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不動産投資の節税は嘘?|サラリーマンの課税所得別の損得と、安く売っても税金がかかる理由

不動産投資の節税は嘘?|サラリーマンの課税所得別の損得と、安く売っても税金がかかる理由 税務・節税・確定申告
この記事は約22分で読めます。

「不動産投資をすれば節税になる」は、半分は本当で、半分は説明が足りていない話です。不動産所得の赤字を給与所得と相殺して税金を減らす仕組み(損益通算)は、所得税法第69条に基づく正規の制度です。一方で、赤字の大半をつくる減価償却費は、物件を売るときに建物の取得費から差し引かれ、譲渡所得税として取り戻されます。売却まで含めて考えると、節税の得として残るのは主に、保有中に戻った税金の率と売却時に払う税金の率の差です。

以下、国税庁のタックスアンサーの番号つきで仕組みを確かめたうえで、年収500万円・1,000万円・1,500万円の会社員が同じ中古木造アパートを買った計算例で、保有中に減る税金と売却時の税金を差し引きます。繰り延べた税金を再投資に回す考え方や、赤字が融資審査に与える影響は不動産投資が節税にならない理由と罠で、取得から相続までの税金の全体像は不動産投資の確定申告と税金の全体像で扱っています。

この記事は以下のような方におすすめです!
  • 「不動産投資で節税できる」と勧められ、本当か嘘かを数字で確かめたい会社員(サラリーマン)の方
  • 自分の課税所得だと、還付と売却時の税金を差し引いて得になるのか知りたい方
  • 買った値段より安く売っても税金がかかる理由と、その計算方法を知りたい方
  • 長期譲渡と短期譲渡がいつ切り替わるのか、5年の正確な数え方を押さえたい方
  • 給与と相殺できない赤字(土地の借入金利子・国外中古建物)を確認しておきたい方
🎯 30秒でわかる本記事の要点
  • 不動産の赤字で給与の税金が減るのは本当(国税庁 No.2250)。ただし減価償却で減った税金は、売れば取得費が減った分の譲渡所得税として取り戻される(No.3261)
  • 得として残るのは「保有中の税率−売却時の税率」の差。課税所得330万円以下は長期(所有期間5年超)で売っても差はほぼゼロ以下、短期(39.63%)で売ると課税所得900万円以下は損
  • 計算例:3,000万円で買って2,600万円で売っても譲渡所得は約1,308万円。税金は長期で約266万円、短期で約518万円
  • 年収500万円の人は保有4年で税金が約328万円減っても(うち給与の税金の減少は約138万円)、2031年までに売れば差し引き約190万円のマイナス
  • 5年は売った年の1月1日で判定。2026年に買った物件は2032年以降の売却で長期になる
  • 土地を買うための借入金の利子に当たる赤字と、国外中古建物の簡便法による償却費の赤字は、給与と相殺できない
📕 Before(読む前)
  • 還付金の額だけを見て「節税になる」と判断している
  • 買値より安く売れば税金はかからないと思っている
  • 購入から丸5年たてば長期譲渡の税率になると思っている
  • 不動産の赤字は全額、給与と相殺できると思っている
📘 After(読んだ後)
  • 保有中に減る税金から売却時の税金を引いて損得を出せる
  • 取得費が減価償却費の分だけ減ることを計算に入れられる
  • 「売った年の1月1日」で5年を数え、売る年を決められる
  • 土地の借入金利子などを除いて、給与と通算できる赤字を出せる

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⚖️ 結論|節税が本当になるか嘘になるかは「課税所得」と「売る年」で決まる

減価償却費で赤字をつくると、その年は給与にかかる所得税・住民税が減ります。ところが、経費にした減価償却費の合計は、売るときに建物の取得費から差し引かれます(国税庁 No.3261)。取得費が減った分だけ譲渡所得が増え、そこに分離課税の税金がかかります。つまり、保有中に先送りした1万円の所得は、売却時に別の税率で課税し直されます。

