いつの時代でも「一括借り上げによる家賃保証制度」はトラブルが耐えません。
不動産業者が全てのリスクを追ってくれるのであれば、それは「夢のような制度」です。
「保証」と言う言葉はとても心強いですね。
…ですが、当然ながら、実際にはそんなことはありません。
今までも、この「夢のような制度」に騙されてきた人達が沢山います。
一昔前であれば同情されることもありましたが、最近だと笑い話にもなりません。
今回は一括借り上げ制度の注意点や騙されないために最低限理解しておくべき知識をご説明します。
- 一括借り上げ制度に魅力を感じる人
- これから一括借り上げ制度を利用して賃貸経営をしたい人
一括借り上げは信用できない?
一括借り上げ制度とは「入居者の有無に関わらず管理会社から決められた家賃収入が支払われる仕組み」のことです。
会社ごとに言い方が違い場合もありますが、基本的には以下の言葉は同じような意味合いで使われます。
- 一括借り上げ制度(一括借り上げシステム)
- 家賃保証制度
- サブリース契約
一見、この制度があれば「賃貸経営は失敗するはずがない」とすら思ってしまいます。
ですが、実際にはそう簡単に賃貸経営を成功させることはできません。
最近では、2018年に「かぼちゃの馬車」を運営するスマートデイズによる賃料未払いの問題が大きな話題になりました。
一括借り上げは安心できる?
まず、賃貸経営の基本なのですが、空室や滞納が発生すると、当然、その分の家賃収入も支払われません。
集金代行のような管理委託契約や自主管理による経営の場合、常にこれらのリスクは付きまといます。
一方、一括借り上げ制度の契約内容では、管理会社がそれら全てのリスクを肩代わりしてくれます。
当然、全てのリスクを抱える訳なので管理委託契約に比べ手数料は割高になります。ただし、それでも家賃設定、入居者募集(入居者審査)、契約関係の全ての手続きを管理会社が肩代わりしてくれます。
必ず誰かがリスクを負う
仮にこの家賃保証の意味が「万が一、空室状態が続いた場合、当社は毎年経営赤字を垂れ流し続けてでも、あなたのために定められた金額分のお家賃を保証致します」なのであれば、僕も是非お願いしたいです。ですが、そんなことはありません。
管理会社も事業として行っているため延々と赤字を垂れ流しながら家賃収入を確保してくれる訳ではありませんし、管理会社が肩代わりしてたはずのリスクが自分に降りかかってくることは意識する必要はあります。
一括借り上げのデメリット
ただ、一方で、一括借上げにはいくつかの問題点があります。
- 保証期間内でも家賃の「金額」は保証されない
- 基本的には数年後の賃料は減少傾向になる
- 一般的な管理委託契約と比べると手数料が割高になる
- 家賃の20%〜30%程になる
- 管理会社側にもリスクがあるため物件の販売価格が割高になる
- 約束通りに家賃が支払われないことがある
- 最終的には契約が途中で打ち切られる
- 最終的には管理会社が倒産する
これらの問題点についてもう少し具体的にご説明します。
家賃の「金額」は保証されない
最近は20年~30年間の長期家賃保証の会社が多いですね。
ですが、ここで注意が必要なのは、管理会社が保証するのは「家賃を払い続けること」を保証しているだけなのです。
20年~30年間賃料が下がらない契約ではありません。また、下落率なども分かりません。
極論、毎月の家賃が10,000円を下回ったとしても、それは契約違反ではありません。
何故なら、管理会社側の義務は「家賃を払い続けること」だけなので、その家賃が10,000円だろうが、1円だろうが「家賃を払い続けること」には代わりは無いのです。
家賃は必ず安くなる
一般的には、2年ごとに賃料を見直す契約が多いようです。
そして、空室が続けば当然家賃は下がります。
大家からすれば家賃を下げるのはそれなりに苦渋の決断だと思いますが、サブリース会社からすれば家賃が下がっても損はしません。
しつこいですが「家賃を払い続けること」ができれば約束は果たされる訳です。
賃料が下がれば、家主へ支払う賃料を見直せば良いのです。
基本的に借上げ保証は定期的(数年ごと)に見直されます。
つまり、入居者を維持するために、家賃の値下げ要求を飲まなざる得ない可能性が高いと考えるべきです。
新築に一括借り上げ制度は必要無い
「新築から10年間は一律の賃料を保証します」という契約もあります。
