経費になりません。プライベートと事業が混ざる支出は、事業使用割合で按分して経費にします。
✅ 経費にできるもの一覧|勘定科目別
不動産所得で計上できる主な経費を勘定科目別にまとめます。金額の大きい減価償却費・借入金利子・租税公課・管理費・修繕費が手残りを左右します。
| 勘定科目 | 具体例 | 注意点 |
|---|---|---|
| 租税公課 | 固定資産税・都市計画税・不動産取得税・登録免許税・印紙税・個人事業税 | 所得税・住民税は不可。取得税は当年の経費(取得税ガイド) |
| 減価償却費 | 建物・建物附属設備の償却費 | 土地は償却不可。中古は簡便法(減価償却ガイド) |
| 修繕費 | 原状回復・設備故障の交換・小規模な修繕 | 価値を高める工事は資本的支出(修繕費か資本的支出か) |
| 借入金利子 | 物件購入ローンの利息部分 | 元本の返済は経費不可。土地分の利子は損益通算に制限 |
| 損害保険料 | 火災保険・地震保険(その年分) | 数年一括払いは期間按分して当年分のみ |
| 管理費・管理委託料 | 管理会社への委託料・共用部の清掃点検費 | 区分の管理費・修繕積立金も計上可 |
| 広告宣伝費・仲介手数料 | 入居募集の広告料・客付け仲介手数料・AD | 入居者募集に係るもの |
| 旅費交通費 | 物件視察・管理会社や金融機関訪問の交通費 | 目的と行先の記録を残す |
| 通信費 | 賃貸業に係る電話・ネット・郵送費 | 私用兼用は按分 |
| 支払手数料・報酬 | 税理士・司法書士報酬、振込手数料、登記費用の一部 | 税理士報酬は個人で年10〜20万円が目安 |
| 消耗品費・新聞図書費 | 事務用品・少額備品、不動産投資の書籍・セミナー | 10万円以上は資産計上・減価償却 |
| 接待交際費 | 管理会社・仲介・金融機関との必要な範囲の飲食 | 事業関連性を説明できる範囲のみ |
| 給与(専従者給与) | 生計を一にする家族への給与 | 事業的規模+届出が前提(専従者給与ガイド) |
❌ 経費にできないもの・グレーゾーン
次のものは、事業に関係していても経費にできません。とくにローンの元本返済を経費にするのは典型的な誤りで、経費になるのは利子部分だけです。
| 経費にできないもの | 理由 |
|---|---|
| 借入金の元本返済 | 借りたお金を返しているだけで費用ではない(経費は利子のみ) |
| 所得税・住民税 | 個人の所得に課される税で、賃貸業の費用ではない |
| 私的な飲食・旅行・冠婚葬祭 | 家賃収入と関係のない個人消費 |
| スーツ・時計・メガネなど | プライベートでも使えるため私的支出と判断されやすい |
| 罰金・反則金・延滞税・加算税 | 制裁的な性質のため経費不算入 |
| 土地の取得価額 | 土地は減価しないため償却・経費にできない |
| 自分(事業主)の福利厚生費 | 従業員のいない個人事業主の自分向けは不可 |
一方、事業と私用が混ざる支出は「全額NG」ではなく事業使用割合で按分すれば経費にできるグレーゾーンです。代表例が次の3つです。
| グレーゾーン | 按分の考え方 |
|---|---|
| 自宅兼事務所の家賃・光熱費 | 床面積比や使用時間比で事業割合を算定(家事按分ガイド) |
| 車・ガソリン・自動車保険 | 物件管理での走行距離など、事業使用割合で按分 |
| スマホ・パソコン | 賃貸業に使う割合で按分(10万円以上は資産計上) |
🔀 判断が分かれる3大論点|減価償却・修繕費か資本的支出か・家事按分
経費のなかでも金額が大きく、判断を誤ると否認されやすいのが次の3論点です。いずれも本記事では要点だけを示し、計算や判定の詳細は各専門ガイドへ送ります。
- 減価償却費:建物・設備を法定耐用年数で経費化。中古は簡便法で短期償却できるが、出口のデッドクロスに注意 → 中古不動産の減価償却ガイド
- 修繕費か資本的支出か:原状回復は当年の経費、価値を高める工事は資産計上して減価償却。60万円・10%・7:3などの判定基準がある → 修繕費か資本的支出かの判定ガイド
- 家事按分:自宅兼事務所・車・通信費は客観的な基準で按分。根拠がないと否認される → 自宅兼事務所の家事按分ガイド
🧾 否認されない証憑・記帳のコツ
経費は「使った事実」だけでなく「事業に必要だった根拠」を残せるかが勝負です。税務調査で問われるのは、領収書・請求書と、事業関連性を説明できる記録の有無です。
- 領収書・請求書・契約書を勘定科目ごとに保存(電子帳簿保存法の要件にも対応)。
- 交通費・交際費は「誰と・何の目的で」をメモ。物件視察は日付と行先を記録。
- 家事按分は床面積図・使用時間・走行距離など按分根拠を文書化。「なんとなく50%」は否認の典型。
- 会計ソフト(freee/弥生/マネーフォワード)で日々記帳すれば、青色申告の複式簿記もそのまま整う。
経費の全体像は不動産投資の税金のなかの一部です。取得・保有・売却・相続を通じた税金の流れは不動産投資の確定申告と税金の全体像で、経費水増しが税務調査でどう見られるかは税務調査と加算税のガイドで確認してください。
❓ よくある質問
Q1. 不動産投資の経費はいくらまで(何割まで)落とせますか?
