日本は地震大国と言われています。
これまでも大規模な地震が発生するたびに耐震基準が見直されてきてきました。
1995年に発生した阪神淡路大震災では新建築基準で建てられた建物は被害が少なかったため「新耐震基準の建物は安全だ」と考えれていました。ですが、その後、2016年に発生した熊本地震では比較的築浅の建物に対しても大きな被害が確認されています。
また、今後、近い将来に発生すると言われている南海トラフ巨大地震には「現在の耐震基準では耐えられない」という意見もあり、現時点でもたくさんの課題が残っている状態です。
物件の所有に伴うリスク
物件を長期に渡り保有すると以下のような物理的なリスクが発生します。
- 経年劣化による老朽化のリスク
- 地震や大雨などによる液状化のリスク
- 地震やその他の災害による倒壊のリスク
経年劣化による老朽化のリスク
老朽化のリスクについては定期的に修繕工事をすることで、物件を正常な状態で維持することが可能です。一般的に大規模修繕工事は10年〜15年程の周期で実施されます。
大規模修繕工事や建物が劣化する仕組みについてはこちらの記事で詳しく説明しています。
地震や大雨などによる液状化のリスク
また、物件が建築されている地盤側に問題があれば液状化のリスクも懸念されます。
液状化とは地震などの強い揺れや大雨などにより、地盤内で砂と砂のすき間の水分を押し出され、バランスが崩れてしまう事により、建物などが埋もれたり傾いたりし、その反動で下水管やマンホールなどが逆に浮き上がってくる現象のことです。
液状化の仕組みや被害による影響などについてはこちらの記事で詳しく説明しています。
地震やその他の災害による倒壊のリスク
一方、地震やその他の災害による倒壊のリスクについては、老朽化や液状化のリスクに比べ、より大きな影響を与えてしまいます。建物が倒壊してしまうことは賃貸経営を進める上では大きな問題ですが、最悪の場合、一瞬のうちに自分や入居者の命の危険にさらすことになってしまうかもしれません。
そのため地震や災害による倒壊のリスクについては、より一層、適切な対応が必要になります。
旧耐震基準と新耐震基準
物件を購入する際、その物件が「旧耐震基準をもとに建てたれたのか?新耐震基準をもとに建てられたのか?」ととても大きなポイントになります。
これまでに耐震基準は何度も改定されていますが、1981年(昭和56年)に改正された新耐震基準かそれまでの旧耐震基準かによって、建物に対する安心感は大きく変わります。
なお新耐震基準の主な特徴には以下のような項目が含まれます。
- 1978年の宮城県沖地震を受けて改正
- 1981年6月1日以降の建築確認において適用
- 震度5強程度の地震ではほとんど損傷しないような耐震強度
- 震度6強~7程度の揺れでも倒壊しないような耐震強度
旧耐震基準は震度5強程度の揺れでも建物が倒壊しないように建築されていることに対して、新基準では、地震による建物の倒壊を防ぐだけではなく建物内の人間の安全を確保することに着目されています。
旧耐震基準と新耐震基準の違いについてはこちらの記事でもう少し詳しく説明しています。
地震に強い住宅を作るためにいろいろな対策が行われていますが、主に3種類の工法に分けられます。
どれが良い?構造形式の仕組みについて
1981年6月以降に建築確認されている新耐震基準の建築物は、主に以下の3種類の構造形式に区別されます。
- 耐震構造
- 制震構造(制振構造)
- 免震構造
それぞれの違いについてもう少し詳しく説明してみます。
耐震構造
耐震構造の主な特徴は以下の通りです。
- 主に以下の方法で建物自体の強度を高める
- 壁や柱を強化する
- 柱を筋交いに入れる
- 側面から合板を打ちつけたり固定金物などにより補強する
- 地震が発生した際に「建物が倒壊せず住人が避難できること」を前提としている
- 地震のエネルギーを吸収できないため揺れが大きくなる
- 地震を受けるたび建物の損傷が蓄積され資産価値が下がる
- 家具の転倒リスクが高くなる
- 建築基準法で定義される最低限確保すべき耐震性のレベルの構造
- 制震構造(制振構造)や免震構造と比べると安全性は劣る
- 日本国内の大半の住宅が採用している
耐震構造の特徴は「物件の強度を高めることで地震の揺れに耐える」ことで地震発生時の被害を軽減する仕組みです。
ただし地震を受けるたびに建物の損傷が蓄積されてしまうため、今後、より大規模な地震が発生した場合には制震構造(制振構造)や免震構造と比べ倒壊のリスクが大きくなります。
制震構造(制振構造)
「制震構造」と呼ばれることもあれば「制振構造」と呼ばれることもあります。主な特徴は以下の通りです。
- 建物内に振動軽減装置(錘やダンパーなど)を組み込む
- 地震の揺れを吸収する
- 振動軽減装置で建物を固定しないため揺れへの追従が可能な状態となる
- 地震の揺れだけでなく風による揺れにも耐久性が高い
- 既存物件のリフォーム時に制震補強することができる
- 上層階ほど揺れが増幅する高層ビルや高層住宅では高い効果を発揮する
- あべのハルカスなどでも採用されている
制震構造(制振構造)は「地震の揺れを吸収する」ことで地震発生時の被害を軽減する仕組みです。
高層ビルの他、タワーマンションなどで採用されています。
免震構造
免震構造の主な特徴は以下の通りです。
- 建物と基礎部分(地面)との間に積層ゴムや鋼板(ダンパー)などの免震装置(アイソレーター)を設置する
- 建物と基礎部分を絶縁することで振動を軽減できる
- 地震の揺れにより建物と基礎(地面)が切り離されるため、それに対応できる設備配管を備える必要がある
- 既存物件のリフォーム時に免震補強することは困難
- 仮に免震補強できたとしても制震補強と比べ大きな費用負担が発生する
- 最も優れた安全性を確保でき、揺れを大きく軽減するため家具の転倒リスクも低い
- 病院や博物館などでも採用されている
- 耐震構造や制震構造(制振構造)と比べると導入コストが掛かり定期的なメンテンナンスも必要なため修繕積立金も高額になる
免震構造は「地震の揺れを受け流す」ことで地震発生時の被害を軽減する仕組みです。
免震構造は安全性に優れている反面、導入コストや定期メンテナンスなど維持費も膨大になる傾向にあり、経済的な面では大きな負担になります。なお、修繕積立金の使われ方や大規模修繕工事の仕組みについてはこちらの記事で詳しく説明しています。
費用対効果か?安全性重視か?
「耐震構造」「制震構造(制振構造)」「免震構造」のそれぞれの特徴を踏まえると「耐震構造が最も安全性が低く、免震構造が最も安全性が高い」ことが分かると思います。
それでは「耐震構造の建物はすぐに制震構造(制振構造)か免震構造に見直す必要があるのか?」というと、勿論そんなことはありません。
耐震構造は制震構造(制振構造)や免震構造と比べると安全性は劣るものの、導入費用やメンテンナンスコストなどの経済的な面では優れていますし、日本国内のほとんどの建物が今も耐震基準の構造のままです。
費用対効果が高い構造が一番良いのか?安全性の確保が最も大事なのか?という疑問も出てくると思いますが、そもそも地震の発生リスクは地域ごとにも違いますし、今住んでいる物件の状況(築年数や劣化具合)などによって異なり、一概に判断することはできません。
もし近い将来、建物の建て替えや購入をすることがあれば、これらの構造形式の違いを理解しているだけで、判断するための一つの基準になると思います。
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