ふるさと納税を利用する上で、絶対に把握しておきたいのは「税金が控除される上限額」です。
基本的にふるさと納税は節税対策として利用されるはずなので、控除される上限額を超えてしまえば、そのお金は無駄になります。
今回はふるさと納税により所得税や住民税が控除される仕組みを解説した上で「自分の年収ならどの程度までが免除されるのか?」について計算してみたいと思います。
- ふるさと納税により免除される上限額を知りたい人
- ふるさと納税により所得税や住民税が控除される仕組みを理解したい人
ふるさと納税の注意点
まず始めに理解しておきたい注意点が一つあります。それは、ふるさと納税では「年間で納税する全ての所得税と住民税が免除される訳では無い」ということです。
控除の仕組みとは?
ふるさと納税を活用することで、寄付した金額の一部が所得税や住民税から控除されます。
ですが、そもそも「控除」とは、自分が納めた税金の一部が還付される仕組みのことです。
なので、収入が多い人なら控除される上限額が大きくなりますし、逆に収入が無ければそもそも納税もしていないはずなので、ふるさと納税の恩恵を受けることができません。
また、所得税や住民税は年収を基準として計算されるのでは無く「給与からさまざまな控除が差し引かれた課税所得額」を基準として計算されます。
そのため、同じ「年収400万円の会社員」でも家族構成やその他の控除額により上限額が微妙に変わるわけです。
仮に会社員の場合であれば給与から給与所得控除や社会保険料控除、基礎控除などを差し引いた金額が課税所得額となります。
控除される上限額を理解しよう
ふるさと納税で所得税や住民税が控除される際の注意点は以下の3点です。
- 寄付した金額のうち2,000円を超える部分が控除される
- 控除対象額は総所得金額の30%が上限である
- 特例控除額は住民税所得割額の20%が上限である
「総所得金額の30%が上限」や「住民税所得割額の20%が上限」については年収や家族構成により大きく変わります。専門用語が出てきて少し難しいと感じるかもしれませんが、今のタイミングでは無視して頂いても大丈夫です。
ただ「寄付した金額のうち2,000円を超える部分が控除される」ことは、ふるさと納税を活用して控除する上でもっとも大切なポイントなので、絶対に覚えておいて下さい。
ちなみに、会社員の場合「会社から支給される給与」と「ふるさと納税によって控除される上限額」は以下のようなイメージになります。
独身または共働き | 夫婦(配偶者所得無し) | |
---|---|---|
300万円 | 28,000円 | 19,000円 |
400万円 | 42,000円 | 33,000円 |
500万円 | 61,000円 | 49,000円 |
600万円 | 77,000円 | 68,000円 |
700万円 | 108,000円 | 86,000円 |
800万円 | 129,000円 | 120,000円 |
900万円 | 151,000円 | 141,000円 |
1,000万円 | 176,000円 | 166,000円 |
収入が多い人は、その分、沢山の税金を納めています。なので、ふるさと納税によって控除される税金の金額も当然大きくなります。
ふるさと納税の申請方法
ふるさと納税の申請方法には「ワンストップ特例制度」と「確定申告制度」の2種類に分けられます。
ワンストップ特例による申請と確定申告による申請では「控除される上限額」には違いがありませんが、「寄付金が控除される仕組み」が微妙に変わります。
ここからは具体的な計算方法を解説します。
少し複雑な仕組みになっていますが、この計算方法が理解できれば、寄付金が控除される上限額に対する理解が一層高まります。一行ずつしっかり読んで頂ければ必ず理解できるよう分かりやすく説明しているので、是非、読んで頂ければと思います。
例えば以下のような属性の会社員がいたとします。
- 年収400万円の既婚者(子供は無し)
- 給与所得控除
- 124万円の控除
- 社会保険料控除
- 30万円の控除
- 基礎控除
- 所得税控除…48万円
- 住民税控除…43万円
- 配偶者控除…38万円
- 所得税控除…38万円
- 住民税控除…33万円
- 生命保険控除…8万円
- 給与所得控除