保有中に戻る率は、所得税の税率に復興特別所得税(所得税額の2.1%)を上乗せし、住民税の所得割10%を足したものです。売却時の率は、所有期間が5年を超えれば20.315%、5年以下なら39.63%です(No.3208・No.3211)。この2つの率を課税所得の段ごとに並べると、先送り1万円あたりの損得は次のとおりです。

課税所得(所得税) 年収の目安※ 保有中に戻る率 所有期間5年超で売る(長期20.315%) 所有期間5年以下で売る(短期39.63%)
195万円以下(5%) 約530万円まで 15.1% ✕ 5.2ポイント損 ✕ 24.5ポイント損
195万円超〜330万円(10%) 約530万〜680万円 20.2% △ ほぼ同じ(0.1ポイント損) ✕ 19.4ポイント損
330万円超〜695万円(20%) 約680万〜1,120万円 30.4% ○ 10.1ポイント得 ✕ 9.2ポイント損
695万円超〜900万円(23%) 約1,120万〜1,360万円 33.5% ○ 13.2ポイント得 ✕ 6.1ポイント損
900万円超〜1,800万円(33%) 約1,360万円から 43.7% ◎ 23.4ポイント得 ○ 4.1ポイント得
1,800万円超(40%・45%) − 50.8%・55.9% ◎ 30.5ポイント以上得 ○ 11.2ポイント以上得

※所得税の段は国税庁 No.2260 の速算表。年収の目安は、独身・社会保険料を年収の15%・ほかの所得控除なし・令和8年分の給与所得控除と基礎控除(No.1410・No.1199)で逆算した概算です。社会保険料には上限があるため、高い年収ほど実際の課税所得は表より高くなります。税率は令和8年4月1日現在の国税庁タックスアンサーの記載によります。No.2260には、令和9年以後に生ずる所得について、復興特別所得税を1.1%に下げ、防衛特別所得税(1%)を併せて源泉徴収する旨の注記があります。所有期間は、売った年の1月1日時点で数えます(No.3202)。

課税所得900万円という線は、表で見ると短期で売って39.63%がかかっても、保有中に戻る率のほうが高い段の境目です。長期で売る前提なら、課税所得330万円を超えた段から得が出ます。逆に、課税所得330万円以下の人は、長期で売っても先送りした分では得をしません。

ただし、この表は赤字の1万円ずつに同じ率が効く前提の目安です。実際には次の3点で結果がずれるため、次の章の計算例で差し引きまで確かめます。

  • 赤字が大きいと、通算後の課税所得が下の段に落ち、戻る率は表より低くなる
  • 赤字が課税所得を超えると、超えた分は所得控除を使い切れなくなるだけで、税金は減らない
  • 売値が買値を下回った分(値下がり分)は、売却時に課税し直されない。ただしその分は実際にお金を失っている

売らずに持ち続ける場合や、先送りした税金を運用して増やす効果は、この記事の計算には含めていません。先送りした税金を再投資に回す考え方は不動産投資が節税にならない理由と罠で扱っています。

