不動産投資の節税は「嘘」と言われることが多い一方で、払った分がそのまま所得から差し引かれる制度もあります。その代表が、中小機構(独立行政法人中小企業基盤整備機構)の小規模企業共済と経営セーフティ共済です。ただし大家が使えるかどうかは、不動産所得だけの個人か、会社員か、資産管理法人の役員かで分かれます。
この記事では、中小機構のFAQと条文を確かめながら、大家が2つの共済にどこまで入れて、どこまで節税になるのかを整理します。
- 不動産所得だけの個人の大家 → 事業的規模(貸家5棟以上・アパートなど10室以上・駐車場など50件以上)か、青色申告特別控除55万円・65万円を受けていれば入れる
- 会社員の大家 → 入れない。中小機構は「アパート経営などを兼業しているサラリーマン」を、入れない例として挙げている
- 資産管理法人の役員・大家の配偶者 → 役員として登記され事業に従事していれば入れる。個人の大家の配偶者は「共同経営者」として入れる場合がある
- 経営セーフティ共済 → 個人の大家も加入はできるが、不動産所得では掛金を経費にできない。経費(損金)にできるのは法人か、事業所得のある個人
- 不動産所得だけの個人の大家で、小規模企業共済に入れるか知りたい方
- 会社員をしながらアパート経営をしていて、共済で節税できるか気になっている方
- 資産管理法人の役員や大家の配偶者として、共済に入ることを考えている方
- 経営セーフティ共済の掛金を、不動産所得の経費にできるか確かめたい方
- 個人から資産管理法人へ移るときに、共済の契約をどう引き継ぐか知りたい方
- 不動産所得だけの個人の大家は、事業的規模(貸家5棟以上・アパートなど10室以上・駐車場など50件以上)か、青色申告特別控除55万円・65万円を受けていれば、小規模企業共済に入れます。
- 会社員の大家は、事業的規模の収入があっても、資産管理法人の役員を兼ねても入れません。配偶者が役員や共同経営者として条件を満たせば、配偶者が入れる場合があります。
- 掛金は全額が所得控除になり、中小機構の試算では、課税所得1,000万円の人が月7万円を掛けると年367,000円の節税になります。現金での納付は2026年12月末で終える予定です。
- 65歳未満で自分から解約すると一時所得として課税され、240か月(20年)未満の解約は元本割れになります。
- 経営セーフティ共済は個人の大家も加入できますが、不動産所得では掛金を経費にできず、損金にできるのは資産管理法人で入った場合です。
- 不動産所得だけの大家は、小規模企業共済に入れないと思っています。
- 会社員でも、アパートを10室以上持っていれば小規模企業共済に入れると思っています。
- 経営セーフティ共済の掛金は、個人の不動産所得でも経費にできると思っています。
- 個人の大家・会社員・資産管理法人の役員のどの立場で、どちらの共済に入れるかを判断できます。
- 所得控除による節税額と、65歳未満で解約したときの課税と元本割れを比べて、掛金を決められます。
- 個人から資産管理法人へ移るときに、2つの共済の契約を引き継ぐ手続きを確かめられます。
🏠 小規模企業共済:不動産所得だけの大家が入れる条件
小規模企業共済は、個人事業主や小さな会社の役員のための退職金の積立て制度です。個人事業主として入るには、原則として事業所得で確定申告をしていることが必要ですが、不動産賃貸業については例外があります(中小機構FAQ「個人事業主として不動産賃貸業をしています。加入できますか。」)。
| 条件(どちらか一方) | 中身 |
|---|---|
| ① 事業的規模の賃貸をしている | 貸家は5棟以上、アパート・マンションなどの部屋単位は10室以上、駐車場やその他の土地は50先(契約件数)以上 |
| ② 青色申告特別控除を受けている | 青色申告者で、55万円または65万円の青色申告特別控除を受けている |
- ①は、申込みの時点で賃貸用の物件として持っていれば足ります。実際に貸しているか、借主を募集している状態であればよく、満室である必要はありません(同FAQ)。
- 事業的規模であることは、不動産所得用の青色申告決算書か収支内訳書で示します(中小機構FAQ)。
- 2027年分(令和9年分)からは青色申告特別控除の区分が65万円・75万円・10万円に変わり、55万円の区分がなくなります(租税特別措置法25条の2、2027年1月1日施行の条文)。中小機構の条件②の書き方が改正後どうなるかは、2026年10月時点では案内を確認できていないため、申込み前に中小機構に確かめてください。
会社員の大家は入れない
会社などに常時雇用されている人は、アパート経営などで事業的規模の収入があっても入れません。中小機構は、加入資格がない例の1番目に「アパート経営などを兼業しているサラリーマン」を挙げています(中小機構「加入資格」)。