- 課税対象額
- 所得税…152万円
- 住民税…162万円
- ふるさと納税の寄付金額…12,000円
※計算を分かりやすくするため数字を少し丸めています。
上記のような会社員の人が12,000円分のふるさと納税を寄付した場合の具体的な計算方法について解説します。
また、本来であれば住民税は市民税(6%)と県民税(4%)に分けられますが、少しでも計算を簡略化するために、住民税(10%)として計算します。
なお、基礎控除や給与所得控除については税制改正により数年ごとに変更されることがあります。直近では2020年から税制改正されるため、興味のある人は是非確認して頂ければと思います。
ワンストップ特例による申請
ワンストップ特例による申請には以下のような特徴があります。
- 会社員のような確定申告を提出しない人が対象
- 会社員でも確定申告によりふるさと納税を申請することも可能
- 寄付先は5つの自治体までに制限される
- 寄付金を住民税からのみ控除される
当初、ふるさと納税を申請するためには確定申告をする必要があったのですが、2015年4月1日以降はワンストップ特例を利用することで、会社員や公務員のように普段確定申告を申請しない人にも人気が出てきました。
ワンストップ特例の場合、納めた寄附金額から2,000円を差し引いた金額が住民税から差し引かれます。また、控除される税金をもう少し細かくすると以下のように3種類に分けることができます。
- 住民税(基本控除分)
- 住民税(特例控除分)
- 住民税(申告特例控除分)
ここからは具体的な計算を進めていきます。
住民税(特例控除分)と住民税(申告特例控除分)については、急に計算方法がややこしくなってしまうため、混乱してしまうかもしれませんが、ワンストップ特約制度の計算の仕組みが理解できるように解説していますので、是非、諦めずに読んで頂ければと思います。
住民税(基本分)からの控除
住民税(基本控除分)の計算方法は以下の通りです。
- (寄附金の合計額-2,000円)×10%
具体的な計算は以下の通りです。
- (12,000円-2,000円)×10%=1,000円
住民税(基本控除分)はとてもシンプルな計算方法です。
寄付金の合計については、先程の「ふるさと納税の注意点」の2番目で解説した通り「控除対象額は総所得金額の30%が上限」になります。計算方法は以下の通りです。
- (年収ー給与所得控除)×30%
実際の値をもとに算出すると以下の通りとなります。
- (400万円ー124万円)=82.8万円
普通に考えるとまずありえないと思いますが、万が一、寄付額が上限額を上回った場合は総所得金額等の30%を寄付金の合計金額として計算することになります。
住民税(特例分)からの控除
住民税(特例控除分)の計算方法は以下の通りです。
- (対象寄附金の合計額-2,000円)×特例控除率
特例控除率については以下の通りです。
住民税の課税総所得金額-人的控除差調整額 | 特例控除率 |
---|---|
195万円以下 | 84.895% |
195万円超〜330万円以下 | 79.79% |
330万円超〜695万円以下 | 69.58% |
695万円超〜900万円以下 | 66.517% |
900万円超〜1,800万円以下 | 56.307% |
1,800万円超〜4,000万円以下 | 49.16% |
4,000万円超 | 44.055% |
なお、人的控除差調整額の対象となる控除には以下のような項目があります。
- 基礎控除
- 配偶者控除
- 配偶者特別控除
- 扶養控除
- 障害者控除
- 寡婦控除、寡夫控除
- 勤労学生控除
上記の会社員の場合、住民税の課税対象額(課税総所得金額から人的控除差調整額を差し引いた金額)は162万円になります。
- 400万円ー124万円ー30万円ー43万円ー33万円ー8万円=162万円
住民税の課税対象額が162万円なので申告特例控除の割合は84.895%になります。その結果、住民税(特例分)は8,490円となります。
- (12,000円-2,000円)×84.895%=8,490円
住民税(特例分)からの控除で大切なポイントになるのは、先程の「ふるさと納税の注意点」の3番目で解説した「特例控除額は住民税所得割額の20%が上限である」ことです。