🧾 「節税になる」は本当か嘘か|よく聞く10の言い分を国税庁の規定で判定

節税の説明でよく出てくる言い分を、国税庁のタックスアンサーと質疑応答事例で1つずつ判定します。「嘘」と判定したものの多くは、売却時と損益通算の制限の話です。

よく聞く言い分 判定 国税庁の規定(番号)
①不動産の赤字で、給与から引かれた税金が戻る 本当 不動産所得の損失は、給与所得など他の所得と損益通算できる(No.2250・No.1391)。住民税は前年の所得で計算されるため、翌年度の税額が下がる(総務省「個人住民税」)
②減価償却費はお金が出ていかない経費だから得 半分本当 建物代は購入時に(借入金も使って)全額を支払っており、それを耐用年数で分けて経費にするのが減価償却(No.2100)。経費にした合計は、売るときに建物の取得費から差し引かれる(No.3261)
③土地も含めて物件価格を経費にできる 嘘 土地は時の経過で価値が減らない資産で、減価償却資産ではない(No.2100)
④購入時の諸費用は、初年度にまとめて経費になる 半分本当 登録免許税・不動産取得税は必要経費になる(No.2215)。仲介手数料は土地と建物の取得価額に入り、建物分だけが減価償却で少しずつ経費になる(質疑応答事例)
⑤買った値段より安く売れば、税金はかからない 嘘 建物の取得費は、購入代金などから所有期間中の減価償却費相当額を引いた額(No.3202・No.3261)。計算例では400万円安く売っても譲渡所得は約1,308万円
⑥減価償却を経費にしなければ、売るときの税金を減らせる 嘘 事業に使っていた建物は、必要経費にしていない部分があっても、毎年の減価償却費の合計を取得費から引く(No.3261の注1)
⑦買ってから5年たてば、長期譲渡の税率になる 半分本当 5年超かどうかは「売った年の1月1日」時点の所有期間で決まる(No.3202)。2026年に買った物件は、2031年中に売ると短期
⑧海外の築古物件なら、短い期間で大きく償却して給与の税金を減らせる 嘘(令和3年分以後) 国外中古建物の、簡便法などで計算した減価償却費に当たる赤字は、なかったものとみなされる(No.1391・No.2250)。赤字にならない範囲では、その物件の家賃収入から差し引ける
⑨引ききれない赤字は、翌年以降に繰り越せる 条件つき 損益通算しても引ききれない純損失を翌年以後3年間繰り越せるのは、原則として青色申告者(No.2070)
⑩節税は、持っている間ずっと続く 嘘 減価償却は耐用年数で終わる(No.2100)。計算例では5年目から不動産所得が年約194万円の黒字になり、毎年税金がかかる

④の諸費用の扱いや経費にできる範囲は不動産投資の経費一覧、⑨の青色申告の手続きは不動産投資の青色申告のやり方、⑩の償却が終わった後の資金繰りは不動産投資のデッドクロスとは?で詳しく扱っています。

読者
毎年数十万円の還付があるなら、それだけで得をしているのではないですか?
著者
還付には、売るときに払う税金の前受けが混ざっています。損得は次の3つを並べてから判断します。

  • 保有中に減る税金
  • 売却時に増える税金
  • その差し引き

次の計算例で、年収ごとに差し引いてみます。

🧮 計算例|年収500万・1,000万・1,500万円の会社員が同じ物件を買うと

🏠 前提:築25年の木造アパートを3,000万円で買う(計算例)

以下はすべて計算のための架空の例です。数字は計算しやすい値に置いています。

項目 計算例の前提
取得 2026年1月に3,000万円で購入し、同月から賃貸(土地1,200万円・建物1,800万円。1つの契約で同じ売主から購入。諸費用は省略)
減価償却 木造の住宅用は法定耐用年数22年(耐用年数表)。築25年で全部経過しているため、簡便法で22年×20%=4.4年→4年(No.5404。1年未満の端数は切り捨て)。定額法の償却率0.250で年450万円を2029年まで(最後の年は1円を残す=No.2106)
借入 2,700万円・金利2.0%・25年・元利均等返済(毎月約11.4万円、年約137.3万円)
収入と経費 家賃収入は年300万円(満室想定)、経費は年60万円(管理費・固定資産税・修繕費・保険料)
買う人 会社員・独身・社会保険料は年収の15%・ほかの所得控除なし。所得税の給与所得控除は令和8年分の式(No.1410)、基礎控除は2027年まで令和8・9年分、2028年からは令和10年分以後の額(No.1199)。住民税は所得割10%・基礎控除43万円(地方税法第314条の2)。調整控除と均等割は省略
売却 2,600万円(買値より400万円安い)。譲渡費用は仲介手数料などで約92.4万円

この物件の不動産所得は次のとおりです。減価償却費の計算の仕方(中古の簡便法・土地と建物の按分)は中古マンション・築古物件の減価償却の計算方法で詳しく説明しています。

