平成28年5月に宅地建物取引行法の一部を改正する法律案が成立しました。
その結果、宅地建物取引業者に対してインスペクション説明の義務化が課せられるようになりました。
※2018年4月1日から中古物件を購入する際にインスペクションの説明が義務化されました。
そもそもインスペクションって何?
インスペクションとは住宅診断士(インスペクター)による住宅診断のことです。
住宅診断士とは「構造耐力上主要な部分に係る調査部位」や「雨水の浸入を防止する部分に係る調査部位」を中心に住宅全体の劣化状況をチェックし、欠陥や問題点を指摘してくれたり、必要に応じてメンテナンスすべき部分などを報告書ベースでまとめてくれる専門家です。
この報告内容により次のような効果が期待できます。
- 売り手側への影響
- 自身の所有物件に重大な瑕疵などが無いことを証明することによって、購入者に対してアピールできる
- 買い手側への影響
- 購入対象としている物件に重大な瑕疵などが無いことが分かり、購入する際の安心できる判断基準の一つになる
なお、住宅診断士の役割についてはこちらの記事でもう少し詳しく説明しています。
宅建業者に対するインスペクションの説明義務化
宅地建物取引行法の一部を改正によって「インスペクションの説明が義務化」されることになる訳ですが、あくまで義務化されるのは「説明」であって「インスペクションを実施すること」が義務化される訳ではありません。
そのため売り主側としては「インスペクションを実施するのか?実施しないのか?」の判断を迫られることになります。
説明義務化に伴う取引きの流れ
まず不動産仲介会社は媒介契約締結時に現場調査のためのインスペクションのあっせんに関する情報を売り主に対して告知します。
次に買い主に対してインスペクションの結果の概要を重要事項の一部として説明します。
最後に売買契約締結時に売り主と買い主の双方に対して建物の現状確認の内容を書面で交付することで「お互いに共通認識を持った上での売買」であることを証明することになります。
なお、2018年4月1日から開始されたインスペクションの説明義務化に伴う取引フローについてはこちらの記事で詳しく説明しています。
説明義務化の背景は?
インスペクションの説明が義務化された背景としては日本人の中古物件に対する不安や流通量の低さなどがあります。
- 中古物件の年間流通量は毎年15万戸〜18万戸程で推移
- 全住宅の流通量に占める中古物件の流通量は毎年10%〜20%で推移
- 海外(アメリカやヨーロッパ)などと比べると1/6程の流通量
日本人は新築思考の考えが強く、海外と比べても中古物件の人気が低いことが分かります。また日本人が中古物件を避けるのは以下のような理由が挙げられます。
- 隠れた不具合が心配だった
- 耐久性や断念性など品質が低そう
- 給排水管などの設備の老朽化が懸念
これから日本は少子化に向かい、建物の空き家率は年々増えていくことが予想されます。
そんな中で新築マンションが次々と建てられていますが、将来、供給過剰になることは目に見えていますし、既にそうなっている地域もたくさんあります。
そう考えると中古物件市場が活性化することは不動産市場全体にとっても、とても大きな意味があると考えられます。
なおこれらの情報は国土交通省の「改正宅地建物取引業法の施行について」でより詳細にまとめられています。
インスペクションで得られる効果
そもそもインスペクションとは住宅の専門家であるホームインスペクター(住宅診断士)が第三者として中立的な立場で住宅の劣化状況や欠損などを診断します。
中には物件を少しでも高値で売買するために仲介会社が指定する診断業者を紹介し精度が低く妥当性の無い診断をされる場合もありますが、販売業者が特に根拠も無く「この物件は中古ですが品質の高い良い物件ですよ」って言葉を鵜呑みにするよりは少しは品質を担保できているような気もします。
不動産仲介会社の品質に対する説明はどこまで信用できるのか疑問なところもあります。
逆に第三者性を強調するために「自社が売主となる住宅については診断を行わない」としている業者も沢山あり、どちらかと言えばこちらの方が信憑性が高いと言えます。
こちらも、平成25年に国土交通省が「既存住宅インスペクション・ガイドライン」を定めています。
ガイドラインの内容をちゃんと守ることで住宅診断に対する共通認識が共有されますし、正確な情報を元に適正価格で売買されることで住宅市場の健全化にも繋がります。
中古物件購入の不安が少なくなる
中古住宅の物件の状態を正確に把握できることで購入希望者としては嬉しいことです。
第三者的な視点から住宅インスペクションにより診断を受けることで、現状の物件状況をより細かく把握できます。
素人の目線では当然ですが大した知識もなくどうしても細かいところまではチェックできないため有難い情報となります。
住居用住宅として家族で住む場合は「自分だけ納得できれば中古で良い」と言う訳にもいかないです。一緒に住む家族全員が少しでも不安なく生活するためにも客観的に説明しやすくなりますし、そうすれば価格の妥当性にも納得できるため無理に新築物件にこだわる必要も無くなるかもしれませんね。
また投資用物件の場合でも「良い物件だけどリスクもあるかも?」と思う場合の判断基準になるかもしれません。
購入後に予想外の修繕工事が続けば想定以上に利回りは悪くなってしまい住宅経営に大きな影響を与えますが、事前に状況が把握できればその後の事業計画の精度も上がります。
もし改修が必要な場合も修繕費用や修繕時期についての情報があれば購入後にどれ程準備金が必要になるかや資金の積立計画などにも参考になるはずです。
結局、何にリスクを感じてどこにコストを掛けるかは自己判断であり自己責任ですが、ホームインスペクターの需要は徐々に増えていくはずです。
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