家賃の「金額」が保証されるのであれば、少し安心できそうですね。
ですが、この契約内容も、特に魅力的ではありません。
そもそも、物件を建築して10年程しか経過していないにも関わらず、家賃保証制度に頼らざるを得ない物件に未来はありません。
それに、新築時は簡単に入居者を獲得することができますし、賃料も周辺の中古物件と比べても高く設定できます。
基本的には「新築物件〜築浅物件は(一時的な入居者の入れ替わりを除き)、比較的、入居者の獲得は容易であり、また、高い家賃水準を維持しやすい」と考えるのが自然です。
苦労しなくても入居者の募集が集まる訳です。
にも関わらず、一括借り上げ制度なんて利用すると、割高な保証料(20%〜30%程)の分だけ、家主側の収入は減ってしまいます。
はっきり言って、新築から10年間だけの一括借上げ契約なんて「晴れの日の傘」です。
雨が降っていない時だけ、一方的に傘を貸し出してきて、雨が降ったとたん、その傘は取り上げられてしまうのです。
家主の立場は業者より弱い
新築の場合、入居可能日から一定期間(1ヵ月~2ヵ月程)や退去時に「免責期間」を設けて、大家へ家賃を支払わない(収入が入らない)時期もあります。
また、一括借上げなので礼金や更新料も管理会社が受け取る訳ですが、原状回復費や修繕工事費については大家負担となります。
契約内容によっては一括借上げ会社を経由してその関連会社に発注しなければいけない場合もあります。
管理会社に不満がある場合も解約するために違約金が必要だったり、借り手(今回の場合は管理会社が借り手)に有利な借地借家法が適応されたりして簡単に解約できません。
しっかり確認したとしても「一定条件」や「定期的な見直し」など、将来を見据える上で不透明要素は多過ぎます。
管理会社では無く「物件」を信用する
家賃滞納するのは入居者だけだと思うかもしれませんが、管理会社だって家賃滞納する可能性はゼロではありません。
未回収の家賃も発生するかもしれません。
また、管理会社が倒産や逃亡した場合は、その時点で家賃保証も終了になります。
勿論、(極めて低い水準で)安定した家賃収入が維持できることは認めますが、それを上回る程のリスクが潜んでいます。
販売会社は売ったらそれでおしまいです。
管理会社はどこまで約束を守ってくれるのか分かりません。
そう考えると、販売会社や管理会社を信用するのでは無く「投資物件そのもの」を信用するしか無いのです。
仮に、管理会社に裏切られた(?)としても「この物件だったら大丈夫」と思えるモノに投資すれば、後から「話が違う!」と騒ぎ立てることも無くなるはずです。
利回りも空室率も全て想定値
想定利回りと言う数字も会社側が独自(一方的)に算出できます。
言い方を変えれば想定利回りは前提を変える(時には強引に)ことで、いくらでも都合の良いように操作できるのです。
例え35年間の借上げ保証と言っても、その会社の経営状況次第では当初の想定と異なることはあるはずです。
その地域全体が衰退してしまい空室が続けば、その「前提」はすぐに崩れます。
長期一括保証を行った会社の20年後~35後の保証実績を確認出来れば一番良いのかもしれませんが、このシステム(一括借上げ保証)自体、それほど古いシステムではないため、現時点ではほとんど長期の保証実績を確認することは出来ません。
そもそもデータが存在しないのです。
ただ長期一括保証を公言する会社側も、(無責任ではあるものの)悪意があってこの制度を導入している訳では無いはずです。
「この立地と品質であればある程度勝算はある」という判断の上で建築を進めるはずです。
少なくとも「ここは数年後、衰退するだろうけど、保証料金を値下げすれば儲けられる」と考えている訳ではないはずですよね。
…と言うかそう思いたい。
ただ、それでも想定通りにことが進まないのが投資の世界です。
そうなった時に「販売会社が嘘をついた!」と騒ぐのは投資家としては不適合者です。
空室保証があろうがなかろうが、空室が続けば誰にとっても(管理会社・物件所有者共に)リスクはのしかかり、そのリスクにより一番影響を受けるのは言うまでもなく物件所有者です。
他人の言うことを鵜呑みにせずに、常に警戒感を持ち続けなければいけません。
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