年 支払利息 減価償却費 不動産所得 うち土地の借入金利子(通算できない) 給与と通算できる赤字
2026年 53.2万円 450万円 −263.2万円 17.7万円 −245.5万円
2027年 51.5万円 450万円 −261.5万円 17.2万円 −244.4万円
2028年 49.8万円 450万円 −259.8万円 16.6万円 −243.2万円
2029年 48.0万円 450万円 −258.0万円 16.0万円 −242.0万円
2030年 46.2万円 0円 +193.8万円 − (黒字)

※土地の借入金利子は、借入金をまず建物に充てたものとして計算(借入2,700万円のうち建物1,800万円を除いた900万円=3分の1が土地分)し、毎年同じ3分の1で按分しています。根拠と計算の仕方は後の章で説明します。

📉 保有中の4年間に減る税金

3人の税金を、減価償却費がなかった場合(家賃の利益にそのまま税金がかかる状態)と比べます。その差が、減価償却費1,800万円によって減った税金です。

項目 年収500万円 年収1,000万円 年収1,500万円
物件を買う前の課税所得(所得税・2026年) 177万円(5%の段) 593万円(20%の段) 1,018万円(33%の段)
2026年の通算後の課税所得(所得税) 0円 342.5万円 772.5万円
4年間で減った税金(所得税・住民税) 327.7万円 539.7万円 705.6万円
うち給与の税金が減った額 138.1万円 298.7万円 374.7万円
減価償却費1,800万円に対する平均の率 18.2% 30.0% 39.2%

「うち給与の税金が減った額」は、物件を買わなかった場合と比べた差で、確定申告で戻る所得税と、翌年度に下がる住民税の合計です。残りは、家賃の利益(年約190万円)にかかるはずだった税金が減価償却費で消えた分です。

年収500万円の人は、赤字が課税所得を上回り、所得税の課税所得が0円になります。上回った分は所得控除を使い切れずに余るだけで、税金を減らしません。一方で、家賃の利益にかかるはずだった税金(20%の段にかかる部分を含む)は消えるため、平均の率は18.2%になります。年収1,500万円の人も、赤字で課税所得が772.5万円まで下がり、赤字の一部は33%ではなく23%の段で効きます。年収1,500万円の人の平均の率(39.2%)が結論の表の43.7%より低いのは、このためと、土地の借入金利子(年約16万〜18万円)が給与と相殺できないためです。

🏷 売却時の税金(2,600万円で売る場合)

2029年までに建物は1円を残して償却済みです。取得費は、土地1,200万円と建物1円の合計で約1,200万円になります。

譲渡所得=売った金額−(取得費+譲渡費用)

2,600万円−(約1,200万円+約92.4万円)=約1,307.6万円

売る年 区分 所得税+復興特別所得税 住民税 合計
2032年以降 長期(15.315%+5%) 200.2万円 65.4万円 265.6万円
2031年まで 短期(30.63%+9%) 400.5万円 117.7万円 518.2万円

3,000万円で買い、2,600万円で売っても
譲渡所得は約1,308万円

— 計算例(建物の取得費は国税庁 No.3261 の計算方法による)

譲渡所得は給与と分けて課税される(分離課税)ため、上の税額は3人とも同じです。ただし譲渡所得は、基礎控除の額を決める合計所得金額に含まれます(租税特別措置法第31条第3項・第32条第4項、地方税法附則第34条・第35条)。年収1,500万円の人は売った年の合計所得金額が2,500万円を超え、所得税・住民税の基礎控除がなくなるため(No.1199、地方税法第314条の2第2項)、給与側の税金が約25.2万円増えます。年収500万円・1,000万円の人は、この計算例では増えません。仮に減価償却がまったくなければ、取得費は3,000万円のままで、この売却は約492.4万円の譲渡損失でした。土地・建物の譲渡損失は給与所得と相殺できないため(No.2250の注7)、その場合の税金は0円です。

⚖️ 差し引き:得をするのは誰か

項目 年収500万円 年収1,000万円 年収1,500万円
保有中の4年間に減った税金 327.7万円 539.7万円 705.6万円
売却時の税金(2032年以降=長期) 265.6万円 265.6万円 290.8万円
売却時の税金(2031年まで=短期) 518.2万円 518.2万円 543.3万円
差し引き(2032年以降に売る) +62.1万円 +274.1万円 +414.8万円
差し引き(2031年までに売る) −190.4万円 +21.6万円 +162.2万円