資格がないまま加入していたことが分かると、契約はさかのぼって取り消され、払った掛金は利息を付けずに返されます。すでに受けた所得控除は、修正申告が必要になります。中小機構は加入者全員を対象に、加入時点で資格があったかの確認を行い、2024年12月31日に終えています(中小機構「加入資格の再確認」)。一方で、加入した後に会社員になった場合は、契約を続けられます。


👥 資産管理法人の役員・大家の配偶者として入る場合
| 立場 | 入れる条件(中小機構のFAQ) |
|---|---|
| 資産管理法人の役員 | 役員として登記され、事業に従事していること。資本金の条件はなく、家族の扶養に入っていても入れる。合同会社は「業務執行社員」として登記された人だけ。社員を兼ねる役員(使用人兼務役員)は入れない |
| 会社員が資産管理法人の役員を兼ねる | 入れない(常時雇用されているため) |
| 個人の大家の配偶者など(共同経営者) | 個人事業主1人につき2人まで。重要な意思決定に関わるか事業資金を負担し、業務の報酬を受けていること。青色事業専従者でも、この条件を満たせば入れる。大家本人が不動産所得だけでも、事業的規模なら対象になる |
小規模企業共済は1人1契約です。複数の会社の役員を兼ねていても、入れるのは1つの立場だけで、共済金を受け取れる事由もその立場のものに限られます(中小機構FAQ)。個人と法人の両方で賃貸をしている人は、どの立場で入るかを先に決めておきます。
💴 掛金と節税額:全額が所得控除になる
- 掛金は月1,000円から70,000円まで、500円単位で選べます(中小機構「掛金」)。
- 払った掛金は全額が「小規模企業共済等掛金控除」として所得から差し引かれます(所得税法75条)。事業の経費ではなく、本人の所得控除です。
- 中小機構の試算では、課税所得1,000万円の人が月7万円(年84万円)を掛けると、所得税と住民税の合計で年367,000円の節税になります(中小機構「掛金」の節税額の表)。
- 控除できるのは、実際に払った(引き落とされた)年の分です。口座振替は申込み月の翌々月から始まります(中小機構FAQ)。
中小機構は2026年9月10日、約款を改正して、現金による掛金の納付を2026年12月末で終える予定だと告知しました。2027年1月以降は、新規加入時も原則として預金口座振替になります(中小機構「小規模企業共済契約約款の一部改正のお知らせ」)。年末近くに加入して、その年の分を窓口でまとめて払うやり方は、2026年12月の窓口最終営業日までです。2027年以降は、加入した年に控除できるのは振替が始まった月からの分になります。
📤 受け取るときの税金と、元本割れの条件
| 受け取り方 | 税金の扱い |
|---|---|
| 廃業・65歳以上などで一括で受け取る | 退職所得(退職所得控除が使える) |
| 分割で受け取る(60歳以上・300万円以上などの条件あり) | 公的年金等の雑所得 |
| 死亡 | 遺族が受け取る共済金は相続税の「みなし相続財産」 |
| 65歳未満で自分から解約する | 一時所得。払った掛金はすでに所得控除を受けているので、受取額から差し引けない |
- 自分から解約したときの解約手当金は掛金の80〜120%で、240か月(20年)未満だと元本割れになります。12か月未満は受け取れません(中小機構「共済金・解約手当金」)。
- 一時所得は「(受取額-50万円)×1/2」が他の所得と合算されます。掛けた期間中は所得控除で税金が減っても、途中で解約すると受取額に税金がかかり、しかも元本を割っていれば手元に戻る額も減ります。
- 一括で受け取る退職所得は、ほかの退職金の受け取りと時期が近いと退職所得控除が調整されます。資産管理法人から役員退職金を受け取る予定がある人は、受け取る年の順番を先に考えておきます(所得税法施行令70条)。
掛金を担保に借りられる貸付制度については、小規模企業共済の貸付制度とデメリット|一般貸付1.5%・特別貸付6種0.9%・即日借入・限度額の確認方法【2026年】にまとめています。
🛡 経営セーフティ共済:個人の大家は経費にできない
経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済)は、取引先が倒産したときに共済金を借りられる制度です。掛金を経費にできるため節税に使われますが、大家には2つの壁があります。
- 個人の不動産所得では経費にならない:掛金を必要経費にできるのは「事業所得の金額の計算上」と条文に書かれています(租税特別措置法28条1項)。中小機構も、個人事業主の事業所得以外の収入(不動産所得など)は掛金の必要経費算入が認められないと明記しています(中小機構FAQ「不動産賃貸業の個人事業主は加入できますか。」)。加入自体はできます。
- 本来の貸付けの対象にならない場合がある:一般消費者を取引先とする不動産賃貸業者は、取引先への売掛金が生じないため、共済金の貸付けの対象にならない場合があると中小機構は注意しています(同FAQ)。
資産管理法人で入る場合は、掛金を損金にできます(租税特別措置法66条の11)。加入するには、1年以上事業を続けている中小企業者であることが必要です(中小機構「加入資格」)。