住民税(特例控除分)の上限額は以下の計算方法で算出します。
- (住民税所得割ー調整控除)×20%=住民税(特例控除分)の上限額
住民税所得割は住民税の課税対象額の10%(市民税6%と県民税4%)なので、162,000円になります。
- 1,620,000円×10%=162,000円
一方、調整控除は住民税の課税対象額によって以下のように計算されます。実は厳密にはもう少し複雑なのですが、混乱してしまいそうなので、ひとまずこのように覚えておけば問題無いでしょう。
- 住民税の課税対象額が200万円以下の場合
- 所得税控除と住民税控除の差分の合計の5%
- 住民税の課税対象額が200万円超の場合
- 2,500円
そして、今回の例では「住民税の課税対象額が200万円以下」なので、調整控除は以下の計算方法で算出できます。
- (所得税と住民税の基礎控除の差額+所得税と住民税の配偶者控除の差額)×5%
その結果、調整控除の金額は5,000円であることが分かります。
- (5万円+5万円)×5%=5,000円
住民税所得割と調整控除の金額が分かったところで、実際の数字をもとに住民税(特例控除分)の上限額を算出してみます。
- 162,000円ー5,000円×20%=31,400円
つまり、住民税(特例控除分)は31,400万円以下に収まるようにしなければ控除されない金額(無駄になる寄付金)が発生してしまいます。

住民税(申告特例分)から控除
住民税(申告特例分)の計算方法は以下の通りです。
- 住民税(特例控除分)×申告特例控除の割合
申告特例控除の割合は以下の通りです。
住民税の課税総所得金額-人的控除差調整額 | 申告特例控除の割合 |
---|---|
195万円以下 | 84.895%分の5.105 |
195万円超〜330万円以下 | 79.79%分の10.21 |
330万円超〜695万円以下 | 69.58%分の20.42 |
695万円超〜900万円以下 | 66.517%分の23.483 |
900万円超 | 56.307%分の33.693 |
なお、住民税の課税総所得金額から人的控除差調整額を差し引いた金額は先程と同じ162万円なので、申告特例控除の割合は84.895%分の5.105になります。その結果、住民税(申告特例分)の計算方法は以下の通りとなります。
- 8,490円×5.105÷84.895=510円
住民税(申告特例分)の計算方法もかなり複雑になりますね。
ですが、もう一度「特例控除率の表」と「申告特例控除の割合の表」を見直して頂きたいのですが、申告特例控除の分母の部分(特例控除率と同じ割合)と申告特例控除の割合の分子の部分を合計すると必ず90になることが分かります。
- 84.895+5.105=90
- 79.79+10.21=90
- 69.58+20.42=90
- 66.517+23.483=90
- 56.307+33.693=90
つまりシンプルな言い方をすると、住民税(特例分)と住民税(申告特例分)を合計すると、必ず「対象寄附金の合計額-2,000円」の90%になることが分かります。
ワンストップ特例の控除額の合計
ワンストップ特例の控除額の合計は以下の計算方法で算出できます。
- 住民税(基本分)からの控除額+住民税(特例分)からの控除額+住民税(申告特例分)から控除額
つまり具体的な控除額は以下の通りになります。
- 1,000円+8,490円+510円=10,000円
最初にご説明していた「対象寄附金の合計額-2,000円」である10,000円と同じ金額になっていますね。
控除額の合計でポイントになるのは、先程「ふるさと納税の注意点」の2番目で解説した「控除対象額は総所得金額の30%が上限である」ことです。
控除対象額の上限額については以下の計算方法で算出します。
確定申告による申請
確定申告による申請には以下のような特徴があります。
- 個人事業主のような確定申告を提出する人が対象
- 寄付金を所得税と住民税から控除する
ワンストップ特例では、寄付金は住民税からのみ控除されますが、確定申告による申請の場合、寄付金は所得税と住民税の両方から控除されます。