※年収1,500万円の人の売却時の税金には、売った年に基礎控除がなくなる分(約25.2万円)を含みます。金額は円単位で計算してから0.1万円単位に四捨五入しているため、表の数字どうしの差と0.1万円ずれる箇所があります。

この差し引きには、値下がりと売却費用で失った約492.4万円の一部を、保有中の税金の減少で埋めた分が含まれます(平均の率で割り振ると、89.7万円・147.6万円・193.0万円)。これは得ではなく、実際に失ったお金の一部が税金で戻っただけです。この分を除いた「先送りだけの損得」は次のとおりです。

先送りだけの損得 年収500万円 年収1,000万円 年収1,500万円
2032年以降に売る(長期) −27.5万円 +126.5万円 +221.7万円
2031年までに売る(短期) −280.1万円 −126.1万円 −30.8万円

年収1,500万円の人の短期を除けば、結果は結論の表と同じ向きになります。年収500万円の人にとって、不動産投資の節税はほぼ嘘です。長期で売っても先送り分は約28万円の損で、2031年までに売ると損は約280万円に広がります。年収1,000万円の人は、長期で売れば本当ですが、2031年までに売ると先送り分は約126万円の損です。年収1,500万円の人は長期なら約222万円の得ですが、短期では約31万円の損になり、表(33%の段は短期でも4.1ポイント得)と向きが逆になります。赤字で課税所得が23%の段まで下がること、土地の借入金利子が相殺できないこと、売った年に基礎控除がなくなることが重なるためです。

償却が終わった2030年からは、不動産所得が約193.8万円の黒字になり、3人の税金は年47.6万円・61.7万円・84.6万円増えます。一方、家賃から経費と返済を引いた手残りは税引前で約102.7万円です。元金の返済(2030年は約91.1万円)は経費にならないため、帳簿上の利益が手残りより大きくなります。税引後の手残りまで含めた設計は不動産投資のキャッシュフロー設計で扱っています。

🏷 買値より安く売っても税金がかかる理由と「5年」の数え方

🔢 建物の取得費は「購入代金−減価償却費の合計」

譲渡所得の計算で差し引く取得費は、購入代金・購入手数料・その後の改良費などの合計です。ただし建物は、そこから所有期間中の減価償却費相当額を差し引きます(No.3202・No.3252)。貸していた建物の場合、差し引くのは「取得してから売るまでの毎年の減価償却費の合計」です(No.3261)。

建物の取得費=購入代金など−減価償却費の合計

土地の取得費は減りません。建物割合が大きく、償却が進んだ物件ほど、売値が買値を下回っていても譲渡所得が出やすくなります。

業務に使う資産の登録免許税や不動産取得税は、保有中の必要経費になるため取得費には含めません(No.3252)。取得費が分からないときや、実際の取得費が売値の5%より少ないときは、売値の5%を取得費にできます(No.3202)。概算取得費や短期・長期の税額の計算は不動産売却の取得費と減価償却の計算で、手順を追って説明しています。

📅 5年は「売った年の1月1日」で数える

長期譲渡か短期譲渡かは、売った年の1月1日時点で所有期間が5年を超えているかで決まります(No.3202)。売った日時点ではありません。2026年1月に買った計算例の物件では次のようになります。

売る年 その年の1月1日時点の所有期間 区分 税率(所得税・復興特別所得税・住民税)
2030年 4年以下 短期 39.63%
2031年 5年以下 短期 39.63%
2032年 5年超 長期 20.315%

2031年の秋に売れば、買ってから5年以上たっていても短期です。買った年に6を足した年(2026年に買ったなら2032年)より前に売ると短期と覚えておくと、売る年を決めるときに間違えません。相続や贈与で取得した物件は、原則として亡くなった人や贈与した人が取得した日から数えます(No.3202)。