A. 「収入の何割まで」という上限はありません。家賃収入を得るために実際に必要だった支出を、実額で計上します。ただし収入に対して経費が不自然に大きい赤字が続くと、事業性を疑われて税務調査の対象になりやすくなります。
Q2. ローンの返済は経費になりますか?
A. 利子部分だけが経費です。元本の返済は経費になりません。さらに土地取得分の利子は、不動産所得が赤字のとき損益通算に制限がかかります。
Q3. スーツや腕時計、スマホは経費にできますか?
A. スーツや腕時計はプライベートでも使えるため、原則経費として認められません。スマホやパソコンは、賃貸業に使う割合で家事按分すれば按分後の金額を計上できます。
Q4. 自宅の家賃や光熱費を経費にできますか?
A. 自宅の一部を事務所として使っているなら、床面積比や使用時間比で家事按分した分を経費にできます。按分の根拠(図面・使用記録)を残すことが前提です。詳細は自宅兼事務所の家事按分ガイドへ。
Q5. 税理士報酬や不動産投資の書籍・セミナー代は経費になりますか?
A. 賃貸業の申告に係る税理士報酬、賃貸経営に必要な書籍・セミナー代は経費になります。ただし資格取得のための費用など、事業と直接関係の薄いものは対象外です。
まとめ|経費は「家賃収入を得るために必要」かで判断し、根拠を残す
不動産所得の経費は、租税公課・減価償却費・修繕費・借入金利子・管理費・保険料・仲介手数料・交通費・税理士報酬など多岐にわたります。金額の大きい減価償却費と借入金利子が手残りを左右する一方、ローンの元本返済・所得税や住民税・私的な支出は経費にできません。
自宅兼事務所・車・通信費のように事業と私用が混ざる支出は、事業使用割合で按分すれば経費にできます。大切なのは「使った事実」と「事業に必要だった根拠」を証憑と記録で残すこと。判断が分かれる減価償却・修繕費か資本的支出か・家事按分は、各専門ガイドで基準を確認しながら、否認されない経費計上を積み上げてください。
📖 この記事の根拠(出典・参考)
- 必要経費の範囲:所得税法第37条(必要経費)/国税庁「No.1370 不動産収入を受け取ったとき(不動産所得)」。
- 借入金利子・損益通算:租税特別措置法41条の4(不動産所得に係る損益通算の特例)。
- 減価償却:国税庁「主な減価償却資産の耐用年数表」/耐用年数省令第3条(中古資産簡便法)。
- 修繕費と資本的支出:国税庁「No.1379 修繕費とならないものの判定」。
- 家事按分:所得税法第45条・所得税法施行令第96条。
- 体験ベース:執筆者(楽待新聞コラムニスト)の関西エリアでの15年以上の不動産投資・法人運営・税務実務。
🔗 あわせて読みたい関連記事
- 不動産投資の確定申告と税金の全体像|収支内訳書の書き方・青色申告・取得保有売却相続の税金
- 中古不動産の減価償却ガイド|簡便法で築22年木造を4年償却・デッドクロス対策
- 修繕費か資本的支出か?判定フローチャートと60万円・10%・7:3基準
- 大家・個人事業主の自宅兼事務所の経費|家事按分・税務調査否認事例の実務
- 5棟10室で青色事業専従者給与はいくら?|国税庁No.1373基準・相場172万円
- 不動産投資の赤字・経費の水増し・家賃収入の無申告はバレる?|税務署の支払調書・KSK

関西の不動産投資家・15年以上の実務経験。2013年に賃貸経営を開始し2020年に法人化。複数物件を保有し、税務・融資・賃貸経営・法人運営の現場で得た一次情報をもとに、机上の理論ではなく「実際に使える」実務ガイドを発信しています。


コメント