基本的には会社員の場合、ワンストップ特例により寄付金を控除できるため、わざわざ確定申告をする必要はありません。ただ、それぞれの違いを比較するため、あえて確定申告した場合の控除の仕組みについても解説することにします。
確定申告による申請の場合、以下のように3種類に分けることができます。
- 所得税控除
- 住民税控除(基本文)
- 住民税控除(特例分)
所得税はその年の所得税から控除(還付)されることに対し、住民税は翌年度の住民税から控除(減額)される仕組みです。
所得税からの控除
所得税控除の計算方法は以下の通りとなります。
- (ふるさと納税金額-2,000円)×所得税の税率
所得税の税率は課税所得額が多ければ、その分税率も大きくなります。超過累進制度ってやつですね。課税所得額が400万円の場合、所得税の税率は20%となるため控除される所得税は5,600円となります。
- (12,000-2,000)×20%=2,000円
課税対象額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
~195万円以下 | 5% | 0円 |
195万円超~330万円以下 | 10% | 97,500円 |
330万円超~695万円以下 | 20% | 427,500円 |
695万円超~900万円以下 | 23% | 636,000円 |
900万円超~1,800万円以下 | 33% | 1,536,000円 |
1,800万円超~4,000万円以下 | 40% | 2,796,000円 |
4,000万円超 | 45% | 4,796,000円 |
住民税からの控除(基本分)
続いて住民税控除の基本分です。計算方法は以下の通りとなります。
- (ふるさと納税金額-2,000円)×10%
住民税の方は収入金額に関わらず10%なので控除額は2,800円ですね。
- (12,000-2,000)×10%=1,000円
住民税からの控除(特例分)
最後に住民税控除の特例分です。計算方法は以下の通りとなります。
- (ふるさと納税金額-2,000円)×(100%-10%(基本分)-所得税率)
計算式を見ると少しややこしそうに見えますが、寄付した金額から自己負担分の2,000円を差し引き、所得税と住民税の基本分を差し引いただけです。要は「残り」ってことですね。
- (12,000円-2,000円)×(100%-10%-20%)=7,000円
そして、これらを合計すると結局、寄付した金額から自己負担額の2,000円を差し引いた28,000円になるんですね。
- 2,000円+1,000円+7,000円=10,000円
こちらも最初にご説明していた「対象寄附金の合計額-2,000円」である10,000円と同じ金額になりました。
ちなみに今年(2016年)にふるさと納税で12,000円寄付した場合、翌年(2017年)の確定申告後(3月~4月頃)に所得税が2,000円還付され、その後(5月頃)には住民税が8,000円(1,000円+7,000円)が控除される訳なんです。
ただ何度も言いますが、寄付した分がしっかり返ってくる(還付・控除される)ことが大切なので、自分の収入をもとに寄付した金額(2,000円差し引き後)が控除させる上限額を超えていないかをしっかり確認して下さいね。
寄付先の自治体は自分で探そう
ちなみに去年分も含めて人気ランキングなどが沢山のサイトで公開されてるので、一度覗いてみると良いと思います。
人気の基準としては主に出費(寄付金額)に対する還元率(お礼の品のランク?)を基準としたものが多いイメージでした。
ふるさと納税は控除額が住民税所得割の2割程になった2016年頃に一気に普及しました。当初、一般的に還元率は寄付金の40%~50%程でしたが、2019年からは寄付金の30%程までになってしまいました。
ただし、それでも還元率が高い自治体もあるのでいろいろ探してみて頂ければと思います。
僕のように海の幸やお肉が欲しい人もいれば、旅行プランなどのサービスに魅力を感じる人もいるので、ランキングはあくまで参考として「どの地域に思い入れがあるのか?」「何が欲しいのか?」「税金控除の限度額はだいたいどれくらいか?」を中心にいろいろ考えたら良いと思います。
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