🚫 減価償却を経費にしなくても、取得費は減る

「売るときの税金が増えるなら、減価償却を経費にしなければよい」という考え方は通りません。事業に使っていた建物は、仮に毎年の減価償却費を必要経費にしていない部分があっても、毎年の減価償却費の合計を取得費から差し引くと定められています(No.3261の注1)。経費にしなかった分は保有中の税金が減らず、売却時の取得費だけは減るため、二重に不利になります。

🚧 赤字でも給与と相殺できない主な2つの損失

不動産所得の赤字のうち、給与所得など他の所得と相殺できないものは、別荘などの貸付けや組合事業の特定組合員の損失も含めて定められています(No.1391・No.2250)。会社員が物件を買うときに関係しやすいのは次の2つです。

🏦 土地を買うための借入金の利子

不動産所得の赤字のうち、土地を取得するために借りたお金の利子に当たる部分は、給与所得など他の所得と相殺できません(No.1391・No.2250、租税特別措置法第41条の4)。金額の計算は租税特別措置法施行令第26条の6で決まっています。

  • 土地の借入金利子が赤字より大きいとき:赤字の全額が相殺できない
  • 土地の借入金利子が赤字以下のとき:赤字のうち土地の借入金利子の額が相殺できない
  • 土地と建物を1つの契約で同じ売主から買い、借入金を土地と建物に分けられないとき:借入金はまず建物の代金に充て、残りを土地に充てたものとして計算できる

計算例に当てはめると、借入金2,700万円のうち1,800万円を建物に充て、残りの900万円(3分の1)が土地分です。2026年の利息53.2万円の3分の1にあたる17.7万円が土地の借入金利子で、赤字263.2万円のうち給与と相殺できるのは245.5万円です。土地の割合が大きく借入金が多い物件ほど、相殺できない部分が増えます。仮に赤字が10万円しかなければ、土地の借入金利子17.7万円のほうが大きいため、赤字は全額相殺できません。収支内訳書でどの欄に書くかは収支内訳書(不動産所得用)の書き方と記入例で確認できます。

🌏 国外中古建物の減価償却費(令和3年分以後)

令和3年分以後は、国外にある中古建物の不動産所得に赤字があるとき、そのうち耐用年数を簡便法などで計算した減価償却費に当たる部分は、なかったものとみなされます(No.1391・No.2250)。給与所得と相殺できないだけでなく、国内の物件の不動産所得とも相殺できません。簡便法による短い耐用年数で赤字をつくり、給与と相殺する方法は、令和3年分以後は使えません。なお、この特例で赤字がなかったものとされた部分は、売るときに取得費から差し引く減価償却費の合計からも除かれます(No.3261の注2)。

🧭 節税が「嘘」にならないか、買う前に確かめる6つの手順

  1. 1自分の課税所得を出す
    源泉徴収票から課税所得を出し、結論の表のどの段にいるかを確かめます。出し方は源泉徴収票の見方で説明しています。
  2. 2土地と建物の内訳、償却年数を確かめる
    物件価格のうち建物がいくらか、何年で償却するかで、毎年の赤字の大きさが決まります。
  3. 3給与と相殺できる赤字を出す
    年間の赤字から土地の借入金利子に当たる額を除きます。国外中古建物なら簡便法による償却費分も除きます。
  4. 4保有中に減る税金を、通算後の課税所得で計算する
    赤字で下の段に落ちる分や、課税所得を超えて使えない分を差し引いてから合計します。
  5. 5売る年と価格を置いて、売却時の税金を計算する
    取得費は「土地+建物−減価償却費の合計」。売る年が「買った年+6」より前なら短期の39.63%で計算し、4.の金額と差し引きます。
  6. 6償却が終わった後の税金と手残りを確かめる
    元金の返済は経費にならないため、償却が終わると税金が増えて手残りが減ります。売るまでの年数も含めて資金繰りが回るかを確認します。
🚨 節税を理由に勧められた収支表で、欠けていないか確認したい3点
  • 売却時の譲渡所得税(取得費を「買値−減価償却費の合計」で計算しているか)
  • 給与と相殺できる赤字から、土地の借入金利子に当たる額を除いているか
  • 売る年を「売った年の1月1日」で判定し、短期になる年を示しているか

→ この3点がない収支表では、還付の額だけが大きく見えます。

❓ よくある質問

Q1. 不動産投資の節税は、結局のところ嘘なのですか?