| 項目 | 中身 |
|---|---|
| 掛金 | 月5,000円〜20万円、積立ては800万円まで |
| 自分から解約したとき | 12か月で掛金の80%、40か月以上で100%が戻る |
| 2024年10月の改正 | 2024年10月1日以後に解約した人が再び加入した場合、解約の日から2年を経過する日までに払った掛金は、経費・損金にならない(租税特別措置法28条2項・66条の11第2項)。2年を過ぎてから払う分は通常どおり |
| 一時貸付金 | 解約手当金の95%まで、期間1年で借りられる(年0.9%・2024年4月1日時点) |
法人で「解約した年に大規模修繕をして、戻ってきた解約手当金(益金)と相殺する」という使い方がよく紹介されます。ただし修繕のうち建物の価値を高める部分は資本的支出で、その年の損金になりません(国税庁 No.5402)。相殺できるのは修繕費として認められる部分だけです。
🔄 個人から資産管理法人に移るとき(法人成り)
- 小規模企業共済:個人の事業を全部法人に移し、その法人の役員になれば、納めた月数を引き継いで続けられます(事由が起きてから1年以内の手続き。中小機構FAQ)。
- 経営セーフティ共済:事業を全部移すなら契約を法人に引き継げます。引き継がなければ、その時点で解約扱いになります。一部だけ法人に移す場合は、個人の契約がそのまま続きます(中小機構FAQ)。
- 個人の事業を全部法人に移して役員になり、個人の期間と通算して1年以上事業を続けていれば、設立1期目の法人でも経営セーフティ共済に入れます(中小機構FAQ)。
個人と法人のどちらで持つかの判断は不動産投資の法人化はいくらから?デメリットと設立・相続・出口・保険・リスクの全体像、青色申告の65万円控除の条件は不動産投資の青色申告のやり方|承認申請書の書き方・記入例と65万円控除・5棟10室判定・専従者給与【2027年改正】で扱っています。
❓ よくある質問
Q1. 会社員ですが、アパートを10室以上持っています。小規模企業共済に入れますか?
A. 入れません。常時雇用されている人は、事業的規模の不動産所得があっても対象外です。配偶者が資産管理法人の役員や個人事業の共同経営者として条件を満たせば、配偶者が入れる場合があります(中小機構「加入資格」・FAQ)。
Q2. 物件は5棟ありますが、1棟は空室で募集中です。事業的規模になりますか?
A. 申込みの時点で賃貸用の物件として持っていれば足り、実際に貸しているか、借主を募集している状態ならよいとされています(中小機構FAQ)。
Q3. 経営セーフティ共済は、不動産所得だけの個人では意味がありませんか?
A. 加入はできますが、掛金を必要経費にできません(租税特別措置法28条1項)。節税を目的にするなら、法人で入るか、事業所得のある人が入る制度です。
Q4. 小規模企業共済は途中でやめても損しませんか?
A. 20年未満の任意解約は元本割れで、65歳未満の任意解約は一時所得として課税されます。払えなくなったときは、掛金の減額などの手続きを先に検討します(中小機構「共済金・解約手当金」)。
📝 まとめ
小規模企業共済は、不動産所得だけの大家でも事業的規模なら入れて、掛金が全額所得控除になります。会社員の大家は入れません。経営セーフティ共済は個人の大家も加入できますが、不動産所得では経費にならず、節税に使えるのは法人で入った場合です。2027年からは小規模企業共済の現金払いがなくなり、青色申告特別控除の区分も変わるので、加入の時期と条件は申込み前に中小機構で確かめてください。
📖 この記事の根拠(出典・参照日2026年10月1日)
- 中小機構(小規模企業共済):FAQ「個人事業主として不動産賃貸業をしています。加入できますか。」/加入資格/加入資格の再確認/掛金/共済金・解約手当金/小規模企業共済契約約款の一部改正のお知らせ(2026年9月10日)/FAQ(役員・共同経営者・1人1契約・法人成り)
- 中小機構(経営セーフティ共済):FAQ「不動産賃貸業の個人事業主は加入できますか。」ほか/加入資格/一時貸付金/2024年10月の税制改正のお知らせ
- 条文(e-Gov法令検索):所得税法75条/所得税法施行令70条/租税特別措置法25条の2(2027年1月1日施行)・28条・66条の11
- 国税庁:No.5402 修繕費とならないものの判定
🔗 あわせて読みたい関連記事
- 小規模企業共済の貸付制度とデメリット|一般貸付1.5%・特別貸付6種0.9%・即日借入・限度額の確認方法【2026年】
- 不動産投資の節税は嘘?|サラリーマンの課税所得別の損得と、安く売っても税金がかかる理由
- 不動産投資の青色申告のやり方|承認申請書の書き方・記入例と65万円控除・5棟10室判定・専従者給与【2027年改正】
- 不動産投資の法人化はいくらから?デメリットと設立・相続・出口・保険・リスクの全体像
関西の不動産投資家。賃貸経営の体験と、法令・公的機関の資料をもとに、税務・融資・賃貸経営・法人運営の実務ガイドを発信しています。


コメント