A. 税金が減る仕組みそのものは本当です。ただし減価償却で減った税金の多くは売却時に譲渡所得税として取り戻されるため、売却まで含めると、残る得は主に「保有中の税率−売却時の税率」の差です(売らずに持ち続ける場合や、先送りした税金を運用する効果は含めていません)。計算例では、長期で売った場合の先送り分の損得が、年収500万円の人で約28万円の損、年収1,000万円の人で約127万円の得、年収1,500万円の人で約222万円の得でした。

Q2. 年収いくらから節税の効果がありますか?

A. 年収ではなく課税所得で判断します。独身・社会保険料を年収の15%・令和8年分の控除で概算すると、課税所得330万円を超えるのは年収680万円前後、900万円を超えるのは年収1,360万円前後です。社会保険料には上限があり、高い年収ほど15%より低くなるため、実際にはもう少し低い年収で届きます。扶養親族や生命保険料控除などでも変わるので、源泉徴収票の数字で確かめてください。

Q3. 5年以内に売ると、節税した分はすべて消えますか?

A. すべてではありませんが、売った年の1月1日時点で所有期間が5年以下(短期)だと、課税所得900万円以下の人は先送り分で損になります。短期の39.63%は、所得税23%の段の人の戻る率(33.5%)よりも高いためです。計算例では、2031年までに売ると年収1,000万円の人でも先送り分は約126万円の損でした。

Q4. 赤字で課税所得が0円になったら、残りの赤字は翌年に繰り越せますか?

A. 翌年以後3年間繰り越せるのは、損益通算しても引ききれない純損失で、原則として青色申告者です(No.2070)。課税所得が0円になっても、赤字が所得控除を使えなくしているだけで純損失にはなっていないことが多く、その部分は繰り越せません。土地の借入金利子に当たる部分は、なかったものとされるため対象外です。

Q5. 相続税の節税になるという話も嘘ですか?

A. 相続税の評価額の話は、所得税・住民税の損益通算とは別の仕組みで、改正も続いています。この記事の計算とは分けて考えてください。貸している土地・建物の評価や改正の影響はタワマン節税は2024年改正で終わったのかと、税金の全体像の記事で扱っています。

✅ まとめ――不動産投資の節税は「減る税金」から「売却時の税金」を引いて判断する

不動産の赤字で給与の税金が減るのは、所得税法に基づく正規の制度です。ただし赤字の中心である減価償却費は、売るときに建物の取得費から差し引かれ、譲渡所得税として取り戻されます。保有中に減った税金をそのまま得と数えるのは、売却時の税金を数えていないことになります。

売却まで含めると、得として残るのは主に、保有中に戻る率と売却時の率の差です。課税所得330万円以下の人は長期で売っても先送り分では得をせず、課税所得900万円以下の人は短期で売ると損になります。計算例の年収500万円の人は、4年間で約328万円の税金が減っても(うち給与の税金の減少は約138万円)、2031年までに売れば差し引き約190万円のマイナスでした。

売る年は「売った年の1月1日」で判定され、買った年に6を足した年より前は短期です。赤字のうち土地の借入金利子に当たる部分と、国外中古建物の簡便法による償却費の部分は、給与と相殺できません。

節税を理由に物件を勧められたら、還付の額ではなく、売却時の税金まで含めた差し引きと、償却が終わった後の手残りで判断してください。

📖 この記事の根拠(出典・参考)

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執筆者 西本豪
執筆者:西本 豪(楽待新聞コラムニスト)

関西の不動産投資家。賃貸経営の体験と、法令・公的機関の資料をもとに、税務・融資・賃貸経営・法人運営の実務ガイドを発信しています。

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